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高市早苗首相の意向で、福岡の自民県議39人の公認が止まった──線引きは「現職」、新人には出せる

2026年8月28日の午前10時すぎ、東京・永田町の自民党本部。予定20分の面会は45分に延びた。党の側に座ったのは、鈴木俊一幹事長、萩生田光一幹事長代行、そして井上貴博首相補佐官。井上補佐官は福岡県連の所属だが、この日は党本部の側にいた。

向かい合った自民党福岡県連の松本国寛会長と樋口明幹事長に、鈴木幹事長はこう通告する。「次期統一地方選において、現時点で公認証をお渡しすることはできない」。

「自浄作用を発揮してほしい。公認できる環境を整えてほしい。」

── 鈴木俊一・自民党幹事長/2026年8月28日、時事通信の取材に

党本部が、地方議員の公認を止めた。対象は福岡県議会の自民党県議団39人である。

8月31日には、その線引きも明らかになった。読売新聞によれば、松本会長は30日の臨時総会で、高市早苗首相(党総裁)の意向としてこう告げられたと説明している。「現職(県議)には公認を出せない」。

現職。つまり、いま議席を持っている39人が対象で、新人はこの線の外側にいる。

自民党の県議選の公認は、誰がどう決めるのか通常は県連が決めて党本部に申請するが、2026年8月28日に党本部が現職への公認を止めた。県議選の「公認証」は、誰の手を通るのか通常の流れ(自民党鳥取県連が公開している内規による。福岡県連の内規は公開されていない)立候補予定者支部長が申請する県連が選考して決定選挙対策委員会で選考し、県連が決める福岡の県連会長は2015年からずっと県議党本部に申請「公認権は党本部にある」公認証が出る前回は選挙の前年11月末2026年8月28日に起きたこと──党本部が、県連からの申請を待たずに止めた止められた側 現職39人自民党県議団の所属議員(2026年8月時点)金銭授受で名指しされているのは、うち3人疑惑が出ている議員・正副議長の経験者は当選4回以上線の外側 新人「現職には公認を出せない」(高市首相の意向として県連会長が説明。2026年8月30日の臨時総会)新人を立てる余地は、党本部側に残っている公認が出る条件=県連の自浄作用と、金銭授受を調べる第三者委員会の結果。その第三者委員会は、委員も報告時期もまだ決まっていない残り時間=前回どおりなら、現職の公認が出るのは2026年11月末ごろ。統一地方選は2027年4月直近の日程 9月5日=国会議員も入れた県連執行部会(体制刷新を含めて結論を出すと会長が表明)      9月25日告示・10月4日投開票=前議長の辞職に伴う県議補欠選挙(筑後市選挙区・任期は半年余り)

この記事は、その公認証がどこで止まったのかを追う。止めた側と止められた側の言い分、そしてなぜ党本部が「地元に任せる」という原則を自分から破ったのかを、日付の順に並べる。


「公認権は党本部にある」

自民党の地方議員の公認は、実務としては県連が決めて党本部に申請する。自民党鳥取県連が公開している内規では、県連の選挙対策委員会で選考し、支部長が申請書を出し、県連が決定して党本部に推薦申請する、という順で進む。福岡県連の内規は公開されていないが、大枠は同じとみてよい。

だからこそ、鈴木幹事長は8月25日まで「党都道府県連には大きな自治がある」という立場を崩していなかった。

その姿勢が、28日に変わる。産経新聞によれば、鈴木幹事長は面会後の取材でこう述べている。「公認権は党本部にある。(公認が)できるような環境を整えてほしい」。

県連が決めて申請するという手順の上に、党本部が公認証を出すかどうかを決める権限が乗っている。その権限を、党本部が先に行使した。県連からの申請を待たずに、出さないと言ったのである。

対象は「県議」に絞られている

共同通信が伝えた党幹部の言葉は、こうである。「今のような事態であれば、特に県議に対して統一地方選の公認証を出せる状況ではない。自浄能力に期待する」。統一地方選では市議選も同時に行われるが、名指しされたのは県議だった。福岡市議や北九州市議は、この線の外側にいる。


線引きは「現職」だった

通告から2日後の8月30日、自民党福岡県議団は臨時の議員総会を開いた。非公開の総会のあと、松本会長が報道陣に語った内容を、読売新聞が31日に伝えている。

党本部で告げられたのは、高市首相(党総裁)の意向として、この一言だったという。

「現職(県議)には公認を出せない」

── 松本国寛・自民党福岡県連会長が説明した、党幹部からの通告(2026年8月30日の臨時総会後/読売新聞)

対象は現職である。疑惑の当事者かどうかではなく、いま議席を持っているかどうかで切られている。当選1回の議員も、金銭の話に一切関わっていない議員も、全員が同じ線の内側に入る。裏返せば、新人は線の外にいる。党本部は、福岡で自民党の看板を貸す相手を現職以外に求める余地を、残したことになる。

疑惑が出ているのは当選4回以上の議員である

読売新聞によれば、疑惑が取り沙汰されたり正副議長を経験したりしているのは、いずれも当選4回以上の議員である。正副議長ポストは多くが4期目の議員が務めてきた。1期目・2期目の若手は、高額と批判された海外活動に参加したこともない。それでも線は「現職」で引かれた。当然、若手からは反発が出る。

発言者 通告を聞いた反応
佐藤楓県議
(当選1回)
「えっ、公認もらえないんですか」「公認を前提に県議選のポスターを準備していた。自民以外で政治をやるつもりはないので、政治家を辞めなきゃいけないのかなと思う」「私自身あまり関係ない場所にいるのに、そういう判断が下されるのはショックです」
秋田章二県議
(当選5回)
「全然知らないです。全く聞いていません。本当なの?」
渡辺勝将県議
(自民党県議団会長)
「公認が出ないとなれば、影響が大きい。(疑惑に)関係ない議員も含まれるのか」「党本部として『こういう自助努力をして欲しい』というしっかりしたものを伝えていただきたい」

西日本新聞の取材には、別の若手から「巻き込まれ事故だ」という言葉も出た。2期目の議員は「全員が公認をもらえないのはあんまりだ。党本部は線引きを考えてほしい」と語っている。

そして県連会長は、若手だけの救済を求めた

8月30日の緊急総会のあと、松本会長は記者団にこう述べた。

「1期・2期の若い先生方は、こういう方々だけには、まずは公認の凍結を解除していただきたい。」

── 松本国寛・自民党福岡県連会長/2026年8月30日、TNCテレビ西日本の取材に

線引きの向きに注目したい。1年前の東京都議選で党本部が引いた線は「会派の幹事長経験者」、つまり上から切る線だった。福岡で県連会長が求めているのは、1期・2期だけ先に外してほしいという下から助ける線である。同じ問題に、逆側から線を引こうとしていることになる。

そして松本会長は、金銭を受け取ったと証言されている5人のうちの1人である。本人は否定している。5人のうち蔵内勇夫氏と中尾正幸氏はすでに辞職し、残る3人は現職である。

臨時総会では、若手から会長本人の進退を問う声も上がった。松本会長は辞任について「そういう声があれば、そのことも踏まえて考えていかなければならない」と述べ、9月5日に国会議員を含む県連の執行部会を開いて、体制刷新も含めて「速やかに結論を出す」としている。


なぜ党本部が、原則を破ってまで動いたのか

党本部は、この疑惑が表面化してからずっと静観していた。地元に任せる、という立場である。姿勢が変わるまでに、いくつかの出来事があった。

日付 出来事
2026年7月22日 全国都道府県議会議長会。蔵内議長が陳謝したが、複数の他県の議長が公然と批判。複数の自民関係者が「潮目が変わり、福岡だけの問題ではなくなった」とみるのがこの日。翌23日、議長会会長として官邸を訪れた蔵内氏と高市首相が面会したが、疑惑には触れなかった
8月7日 参政党の神谷宗幣代表がJR博多駅前で「県議入れ替え大作戦」を掲げ、県議選に30人の候補を擁立する構想を表明。疑惑が報じられている自民議員の選挙区を中心に立てる考えを強調した
同じ8月7日 自民党県議団の総会では、蔵内氏ら幹部の責任を問う声が一切上がらなかった。ベテラン県議は西日本新聞に「本当は辞めてほしいが、怖くて言えない」と語っている
8月11日ごろ 官邸筋によれば、高市首相が周囲に「福岡はええかげんにして」と漏らしていると伝えられる
8月17日 議長への辞職勧告決議案が、採決される前に動議で止まる
8月25日 蔵内氏が議員辞職。鈴木幹事長はこの日まで「党都道府県連には大きな自治がある」との立場
8月28日 党本部が「公認証を出せる状況ではない」と通告

ひとつは、福岡だけの問題ではなくなったこと

7月22日の議長会で、他県の議長たちが公然と批判した。西日本新聞によれば、複数の自民関係者がこの日を「潮目が変わった」日と見ている。ある中堅の国会議員は「地元に任せるよりも、党本部が腰を上げた方が傷は小さくて済むのでは」と訴えていた。鈴木幹事長が28日の通告で口にしたのも同じ論理である。「こうした状況が全国にも影響してはいけないという、そういう思いを党本部としても持っております」。

もうひとつは、その議席を狙っている党があること

参政党は8月7日、来春の県議選に30人の候補を擁立する構想を掲げた。神谷代表は「疑惑が報じられている自民議員の選挙区を中心に立てる」と明言している。日本維新の会も、①議員定数の3割削減 ②議員報酬の3割削減 ③海外視察禁止──を公約に掲げ、吉村洋文代表は20人以上の擁立を目指すと表明。読売新聞によれば国民民主党も10人以上を掲げている。維新は前回の統一地方選で600議席超を獲得しているが、福岡県議会(定数87)の現職はいま1人だけである。

この構図について参政党の神谷代表は、自民の「公認を出せない」を「延焼避ける建前」と評し、選挙には「プラスにもマイナスにも働かない」との見方を示している。止めた側、止められた側、狙う側。3つ並べて初めて、この通告が何のために出たのかが見えてくる。


県議会は、自分では止まらなかった

8月17日の臨時会に、2020年に議長を務めた吉松源昭県議が、蔵内議長への議長職の辞職勧告決議案を提出した。吉松県議は、正副議長のポストに就く前のおよそ1年半で自民党県議団の幹部に総額およそ2840万円を渡したと、実名で告発している本人である。

その決議案が採決にかかろうとしたところで、自民党県議団の林泰輔県議が動議を出した。「重大な決断を下すには提案内容、時間ともに不十分であり、採決を諮ることは極めて拙速であります」。議事を進めていた板橋聡副議長が起立を求め、こう宣言する。「起立多数であります。よって、決議案の採決を中止することの動議は可決されました」。

議長を辞めさせるべきか。議会の答えは、記録に残らなかった。

誰が起立したのかを、議会は記録していない

起立採決は、賛成が多いか少ないかを議長が目で判断する方式で、何人が起立したかを議会が記録する義務はない。県議会事務局も、人数は数えていないと説明している。数えたのはテレビ局だった。FBS福岡放送とTNCテレビ西日本が議場で議員をひとりずつ目視して、84人のうち49人という数と、全員の会派と氏名を出した。2社の名簿は完全に一致している。以下がその名簿で、敬称は略した。

会派 会派の方針 起立して賛成した県議(敬称略)
自民党県議団
38人中37人
拘束あり 佐藤楓、宮川宗一郎、波多江祐介、小緑貴吏、横尾政則、林泰輔、宮原伸一、花田尚彦、高橋義彦、永川俊彦、笠和彦、吉田健一朗、井上正文、大田満、吉田浩一、江頭祥一、渡辺勝将、浦伊三夫、井上博行、江口善明、神崎聡、川端耕一、香原勝司、桐明和久、中牟田伸二、野原隆士、大島道人、秋田章二、井上順吾、樋口明、長裕海、松尾統章、松本国寛、原口剣生、加地邦雄、井上忠敏、今林久
民主県政県議団
20人中10人
自主投票 吉岡玲子、亀崎大介、坪田晋、田中雅臣、豊福るみ子、山本耕一、井上博隆、原中誠志、原竹岩海、佐々木徹
無所属の会
2人中2人
拘束なし 新開嵩将、新開崇司

自民党県議団の37人には、会派として「賛成するよう拘束」がかかっていた。TNCによれば、この会派で党議拘束がかかったのは24年で初めてである。賛成しなかったのは、授受を証言した江藤秀之県議ただ1人だった。

この37人の中には、現金を受け取ったと名指しされている当事者が3人いる。松本国寛、松尾統章、原口剣生の各県議である。3人はいずれも授受を否定している。

この37人はそのまま、いま公認を止められている39人とほぼ重なる。党本部が「自浄作用を発揮してほしい」と言った相手は、辞職勧告の採決を止めた側の人たちである。

民主県政県議団の10人には、拘束がなかった

残る12人には、会派の拘束がかかっていない。民主県政県議団は自主投票で、無所属の会にも拘束はない。FBSによれば、賛成に回った10人は原中誠志会長をはじめ副議長の経験者が中心だった。この採決のあと、動議に反対した議員を中心に9人が8月27日に会合を開き、9月2日までに会派を離脱するかどうかの方針を決めるという。第2会派も割れている。

そして8月31日、拘束に従わなかった1人が処分された

党本部が「自浄作用を発揮してほしい」と通告した3日後の8月31日、自民党県議団が決めたのは、この動議で拘束に従わなかった江藤秀之県議への処分だった。

渡辺勝将会長が口頭で伝えたのは、8月31日から12月定例会の閉会日までの会員資格停止。江藤県議は議員総会に出られなくなる。理由は、拘束に従わなかったことと、直前の議員総会で態度を示さなかったことだった。「最終的には当日3回の議員総会においても何の発言もされてない」。会派内には除名を求める声もあったが、渡辺会長は「もう一度頑張ってほしいという期待も込めて」資格停止にとどめたとしている。

江藤県議は承服できないと反論した。

「蔵内前議長が議員辞職まで追い込まれた最大の要因は、あの中止動議によって採決から逃れたことにあります。その結果、党本部および高市総裁から全員非公認という極めて重い警告を受ける事態を招きました。党本部が県連に強く求めているのは組織の自浄作用です。」

「今回の処分は自浄作用を果たすどころか、都合の悪い意見を排除するものであり、党本部の意向に真っ向から逆行しています。」

── 江藤秀之県議/2026年8月31日、KBC九州朝日放送・FBS福岡放送の取材に

態度を示さなかったという理由についても、江藤県議は「あの時は5分前に動議が出たんですよ」と反論した。党本部が求めた自浄作用に対して、会派が最初に出した答えがこれである。

動議を出したのは、辞職勧告を出された議長の元秘書だった

動議を出した林泰輔県議は当選1回である。西日本新聞が選挙のときに載せた経歴には、こうある。「動物福祉協会事務局長[元]獣医師会長秘書」。蔵内前議長は獣医師で、2013年から日本獣医師会の会長を務めている。林県議は、その元秘書である。動議のあと、取材にこう答えた。

「長くそばに仕えていたので(蔵内議長が)どういう人間かも分かっていますし、これほどまで犯罪者のように扱われている状況に対しては、忸怩たる思いもあります。」

── 林泰輔県議(自民党県議団)/FBS福岡放送の取材に(2026年8月17日)

県連会長が党本部に救済を求めた「1期・2期の若い先生方」。その1期目から、この動議は出ている。

動議の4日後、TNCが県民1000人に行った緊急世論調査では、この動議について「納得できない」が75%、来春の統一地方選に「影響する」が約8割だった。


そもそも、この議会に金品授受を禁じる条例はなかった

8月26日、福岡県議会に政治倫理条例の素案が示された。公正を疑われるようなお金や品物のやりとりを禁止し、疑いがあれば弁護士ら学識経験者でつくる審査会に審査を請求できる、という中身である。

素案が示されたということは、それまでこの県議会に政治倫理条例はなかったということである。公明党県議団の表現を借りれば「最低限のルールすら存在していなかった」。議長の椅子に2000万円から3000万円という値段の噂がついていた議会に、金品のやりとりを禁じる条文が1つもなかった。条例検討会議の座長は「急いで9月議会中に制定いたします」と述べている。

歯止め 実際に起きたこと
政治倫理条例 存在しなかった。素案が示されたのは疑惑の発覚後、2026年8月26日
会派内の追及 8月7日の県議団総会で、幹部の責任を問う声は一切上がらなかった
辞職勧告決議 採決そのものが中止された。賛否は記録に残っていない
第三者委員会 当時の議長が「時間がかかる」と否定的だった。批判を受け8月4日に方針転換。委員も報告時期も未定
議会と県庁の距離 課長以上の県幹部186人のうち96人が、県議の質問を代わりに作成していたと認めた(西日本新聞、2026年7月。県の公表資料そのものには当たれていない)
公費のチェック 県議の任意団体である議員連盟に、県が毎年上限1200万円の補助金を出していた。遅くとも1987年から39年間

39年間、誰も止めなかった1200万円

毎日新聞と共同通信によれば、福岡県は「議員連盟事業補助金」として、県議の任意団体に毎年上限1200万円を予算計上していた。対象は日米友好議連など13議連で、使い道は旅費、交際費、消耗品費など。毎日新聞が収支決算書を入手したところ、多くは海外視察の関連費だった。47都道府県を調べた結果、予算化していたのは福岡県だけである。総務省の担当者は「自治体が議連への補助金を予算計上するのは聞いたことがない」と述べている。

FBS福岡放送によれば、支給は遅くとも1987年から続いていた。蔵内前議長が県議に初当選したのは、その1987年4月である。議会事務局は「会費での運営が基本となる議連に、税金から公費を充てるのは適当ではない」として今年度の支出を停止し、廃止する方針を固めた。39年続いた支出を止めたのは、議員でも議会でもなく議会事務局である。


止まると、何が起きるのか

公認を止められた側は、実際に何を失うのか。1年前に答えが出ている。2025年6月の東京都議選で、党本部は都議会自民党の裏金問題により6人を非公認にした。線引きは「会派の幹事長経験者」だった。

2025年6月 東京都議選 結果
非公認になった都議 6人
その結果 3人が落選、2人が当選
選挙のあと 非公認で当選した2人を含む3人を、党が追加公認した
自民の議席 18議席。追加公認を含めても21議席で、2017年の23議席を下回り過去最低

非公認は、落選させる装置ではない。選挙が終わるまで党の名前を貸さない、というだけの装置である。当選すれば、名前は戻ってくる。

ただし別の数字も出る。裏金に関与した現職・元職17人が立候補し、5人が落選。自民は第1党の座を都民ファーストの会に明け渡している。公認の有無より、疑惑そのものが票を削っている。

東京と福岡では規模が違う。東京の非公認は6人で、党は残りに公認を出した。福岡で告げられたのは「現職には出せない」で、対象は39人。そして線の外に新人がいる。同じ選挙区に自民の新人が立てば、非公認の現職はその新人と争うことになる。西日本新聞の取材に、若手県議はこう語っていた。「党公認がなければ、支持団体の推薦が得られず、別の候補に公認が出る可能性すらある」。もっとも「公認をもらっても、むしろマイナスに働く状況だ」という声も県議団の中から出ている。


2年前は、裏金議員の7割が公認された

時期 対象 党本部の処理
2024年10月
(衆院選)
派閥裏金に関係した議員 34人を公認、非公認は12人。およそ7割が公認を得た。線引きが曖昧だと批判された
2025年6月
(都議選)
都議会自民の裏金 非公認6人。線引きは「会派の幹事長経験者」
2026年8月
(来春の県議選)
福岡の自民県議 現時点の公認は0人。線引きは「現職」。判断の基準は第三者委員会の結果で、瑕疵や問題がないと分かった県議には公認を出すとしている

2024年の非公認は、誰を切って誰を残すかを党が自分で決めた。だから「曖昧」と言われた。今回は逆で、いったん現職全員を止めたうえで、個別の判断を第三者委員会という外部の調査に預けている。切る側の裁量を、自分から狭めた形である。

切った先は、副総裁の地元だった

鈴木俊一幹事長は麻生派に所属し、実の姉が麻生太郎副総裁の妻である。そして福岡は、その麻生副総裁の地元にあたる。

西日本新聞によれば、蔵内氏が議員バッジを外した8月25日、麻生副総裁は首相官邸で高市首相と昼食をとったが、この話題には触れなかったという。麻生氏の側近は、公認権をちらつかせるやり方を「やり過ぎだ」と漏らしていると伝えられている。

高市首相および党関係者の発言として本稿が引いたもののうち、「福岡はええかげんにして」「私の名前を使って二度と選挙はさせない」および麻生副総裁まわりの記述は、いずれも西日本新聞が関係者・官邸筋への取材をもとに報じたもので、記者会見など公開の場での発言ではない。音声・映像は確認していない。かっこ内は同紙の補足である。一方、「現職には公認を出せない」は、県連会長が総会後の取材に対して自ら説明した内容である。

身内の側から「やり過ぎだ」と言われる中で、義理の弟にあたる幹事長が、義兄の地元の県議39人の公認を止めた。身内に甘い、という批判がいちばん通りにくい形の判断である。

公認とは、総裁の名前を貸すことである

高市首相の言葉として、西日本新聞はこう伝えている。「党総裁である私の名前を使って二度と選挙はさせない」。関係者を通じた伝聞であり、会見での発言ではない。

伝聞であることを差し引いても、この言い方は制度の実態に合っている。政党には、地方議会の議員を辞めさせる権限がない。辞職勧告決議に強制力がないのと同じである。政党が持つ実効的な手段は、選挙のときに自分の名前を貸すか貸さないかしかない。公認証とは、その貸し借りの証書で、議会が自分では止まらないと分かった時点で、外から効く装置はそれしか残っていなかった。


時計は、あと3か月しかない

時期 予定されていること
2026年9月2日まで 民主県政県議団の一部議員が、会派を離脱するかどうかの方針を決める
9月5日 自民党福岡県連の執行部会。国会議員も入る。県連の体制刷新を含めて「速やかに結論を出す」と会長が表明している
9月中 政治倫理条例のパブリックコメント。9月議会中の制定を目指す
9月25日告示
10月4日投開票
県議補欠選挙(筑後市選挙区・被選挙数1)。当選者の任期は2027年4月の任期満了まで、半年余り
11月末ごろ 前回(2022年)は、この時期に現職の公認が出た
2027年4月 統一地方選(福岡県議選・定数87)

公認の判断材料は第三者委員会の結果だが、その第三者委員会は8月4日に設置の方針が決まった段階で、委員も報告時期も公表されていない。前回と同じ日程で公認を出すなら、残りはおよそ3か月しかない。

いちばん近い試金石は10月4日にある。前議長が辞めた議席を選ぶ補欠選挙で、自民党が公認証を出すのかどうか。ここまでの報道では、その方針は明らかになっていない。

この補選にはもうひとつの意味がある。選挙コンサルタントの大濱崎卓真氏が指摘するとおり、当選者の任期は半年余りで、統一地方選の前哨戦になる。そして半年後、その当選者は「現職」になっている。


公認を出さないことは、責任を取らせたことではない

蔵内氏は8月25日に議員を辞職した。中尾氏も辞職している。だが、辞職は説明ではない。

蔵内氏は記者会見を開かないまま議席を手放した。自民党県議団のベテラン県議は西日本新聞の取材に「説明責任がある。あれで終わらせてはいけない」と述べている。大濱崎氏も、辞職によって第三者委員会の調査への協力義務が曖昧になる懸念を指摘した。

【論評】議会の内側の歯止めが全部止まっていたなかで、外から効く手段を使った党本部の判断は、評価されてよい。2年前の衆院選では裏金に関係した議員のおよそ7割が公認を得た。今回は現職全員をいったん止め、線引きを外部の調査に預けている。しかも切った先は副総裁の地元であり、幹事長にとっては義兄の地元でもある。身内に甘くしないという意味で、これ以上分かりやすい形はない。

【論評】ただし、これで終わりにしてはならないことも同じだけ確かである。1年前の都議選では、非公認だった2人が当選し、選挙のあとすぐに追加公認された。第三者委員会の結論が出ないまま、あるいは出ても曖昧なまま選挙が終わり、そこで名前が戻るのだとすれば、今回の判断は選挙対策と区別がつかなくなる。判断の質は、11月末に何を根拠に誰へ公認を出すかで決まる。

【論評】そしてもうひとつ。これは福岡だけの話なのか。議連補助金を予算化していたのは福岡だけだったが、政治倫理条例のない議会も、質問を役所が書く慣行も、福岡が最初に見つかっただけかもしれない。

党本部は「自浄作用を発揮してほしい」と言った。その相手は、8月17日に採決を止めた側の人たちであり、その会派が最初に処分したのは、止めることに反対した1人だった。会社の中で同じことが起きて、身内の処分を決める会議が中止になったとしたら、あなたはその会議に、もう一度決めさせますか。


この記事で使った資料と、その確度

★が低いから使わないという意味ではない。★2でも用途を限定すれば材料になる。どの資料を何に使い、何に使わなかったかを並べる。

確度 媒体 資料 評価の理由
★4 読売新聞
2026/8/29・8/31
「現職には公認を出せない」党幹部から告げられたと説明自民県議団会長「公認が出ないとなれば影響大きい」 この記事の柱。線引きが「現職」であること、9月5日の県連執行部会、「疑惑が出ているのは当選4回以上」、補選の日程、県連会長が2015年以降ずっと県議であること。会長が総会後の取材で自ら説明した内容なので、非公開の場の伝聞より強い
★3 時事通信
2026/8/28
自民、福岡県議選公認に条件 県連に「自浄」要求 鈴木幹事長の「自浄作用を発揮してほしい」を鉤括弧で確認できる。同席者と、執行部が静観から転じた経緯も同じ記事
★3 産経新聞
2026/8/28
鈴木幹事長、福岡県議への公認「出せる状況でない」 「公認権は党本部にある」の一言はここ。党則に地方議員の公認手続きの条文が見当たらないなか、権限の所在を当事者が明言した記録として使った
★3 TNCテレビ西日本
2026/8/28・8/30
「公認証を出せる状況ではない」党本部が県連幹部に通告緊急総会「1期・2期は公認凍結を解除してほしい」 通告そのものの一次報道と、県連会長の発言を映像込みで確認できる2本。会長辞任と若手救済が同じ発言の中にあることが分かる。県議本人の反応(テレQRKB)も同水準で扱った
★3 西日本新聞
2026/8/11
「福岡はええかげんにして」高市首相が周囲に 党本部が動いた引き金が一本にまとまっている。7月22日の議長会、参政の30人擁立構想、8月7日の総会で責任を問う声がなかったこと。首相の発言は官邸筋の伝聞なので確度注記を置いた
★2 西日本新聞
2026/8/29
高市首相「疑惑の福岡県議全員、非公認にするからっ」 麻生氏は静観 非公開の場での発言を一社だけが関係者取材で報じたもの。確度注記を置いたうえで引き、「党本部が動いた」の裏付けには使っていない(裏付けは時事・TNC・読売)
★3 西日本新聞
2026/8/30
「巻きこまれ事故」 福岡自民・若手県議が怒り 若手の反発、名指し5人のうち現職3人、「別の候補に公認が出る可能性すらある」という当事者の見立て。反対側の材料として置いた
★4 FBS福岡放送/TNC
2026/8/18
【会派と名前】採決中止動議に賛成した県議は49人【一覧】49人の所属会派と氏名自民以外も「採決中止」県議たちの言い分 議場での目視という自社取材で49人全員の会派と氏名を出している。2社の名簿が完全に一致したことを、氏名を載せる根拠にした。自民の拘束と民主県政の自主投票の区別もここ
★4 KBC九州朝日放送/FBS福岡放送
2026/8/31
江藤県議に「会員資格停止」処分会派の拘束に従わず処分 2社が独立に、処分の内容・渡辺会長の理由説明・江藤県議の反論を「」で押さえている。処分の是非は断定せず、双方の言い分をそのまま並べた
★3 FBS福岡放送
2026/8/26・8/31
政治倫理条例の素案が示される議員連盟に年間1200万円、30年以上にわたり補助 「政治倫理条例がなかった」と「補助金は遅くとも1987年から」。条例の検討会議は非公開で、素案の全文は読んでいない。使ったのは禁止の中身と9月議会中という日程だけ
★3 毎日新聞/共同通信
2026/8/30
県議の任意団体に公金で異例の補助予算化は全国で福岡県だけ年上限1200万円、廃止へ 毎日は13議連の交付要綱を自社入手し、47都道府県を自社調査。調査報道として一段強く扱った。共同は配信記事なので事務局の説明の引用だけに使った。収支決算書を扱った毎日の続報は有料記事で未読
★3 東京新聞
2024/10/10・2025/6/23
自民裏金めぐる公認問題、曖昧な線引きで明暗【詳報】東京都議選、「裏金」議員は5人落選 2024年の34人公認・12人非公認と、2025年都議選の非公認6人の当落・追加公認3人。論調が政権批判寄りの媒体なので数字だけを取った
★3 Yahoo!ニュース エキスパート
2026/8/24
大濱崎卓真「焦点は筑後市区の補欠選挙と県議会改革の行方」 選挙コンサルタントの見解。使ったのは「補選の当選者の任期は半年余り」という制度の説明だけ。情勢の予測は使っていない
★4 自民党鳥取県連 各級選挙の公認・推薦基準 手続等 県議選の公認が「県連で選考→支部長が申請→県連が決定→党本部に推薦申請」で進む内規。福岡県連の内規ではないので、福岡も同じとは書けない。手続きの一般形としてのみ使い、図にも明記した
★3 自民党 党則 地方議員の公認を誰が決めるかを定めた条文が見当たらなかった。選挙対策委員会の職務(第53条)に「候補者の選定に係る準備手続」とあるのみ。断定には地方組織関係の細則が要るため、本文では断定していない
未読 福岡県連が補選に公認を出すか 未特定 9月25日告示の筑後市補選に自民が公認を出すのかを報じた記事が見つからない。いちばん近い試金石なので、動きがあれば追記する。第三者委員会の委員と報告時期も未公表

この記事に登場する人物萩生田光一高市早苗

編集者K

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