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永住許可の厳格化に反対するNPO移住連が、3年で休眠預金4,808万円を受け取っていた

2026年8月28日、国会内で記者会見が開かれた。永住許可の要件を厳しくする入管庁のガイドライン改定案について、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)が「外国人の安全・安心を奪うものだ」として撤回を求めた、という会見である。共同代表理事の一人は「これこそ秩序を脅かすものだ。全面的に反対する」と語った。

報道はここで終わる。撤回を求めた団体があった、以上。

だが、この団体が何で動いているのかを決算書で見ると、別の絵が出てくる。移住連の年間収入の4割から5割は、休眠預金である。10年以上動かなかった国民の預金を、法律で公益活動に回す仕組みの金だ。2022年度から2024年度までの3年間で、合計4,808万1,361円。会員が払う会費の総額を、毎年上回っている。

そして2026年度、移住連が始めた新しい事業の運営資金は、国の補正予算である。独立行政法人福祉医療機構の助成事業だと、移住連自身が事業案内に明記している。

国民の預金と国の予算で動く団体が、国が決めようとしている基準に「撤回」を求めている。この記事は前半でその団体を、後半で撤回を求められている案そのものを見る。

移住連の資金の流れと、永住許可ガイドライン改定案への働きかけ国民の休眠預金と国の補正予算が移住連に入り、移住連が省庁交渉・国会・国連・パブコメの経路で入管庁の改定案に働きかける構造を示した図カネはどこから来て、どこへ働きかけているのか実線=カネの流れ 点線=働きかけ 金額は移住連の収支決算報告による国民の預金10年以上動きのない口座預金保険機構休眠預金等活用法JANPIA首相が指定した団体資金分配団体実行団体へ助成国の補正予算令和7年度・福祉医療機構社会福祉振興助成事業NPO法人 移住連1997年発足/2015年に法人化団体会員 約100・個人会員 約400休眠預金 3年で4,808万円2024年度は収入の38.0%出入国在留管理庁永住許可ガイドライン改定案2026年8月4日 公表年収・年金・日本語B1を追加意見公募は9月3日まで省庁交渉(年2回)国会で参考人陳述447団体でパブコメ国連・人種差別撤廃委員会2024年6月「緊急手続」書簡政府は「規定は適切」と回答2024年 通報書簡を根拠に引用入管庁が挙げた根拠永住外国人の生活保護受給率 1.96%国内全体(令和6年度)は 1.62%※休眠預金の助成は相談支援事業に紐づいたもので、声明やロビイングに使われたという記録は確認できていない。※資金分配団体の名称は、移住連の収支決算報告には記載がなく確認できなかった。※国連への通報を行ったのは移住連自身であることを、同団体の2024年度事業報告が記している。

図の左側が金の流れ、右側が働きかけの経路である。左から順に見ていく。

この団体の収入の4割は、国民の休眠預金だった

移住連は自分たちのサイトで「移住連の活動は、会員の皆さまからの会費、賛助会費、購読費、また、ご寄付によって支えられています」と書いている。だが、同じサイトに置かれている収支決算報告を開くと、内訳はこうなる。

科目 2022年度 2023年度 2024年度
正会員受取会費 7,186,000円 7,556,000円 7,226,000円
受取寄付金 5,268,574円 36,208,006円 12,985,057円
休眠預金等活用事業助成 20,099,940円 12,316,895円 15,664,526円
その他の助成金 4,700,000円 2,600,000円 600,000円
事業収益 2,823,390円 4,812,578円 4,780,480円
経常収益合計 40,079,037円 63,494,446円 41,265,682円
休眠預金の比率 50.1% 19.4% 38.0%

3年合計で4,808万1,361円。会費3年分(2,196万8,000円)の2倍を超える。

2023年度に寄付が3,620万円に跳ねているのは、幼きイエス会という修道会から3,000万円の寄付があったためだと、決算報告に書かれている。この年だけ休眠預金の比率が下がって見えるのは、そのせいだ。

休眠預金とは何か

休眠預金は、10年以上入出金の取引がない預金である。休眠預金等活用法によって金融機関から預金保険機構に移され、内閣総理大臣が指定した「日本民間公益活動連携機構」(JANPIA)を経由し、資金分配団体を通じて実行団体に配られる。2025年4月末時点で、通常枠と緊急枠を合わせて約354億円が交付され、資金分配団体は延べ342、実行団体は1,368になった。

預金者はいつでも金融機関の窓口で払い戻しを請求できる。だから「取られた」わけではない。だが、請求されない限り、その金は民間公益活動に回る。原資は、国民が銀行に預けたまま忘れている預金である。

あなたが10年前に作って、そのままにしている口座があるなら、その残高はこの経路に乗っている。

移住連が受けている助成の事業名は「アウトリーチ手法による『新移民時代型』支援ネットワーク構築事業」。相談支援と支援者養成の事業で、2023年度から2025年度まで実施された。

2026年度は、国の補正予算に替わった

休眠預金の事業が終わった2026年度、移住連は新しい事業を始めた。「生活困窮状態にある移民・難民のための相談支援ネットワーク構築事業」である。その事業案内に、こう書かれている。

本事業は、「令和7年度(補正予算) 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業」による助成金によって運営されています。

── 移住連 事業案内(2026年5月18日)

休眠預金から、国の補正予算へ。原資は替わったが、公的な資金であることは替わっていない。そしてこの事業の目的にも、「制度上の課題を可視化し、政策提言へつなげる」と明記されている。

助成金の交付額は、福祉医療機構の内定団体一覧で確認しようとしたが、公表資料にたどり着けなかった。金額は確認できていない。また、休眠預金の助成も福祉医療機構の助成も、使途は相談支援事業に限定された事業助成である。8月7日の声明や8月28日の会見にこれらの助成金が使われたという記録は、確認できなかった。ここに書いているのは、団体の収入の構成であって、特定の支出の話ではない。

改定案が公表された3日後に、声明は出ていた

金の次に、速さを見る。

入管庁が改定案を公表したのは、2026年8月4日の12時である。移住連が撤回を求める声明を出したのは、8月7日。3日後だ。同じ日に団体賛同の受付フォームを開き、20日後の8月27日15時に447団体で締め切っている。

翌8月28日には国会内で会見と院内集会を開き、その同じ日に、もう一方のパブリックコメント(永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案)へ意見書を提出した。

この速さは、今回に限った話ではない。2年前にも同じ形が出ている。

日付 出来事 間隔
2024年6月14日 改正入管法が成立。永住者の在留資格取消し事由が追加される
2024年6月25日 国連人種差別撤廃委員会が「緊急手続」として書簡を発出。日本政府に回答を要請 成立の11日後
2024年9月25日 日本政府が書簡で回答。「規定は適切」とし、見直しはしない 書簡の3か月後
2026年1月23日 関係閣僚会議が「総合的対応策」を決定。永住許可基準の見直しが施策番号36に入る
2026年8月4日12時 入管庁が改定案を公表。2件のパブリックコメントを同時に開始
2026年8月7日 移住連が撤回を求める声明を発表。同時に団体賛同の受付を開始 公表の3日後
2026年8月27日15時 団体賛同を締め切り。447団体 声明から20日
2026年8月28日 国会内で記者会見と院内集会。同じ日に取消ガイドライン案へ意見書を提出 締切の翌日
2026年9月3日 永住許可ガイドライン改定案の意見公募が締め切られる

並べると、2つの数字が目に入る。法律が成立した11日後に、国連から書簡が来ている。改定案が出た3日後に、声明と全国の賛同集めが始まっている。

3日で声明をまとめ、20日で447団体を集められる組織は、そう多くない。この速さ自体が、日ごろから経路が生きていることの証拠である。では、その経路はどこに通じているのか。

国連に通報したのは、その国連を引用している団体自身だった

移住連が8月28日に提出したパブコメ意見には、こんな一節がある。

2024年6月25日、国連人種差別撤廃委員会が「緊急手続」として書簡を出し、改正入管法が永住者の人権に及ぼす影響を憂慮していると表明した。委員会は日本政府に対して、法律の見直しまたは廃止のために取った措置を回答するよう要請した。しかし政府は「規定は適切」と回答し、いかなる措置もとっていない──。

国際機関が日本政府に懸念を示している、という構図である。

では、その国際機関はどうやってこの件を知ったのか。

移住連の2024年度事業報告に、答えが書いてある。人種差別撤廃委員会に、永住資格取消し制度に関する通報を行ったのは、移住連自身である。

同じ年度の報告には、女性差別撤廃条約の日本政府報告書審査に向けてNGOレポートを作成・提出し、ジュネーブでロビイング活動を実施したことも記されている。国連の窓口に情報を入れ、そこから出てきた懸念表明を、国内での主張の根拠として引用する。行きも帰りも同じ団体が通っている。

これは違法でも不正でもない。国連の人権条約機関にNGOが情報提供するのは、条約が想定している正規の手続きである。だが、報道はここを書かない。「国連が懸念を示した」とだけ書けば、外から日本に評価が下されたように読める。その懸念の入り口が国内の運動団体であることは、記事の中では消える。

省庁交渉は年2回、1993年から続いている

国連だけではない。移住連は1993年から、ほぼ年2回のペースで省庁交渉を続けている。2024年11月と2025年3月の交渉では、技能実習・特定技能、労働、入管法、難民・収容、医療・福祉・社会保障、子ども・若者、移民女性の7分野で要請を行い、国会議員が延べ17名参加したと事業報告に書かれている。

1999年以降、入管法改定の国会審議では参考人として意見陳述も行ってきた。2010年には国連の移住者に関する特別報告者の日本公式訪問のコーディネートを担当している。改正入管法に反対する署名40,974筆を法務省に提出したのも2024年だ。

30年かけて作られた経路である。選挙を経ずに制度に手が届く経路が、ここにある。

447団体を数えたら、394団体の名前に「外国人」も「移民」も入っていなかった

その経路に、今回は447の団体が名を連ねた。8月27日15時時点、個人と重複を除いた数だと移住連は書いている。

「447団体が反対」と聞けば、外国人支援の現場が総ぐるみで反対しているように読める。そこで、公開されている賛同団体一覧447件を、団体名の語で機械的に分類してみた。

名前に含まれる語 団体数
労働組合・ユニオン系 53 全統一労働組合、全水道東京水道労働組合、国鉄労働組合高崎地区本部、神戸大学教職員組合(4件)
外国人・移民・難民系 53 外国人技能実習生権利ネットワーク、難民自立支援ネットワーク、コムスタカ-外国人と共に生きる会
平和・護憲・反戦 49 九条の会・中野、第九条の会ヒロシマ、東京平和運動センター、Stop!辺野古埋め立てキャンペーン
キリスト教系 45 日本キリスト教協議会(NCC)、日本聖公会各教区、カトリック各教会、日本YWCA
朝鮮半島・在日コリアン関係 38 在日韓国民主統一連合(韓統連・3件)、朝鮮学校と民族教育の発展をめざす会、日韓民衆連帯全国ネットワーク
部落解放同盟・同和 11 部落解放同盟東京都連合会と5支部・女性部、部落解放同盟京都府連合会

一つだけ、はっきりした数字が出た。

447団体のうち、団体名に「外国人」「移住」「移民」「難民」「入管」「在留」「多文化」といった語が一つも入っていない団体が、394ある。全体の88%である。

名前に出ていないだけで外国人支援をしている団体はある。カトリックの教会も、地域のユニオンも、実際に相談を受けている。名前だけで活動を判定するのは乱暴だ。それは先に認める。

それでも、この一覧の顔ぶれは何かを語っている。九条の会が5、平和運動センターと護憲組織が6、部落解放同盟の本部と支部が8、韓統連が3、緑の党グリーンズジャパンが1。移民政策とは別の主題で長年活動してきた運動体が、名簿の大半を占めている。

数え方にも癖がある。部落解放同盟東京都連合会は、本体・国立支部・江東支部・墨田支部・荒川支部・品川支部・女性部で7団体として数えられている。神戸大学教職員組合は、農学研究科支部・文学部支部・住吉支部・役員一同で4団体だ。移住連は「重複を除く」と書いたが、除いたのは同じ名前の重複であって、同じ組織の支部ではない。

447という数は、447の独立した組織を意味しない。

役員名簿も、同じ顔ぶれで出来ている

この構成は、賛同団体だけの話ではない。移住連が公開している役員名簿の肩書きが、そのまま同じ形をしている。

共同代表理事は3人。全統一労働組合と外国人技能実習生権利ネットワーク、外国人医療・生活ネットワーク、そして国士舘大学の教員である。理事12人の肩書きには、岐阜一般労働組合、在日韓国人問題研究所と外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会、カトリック札幌司教区難民移住移動者委員会、日本カトリック難民移住移動者委員会、弁護士2人、行政書士、大学教員、国際交流協会が並ぶ。監事は東京労働安全衛生センターと大学教員。顧問3人は、九州の支援ネットワーク、神奈川シティユニオン、カラバオの会である。

労働組合、キリスト教団体、弁護士、大学。賛同447団体の顔ぶれと、まったく同じ構成である。移住連は、この30年で作られた運動ネットワークの、移民分野の窓口として置かれている。

外国人当事者がいないわけではない。理事には外国籍とみられる名前もある。だが、団体の中枢を構成しているのは、外国人ではなく、日本の既存の運動組織である。

「外国人利権」という言葉は、たぶん当たっていない。利権と呼べるほど大きな金は動いていない。年間4,000万円規模の団体だ。ここにあるのは利権ではなく、経路である。公的資金で維持され、省庁交渉と国会と国連に通じた経路が、30年かけて作られている。それが今回、447団体の名簿とパブコメという形で可視化された。

「国民の不安は、政党が作った」とNPOが国に提出した

その経路を通って国に届いた文書に、この記事でいちばん驚いた一文がある。8月7日の声明ではない。8月28日に提出された、取消ガイドライン案への意見のほうである。

入管庁は取消ガイドライン案の総論で、一部の悪質な永住者に永住許可を認め続けることは「国民が不安や不公平感を感じる状況を生じさせ」ると書いた。これに対する移住連の反論が、次の一文だ。

国民の「不安や不公平感」や「外国人への不当な偏見」は、外国人への偏見をあおるような言説により支持を得ようとする人々や政党により引き起こされるものであり、根本的な事実の認識の誤りがあります。

── 移住連「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン(案)に対する意見」(2026年8月28日)

読み違えようのない文である。国民が抱いている不安は、政党と扇動者が作り出したものであり、事実の認識として誤っている。そう国に提出した。

ここには、国民が自分の目で見て感じた、という可能性が最初から入っていない。不安を持った人間は、誰かに焚きつけられた人間である、という前提で書かれている。

会見に出た言葉と並べると、輪郭がはっきりする。永住許可の要件を厳しくすることを「これこそ秩序を脅かすものだ」と呼び、国民の不安を「事実の認識の誤り」と呼ぶ。秩序を脅かしているのは国で、間違っているのは国民だ、という組み立てである。

ここまでが、撤回を求めている側の話だ。ここから、撤回を求められている案そのものを見る。

年収、年金、日本語。永住許可に3つの壁が足された

出入国在留管理庁が2026年8月4日に公表したのは、「永住許可に関するガイドライン」の改定案である。永住許可の法律上の要件は入管法22条に書かれていて、素行が善良であること、独立した生計を営めること、日本国の利益に合すること、の3つ。ガイドラインは、その3つを審査でどう判断するかを示した文書だ。

今回の改定案は、その判断の中身を大きく書き換えた。

独立生計要件──「日本人世帯の平均を上回る」

改定案の原文はこうである。

原則として、申請時点で、申請者の属する世帯年収の額が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準(以下「年収水準」といいます。)の額に継続して達しているかを考慮要素とします。

── 永住許可に関するガイドライン改定案(2026年8月4日公表)

これまで実務上の目安は年収300万円程度だったと東京新聞は報じている。2025年の国民生活基礎調査の全世帯平均所得は575万2,000円だから、仮にこれが基準になるなら、ほぼ2倍になる。

年金要件──厚生年金30年分

年収の次に、年金が入った。将来受け取れる年金の見込額が、「年収水準で30年間働き、その期間、厚生年金に加入していた場合」の見込額に達しているかを見る、というものだ。届かない分は預貯金などの資産で補える。

国益要件──日本語B1と、子どもの就学

国益要件には、「日本語教育の参照枠」でB1相当レベル以上の日本語能力が入った。日本語能力試験ではN2からN3程度とされる水準である。加えて、学齢期の子どもを義務教育に通わせていない場合は、消極的に評価される。

配偶者の特例も変わる。日本人や永住者の配偶者は、これまで「婚姻3年+在留1年」で申請できたが、改定案では「婚姻5年+在留3年」になる。

項目 現行ガイドライン 改定案
収入 「公共の負担にならず、将来において安定した生活が見込まれること」。実務の目安は年収300万円程度と報じられてきた 世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に、継続して達していること
年金 保険料の適正な納付を確認 受給見込額が、年収水準で30年間厚生年金に加入した場合の水準に達しているか。不足分は資産で補填可
日本語 要件なし 「日本語教育の参照枠」B1相当以上。高度人材、日本の初等・中等教育を6年以上受けた者などは例外
子の就学 規定なし 学齢期の子の義務教育未就学は消極評価
配偶者特例 実体を伴う婚姻3年+在留1年 婚姻5年+在留3年
適用 令和9年(2027年)4月1日以降の申請から。ただし収入と公共負担の2項目は、改定日の6か月前以降の申請で、改定日に審査中のものにも適用

この最後の行が、いま最も強く反発されている部分である。改定は10月に予定されているから、その6か月前は今年4月。すでに出している申請にも、新しい基準がかかる。移住連はこれを「横暴」と書いた。

この一点については、移住連の言い分に筋が通っている。同じ団体は、もう一方のパブコメでも「法令の遡及適用は、法的安定性を害し、国民の利益に不測の侵害を及ぼす可能性が高い」として、遡及そのものに反対している。都合のいいときだけ持ち出した理屈ではない。

ただし、入管庁は年収の具体的な金額を示していない。国民生活基礎調査、家計調査、民間給与実態統計調査を参考にするが、審査に影響するとして金額は出さない、というのが入管庁の説明である。いくらなのかは、まだ誰も知らない。これが後で効いてくる。

入管庁が挙げた根拠は、1.96%という一つの数字だった

では、なぜ変えるのか。

直接の出発点は、2026年1月23日に関係閣僚会議が決めた「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」である。高市政権がまとめたこの文書は、永住者についてこう書いている。

在留資格「永住者」は、許可要件そのものが緩やかであると指摘されていることに加え、永住許可後に在留期間の更新などがないことから、許可後に永住許可要件を満たさなくなる場合がある

── 外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策(2026年1月23日)

そして施策番号36として、「永住許可基準について、永住許可を行う趣旨を踏まえた独立生計要件や国益要件についての見直し」を今後の課題に挙げた。8月4日の改定案は、この宿題の答案である。

選別を通ったはずの集団が、選別されていない集団と同じだった

その裏づけとして入管庁が持っていたのが、一つの調査だった。

産経新聞によれば、入管庁が国内の一部の永住外国人を対象に行った調査で、約1.96%が生活保護を受給していたことが8月4日に明らかになった。令和6年度の国内全体の受給率は1.62%である。調査は、令和7年末時点の永住者およそ94万7,000人の約7%を対象に実施された。

報道の見出しは「日本全体と同水準」だった。同水準なら問題ない、と読める。

だが、この2つの数字は性質が違う。

日本国民は、生まれた時点で日本人である。収入で選ばれてはいない。一方、永住者は違う。「独立の生計を営むに足りる資産または技能を有すること」という審査を通った人だけが、永住者になっている。収入で選別された集団だ。

選別を通った集団の生活保護受給率が、無選別の集団と同じ水準になる。これは「差がない」という話ではない。選別が効いていない、という話である。入管庁が「現行の審査が十分に機能していない可能性がある」としたのは、この読み方に立っている。

しかも実際の数字は同水準ではない。1.96%と1.62%では、永住者のほうが2割高い。

この調査は永住者全体を数えたものではなく、約94万7,000人の約7%を対象にした標本調査である。入管庁が調査票や集計方法を公表した資料は確認できなかった。数字の出所は産経新聞の報道で、原資料そのものは読めていない。ここは弱いところとして先に書いておく。

移住連が出した数字は、改定案が使っていない数字だった

入管庁の数字を検証したので、移住連の数字も同じように見る。

8月7日の声明の中心にあるのが、次の計算である。

2025年の国民生活基礎調査で、全世帯の平均所得金額は575万2,000円。所得階級別に見ると多いのは「200〜300万円未満」が13.5%、「300〜400万円未満」が13.0%、「100〜200万円未満」が12.2%。そして平均以下の世帯は61.5%を占める。だから「日本人世帯の平均収入を上回る水準」は、大多数の日本人より高い水準だ──というのが移住連の主張だ。

数字自体は厚労省の公表値どおりで、間違っていない。

問題は、比べている相手である。

改定案には「世帯人数に応じた」と書いてある

もう一度、改定案の原文を見る。「世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準」。世帯人数で分けた平均を使う、と書いてある。

移住連が持ってきた575万2,000円は、世帯人数で分けていない全世帯の平均である。この全世帯には、平均所得336万1,000円の高齢者世帯が含まれている。一方、児童のいる世帯の平均は857万3,000円だ。世帯の中身によって、平均は倍以上ちがう。

つまり「61.5%が満たせない」という数字は、改定案が基準に使うと書いていない数字に対して計算されたものである。単身の申請者に575万円が課されるとは、改定案のどこにも書かれていない。

ただし、これは移住連だけの落ち度ではない。入管庁が金額を出していないからである。世帯人数ごとにいくらなのかが示されていない以上、全世帯平均を代入して批判する以外にやりようがない、という言い分は成り立つ。金額を伏せたまま意見を募る側にも、批判される理由はある。

だが、それなら声明にはこう書けばよかった。「入管庁は金額を示していない。全世帯平均を当てはめると61.5%が届かない」と。実際の声明は、条件つきであることを書いていない。

意見公募は多数決ではない──9月3日の締切のあとに起きること

永住許可ガイドライン改定案のパブリックコメントは、2026年8月4日12時に始まり、9月4日0時に締め切られる。実質的には9月3日いっぱいである。

ここで押さえておくべきことが一つある。パブリックコメントは多数決ではない。行政手続法上の意見公募手続は、寄せられた意見を十分に考慮することを求めているが、賛成と反対の数で結論が決まる制度ではない。今回の案件は「任意の意見募集」として実施されており、法律上の意見公募手続でさえない。

447団体で賛同を集め、声明を参照してパブコメを出すよう呼びかけても、それで案が撤回されるわけではない。移住連もそれは分かっているはずだ。だからこの動員の狙いは、締切後に出てくる「提出意見の総数」と、それを報じる記事にある。

そのときに残しておきたい数字を、この記事はここまで並べてきた。

永住者は令和7年末で94万7,125人、前年から2万9,009人増えた。在留外国人の総数は412万5,395人で、1年で35万6,418人、9.5%増えている。永住外国人の生活保護受給率は1.96%で、選別を受けていない国内全体の1.62%より2割高い。永住許可の要件を厳しくする案の中身は、8月4日にすべて公表されている。

その案に、国民の休眠預金と国の補正予算で動く団体が撤回を求め、国民の不安を「事実の認識の誤り」と書いた文書を国に提出した。3日で声明を出し、20日で447団体を集めて。

永住許可を誰に出すかは、日本人が決めることである。その決定に、外から届く意見と、内から国連を経由して戻ってくる意見が、同じ重さで並ぶ必要はない。どちらの意見にも中身を検証する義務があり、この記事はそれを移住連の側について行った。入管庁の側にも同じことをする必要がある。年収水準の金額を出さないまま意見を募っているのは、説明として足りていない。

9月3日までに、あと数日ある。

この記事で使った資料と、その確度

確度が低いから使わない、という意味ではない。★2でも用途を限定すれば材料になる。以下は、何にどう使ったかを含めて示す。

確度 媒体 資料 評価の理由
★5 出入国在留管理庁 永住許可に関するガイドライン改定案に係る意見募集(e-Govパブリック・コメント) 改定案の原文そのもの。年収水準・年金・日本語B1・配偶者特例・適用時期の引用はすべてここから取った
★5 出入国在留管理庁 永住許可に関するガイドライン(令和8年2月24日改訂) 現行ルール。改定案との差分を作るために使用。実務の年収目安はここには書かれていない
★5 内閣官房 外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策(2026年1月23日) 「許可要件そのものが緩やか」の引用元。改定の出発点が閣僚会議決定であることの裏づけ
★5 出入国在留管理庁 令和7年末現在における在留外国人数について 永住者94万7,125人、総数412万5,395人。人数はすべてこの公表値
★5 厚生労働省 2025年 国民生活基礎調査の概況(所得の状況) 平均575万2,000円・中央値451万円・平均以下61.5%・高齢者世帯336万1,000円・児童のいる世帯857万3,000円。移住連の計算を検証する側の数字
★5 移住連 永住許可に関するガイドラインの厳格化に強く反対し、撤回を求める声明(賛同447団体) 当事者の文書そのもの。声明の引用と、447団体の一覧はここから取得。分類はこの一覧を機械的に数えた結果。賛同受付の開始日と締切日時もこのページの記載
★5 移住連 「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」(案)に対する意見(2026年8月28日) 「国民の不安は政党が引き起こす」と、遡及適用への反対の引用元。提出文書の全文が公開されており、要約ではなく原文で読んだ。国連書簡の日付もここ
★5 移住連 2024年度 事業報告・収支決算報告2023年度2022年度 休眠預金の金額、改正入管法の成立日、国連への通報、省庁交渉の回数、署名40,974筆はすべてこの3本から。通常総会承認済みの正式書類
★5 移住連 移民・難民相談支援ネットワーク事業 開始のご案内移住連とは(役員名簿・沿革) 福祉医療機構の助成で運営という記載、役員の肩書き、1993年からの省庁交渉はここ
★5 内閣府 休眠預金等活用制度についてNPO法人ポータルサイト(移住連) 休眠預金の仕組み・354億円・払い戻し請求権、および法人の設立認証日と定款の目的
★3 産経新聞 永住許可要件の厳格化「外国人の安心奪う」 NPO法人、ガイドラインの撤回求める 8月28日の会見の事実関係と発言。この記事の出発点。会見の映像は確認していない
★2 産経新聞(転載のみ確認) 「永住外国人の生活保護受給率、日本全体と同水準 入管庁調査」の引用を含む記事 1.96%・1.62%・調査対象は永住者の約7%という数字の出所。産経本体の記事本文にはたどり着けず、引用転載でしか読めなかった。入管庁の原資料も未確認のため★2に落とし、章の中に注記を置いた
★3 東京新聞 永住許可を事実上「抑止」…収入要件は日本人世帯の「平均年収以上」に 「従来は年収300万円程度で許可」「入管庁は具体的な金額を示さなかった」の出所。論調は改定案に批判的で、反対側の材料として使った。会員限定で全文は読めていない

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編集者K

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