ガソリンの全国平均価格は、8月24日時点で1リットル169.9円だった。この価格には、税金から出ている補助金が入っている。8月27日から9月2日までの支給単価は32.5円。7週間前の7月9日から15日までは、2.8円だった。
7週間で11倍以上に増えた理由は、ホルムズ海峡が閉じたままだからである。閉じたままなのは、2月28日に始まったイラン戦争が半年続いているからだ。ここまでは、どの報道にも書いてある。
書かれていないのは、この先である。
アメリカは、イラン原油を買っている中国の製油所を名指しで制裁した。4月25日のことだ。中国は「認めず、実施せず、遵守しない」と答えた。制裁は効かなかった。
中国のイラン原油輸入を実際に半分以下まで落としたのは、制裁ではない。軍艦だった。4月13日、トランプ大統領がイラン沿岸全域の海上封鎖を命じ、1万人以上の兵力と十数隻の軍艦を張りつけた。
そして、その封鎖が海を止めている間に、中国は買う先を変えた。ブラジル、イラク、ロシア。サウジアラビアの紅海側の積出港。運賃は1バレルあたり約5ドルから10〜11ドルに上がり、航海日数は25〜27日から約50日に伸びた。それでも、変えられた。
日本には、変える道がない。原油の93.0%がホルムズ海峡を通っている。だから、1リットル32.5円を税金で払っている。
同じ封鎖が、中国と日本に別々の結果を出している。左が起きたこと、右がその先。数字の出所は本文と末尾の確度表にある。
オレンジの箱が、日本の家計に出ている請求書である。以下、この図の左から順に見ていく。
ガソリン169.9円のうち、32.5円は税金である
資源エネルギー庁が公表している全国平均のレギュラーガソリン価格は、8月24日時点で1リットル169.9円だった。前週から0.1円の上昇にとどまっている。数字だけを見れば、価格は落ち着いている。
落ち着いているのは、そこに補助金が入っているからである。
8月27日から9月2日に適用される支給単価は32.5円。内訳は変動分26.5円と調整単価6.0円で、前の週の26.0円から6.5円増えた。拡大は2週連続である。8月20日から26日の補助は26.0円だったから、同じ週の実勢価格から補助を引き戻すと、店頭に並んでいたはずの価格は195.9円になる。
3月には48.1円まで出していた
いまの32.5円は、この半年で最も大きい額ではない。開戦の翌月にあたる3月26日から4月15日までの支給単価は48.1円だった。ここが今年のピークである。
その後、原油価格が落ち着くにつれて補助は縮んでいき、6月25日から7月1日に6.0円、7月9日から15日には2.8円まで下がった。そこから7週間で、32.5円まで戻っている。
つまり、いま起きているのは「初めての急拡大」ではない。春に一度やったことを、もう一度やっているのである。
| 適用期間(2026年) | ガソリン支給単価 | そのとき何が起きていたか |
|---|---|---|
| 3月19日〜25日 | 30.2円/L | 補助の開始。直前の3月16日の全国平均は190.8円 |
| 3月26日〜4月15日 | 48.1円/L | 今年のピーク。3月19日にドバイ原油が過去最高の166ドル |
| 4月16日〜22日 | 35.5円/L | 4月13日に米国が海上封鎖を開始 |
| 5月14日〜20日 | 42.6円/L | 5月14〜15日、トランプ大統領が北京で習近平主席と会談 |
| 6月25日〜7月1日 | 6.0円/L | 5月29日に封鎖がいったん終了し、価格が落ち着いた局面 |
| 7月9日〜15日 | 2.8円/L | 再開後の最低額。この直後の7月13日に封鎖が再開される |
| 7月30日〜8月5日 | 28.2円/L | 2.8円から3週間で10倍になった |
| 8月20日〜26日 | 26.0円/L | 8月24日の全国平均は169.9円 |
| 8月27日〜9月2日 | 32.5円/L | 2週連続の拡大。前週比+6.5円 |
高市首相は8月25日に「170円程度」と言った
高市首相は8月25日、首相官邸で記者団に対し、引き続き全国平均で1リットル170円程度に抑制していく方針を示した。7月に報じられていた「9月から175円へ引き上げる」という見直し案は、事実上見送られた形である。
同じ25日、首相は赤沢経済産業大臣に対し、片山財務大臣と協議のうえで基金を積み増すよう指示している。
この「170円程度」という数字自体は、8月に始まったものではない。経済産業省が3月24日の関係閣僚会議に出した資料には、すでにガソリンを1リットル170円程度、軽油を160円程度、灯油を140円程度に抑制すると書かれている。半年前から続いている線を、首相が改めて引き直したということになる。
アメリカは山東省の製油所を名指しした。中国は「認めず、実施せず、遵守しない」と答えた
ここから先が、日本の報道ではあまり並べて語られない部分である。
イラン原油の行き先は、ほぼ中国に一本化されている。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の豊田耕平氏が2025年7月に書いた分析によれば、2025年1〜5月のイランの原油輸出は日量150〜170万バレル程度で、その90%程度が中国向けだった。
買っているのは中国の大手国有石油会社ではない。山東省に集まっている20か所以上の独立系製油所である。中国では「ティーポット」と呼ばれる。精製能力は1社あたり日量数万バレル程度と、国有企業に比べれば極めて小さい。
制裁が効かない理由は、2025年の時点で日本の公的機関が書いていた
同じ分析は、なぜアメリカの制裁がこの経路に効かないのかを3点で説明している。
第一に、決済が国際通貨の世界に出てこない。小規模な製油所は国内取引しかしておらず、国際的な通貨取引とはほぼ無縁のローカル・ビジネスとして動いている。ドル決済網を締め上げても、そこに乗っていないものは締まらない。
第二に、産地が書き換えられる。制裁対象になっていないタンカーに積み替えられ、「マレーシア産」「オマーン産」として中国の港に到着する。海上での積み替え(STS)は、2024年時点でマレーシアなど東南アジア沖合が日量110万バレル、UAE・オマーンなどが日量30万バレルと見積もられていた。
第三に、中国政府が後ろにいる。中国政府は米国の制裁に反対し、各製油所のサプライチェーンにおける課題を調整すると表明している。
この3点は、2025年7月に書かれたものである。戦争が始まる8か月前に、日本の公的機関が「この経路は制裁では止まらない」と分析していた。
4月25日、アメリカは実際に名前を出した
2026年4月25日、アメリカ財務省はイラン産原油を購入した中国の製油所を名指しで制裁対象にした。恒力石油化学(大連)製油所、河北新海化工集団、そして山東省の複数の独立系製油所である。5月にも同種の制裁が追加され、青島の石油ターミナル運営会社も対象に加わった。
スコット・ベッセント財務長官は、アメリカがイラン政府に対して金融の締め付けを行っていると述べ、財務省はイランが自国の石油を世界市場へ動かすために頼っている船舶・仲介業者・買い手のネットワークを制限し続けると説明した。中国の銀行2行に対しては、イランの資金が口座に流れていることが証明できれば二次制裁を科しうると警告したと報じられている。
中国商務省の答えは、3つの動詞で返ってきた。
認めず、実施せず、遵守しない。(米国の制裁は)国際法および国際関係を支配する基本的規範に違反するものであり、中国は一方的な制裁に一貫して反対してきた。
── 中国商務省の声明(2026年5月、報道各社が伝えた要旨)
この時点で、制裁というやり方の結果は出ていた。効かなかった。
制裁ではなく、軍艦だった
制裁が効かないまま、アメリカは別の手を打った。
2026年4月13日、米東部時間の午前10時。トランプ大統領の命令で、イラン沿岸全域の海上封鎖が始まった。指揮は中央軍のブラッド・クーパー大将と、インド太平洋軍のサミュエル・パパロ大将。最初の24時間で1万人を超える米兵、十数隻の軍艦、数十機の航空機が投入されている。
対象は、イランの港に出入りする船である。ホルムズ海峡をイラン以外の目的地へ通航する船は妨げない、という建てつけだった。4月11日から12日にイスラマバードで行われた交渉が決裂したことを受けての措置だとされている。
止めた船の数が、そのまま記録に残っている
封鎖の効き方は、隻数で残っている。4月15日までに10隻が反転させられ、4月18日には23隻、4月20日には27隻が阻止された。5月22日の時点で、引き返させられた船は94隻に達している。
いっぽうで、突破された記録も残っている。海事専門紙ロイズリストは、4月20日までに少なくとも26隻のイラン船が封鎖をすり抜けたと報じた。完全に密封されたわけではない。
イラン側の損失については、数字に幅がある。国防総省は4月13日から5月1日までで48億ドルと見積もり、トランプ大統領は1日あたり5億ドルと主張した。民間のアナリストは1日4億ドル程度としている。湾内には31隻・5,300万バレルのタンカーが足止めされたままになった。
封鎖は5月29日にいったん終了した。約1か月半である。そして7月13日に再開された。7月9日から15日の週というのは、ガソリン補助金が2.8円まで下がっていた、まさにその週である。
中国は買う先を変えられた
封鎖が再開されてから、中国が受け取るイラン原油の量ははっきり落ちた。
| 時期 | 中国のイラン原油輸入(日量) | 状況 |
|---|---|---|
| 2024年10月 | 約190万バレル | ピーク。制裁下でも取引は拡大していた |
| 前年(2025年)平均 | 約140万バレル | 中国がイランの海上輸出の8割超を買っていた |
| 2026年7月 | 約82.3万バレル | 7月13日に封鎖が再開 |
| 2026年8月 | 約53.4万バレル | 前月から約35%減。ピーク比では72%減 |
4月から続けた名指し制裁では動かなかった数字が、封鎖の再開から1か月半で半分以下になった。効いたのは制裁ではなく、物理的に船を止めるほうだった。これは、日本の家計を考えるうえでも大事な区別である。効いたやり方は、同時にホルムズ海峡を止め続けるやり方でもあるからだ。
それでも中国は困っていない
ただし、中国が音を上げたわけではない。
中国の独立系製油所は、代わりの原油を買い始めた。ロシアのウラル原油、ESPO、燃料油。ブラジル産とイラク産。エネルギー・アスペクツのアナリスト、孫佳楠(スン・ジアナン)氏は「米国の封鎖でイラン産の手当てが細っているため、中国のティーポットはいまやロシアとイランの外に目を向けている」と述べている。
サウジアラビアは紅海側の積出ターミナルからの輸出を増やした。中国がスエズ運河とバブエルマンデブ海峡を経由して受け取った原油は、4月に日量262万バレルまで跳ね上がっている。直前20か月の平均の3.3倍である。
安くはない。喜望峰回りにすると運賃は1バレルあたり10〜11ドル、航海は約50日かかる。攻撃前のスエズ経由なら約5ドル、25〜27日だった。コストは倍、時間も倍。それでも、買う先を変えることはできた。
もうひとつ、皮肉な変化がある。イラン産原油はこれまで、制裁のリスク分だけ割り引かれて売られてきた。それがいまは、場合によっては国際指標より割高で提示されている。手に入りにくくなった分、値が上がったのである。
中国は10億から14億バレルの原油在庫を持っている。緩衝材がある。Kplerのアナリスト、徐沐宇(ムーユー・シュー)氏は、代替原料の購入を増やさなければ10月には稼働を落とすことになる、と指摘している。追い詰められてはいるが、まだ選択肢は残っている。
日本の原油は93.0%がホルムズ海峡を通る
ここで日本側を見る。
経済産業省が3月24日の中東情勢に関する関係閣僚会議に提出した資料に、正面から書いてある数字がある。
| 原油 | LNG | |
|---|---|---|
| 中東依存度 | 94.0% | 10.8% |
| ホルムズ海峡依存度 | 93.0% | 6.3% |
| 主な調達先 | UAE 43.3%/サウジアラビア 39.4% | オーストラリア 39.7%/マレーシア 14.8% |
原油の93.0%が、あの海峡を通っている。日量にして約236万バレルである。
迂回路は、数字の上でも足りない
ホルムズ海峡を通らずに原油を出す道は、存在はする。サウジアラビアの東西パイプラインは日量700万バレルの能力を持ち、UAEのADCOPは約110万バレルが稼働している。合計すると日量350〜550万バレル程度を迂回させられる。
平時にホルムズ海峡を通っていた原油は、日量約2,000万バレルである。迂回できる量は、その4分の1程度にしかならない。中国が「航路を変えた」のと同じことを、日本が同じ規模でやることはできない。
海峡の通航は、いまもほとんど止まっている。Kplerの集計では8月4日の通航が8隻(入航6隻・出航2隻)で、戦前の約135隻に対して5.9%の水準にとどまった。S&Pの別の集計では8月3日に6隻、あるいは15隻と、数え方によって幅が出る。母集団も重量基準も米海軍の護衛の有無も違うため単純比較はできないが、どの数字を見ても通常の商業航行には戻っていない。
運ぶ側のコストも上がった。保険仲介大手マーシュが7月22日にまとめたところでは、湾岸を航行する船の戦争保険料は戦前の船体価額0.25%前後から、7.5〜10%になっている。30倍から40倍である。この分は運賃に乗り、原油の到着価格に乗り、最後にガソリンスタンドの表示価格になる。
備蓄は、いまのところ足りている
備蓄については、政府の数字がある。2026年3月20日時点の推計で、国家備蓄146日分、民間備蓄89日分、産油国共同備蓄6日分の合計約241日分。約8か月分である。
政府はすでに取り崩しにも入っている。3月16日から民間備蓄15日分の活用を始め、国家備蓄1か月分を放出した。IEAの協調放出は合計4億バレルを超えている。
241日という数字は、パニックを起こすための数字ではない。ただし、これは「量」の話であって、「値段」の話ではない。備蓄が8か月あることと、ガソリンが170円で買えることは、別の問題である。備蓄は品切れを防ぐが、価格は防がない。価格を170円で止めているのは、備蓄ではなく32.5円の補助金のほうだ。
LNGは大丈夫だった
ここは、この記事を準備する過程でこちらの見立てが外れたところなので、そのまま書いておく。
取材前の想定は「石油備蓄254日はよく報じられるが、LNGの在庫は3週間しかない。そこが本当の弱点だ」というものだった。電気とガスの話にすれば読者の生活に直結する、とも考えていた。
一次資料に当たったら、そうではなかった。
上の表のとおり、LNGの中東依存度は10.8%、ホルムズ海峡依存度は6.3%である。原油の93.0%とは桁が違う。日本のLNGはオーストラリアが39.7%、マレーシアが14.8%と、調達先の分散が進んでいる。ホルムズ海峡が閉じても、LNGの9割以上は別の海から来る。
在庫は例年より多い
在庫のほうも確認した。資源エネルギー庁電力基盤整備課が8月26日付でまとめた発電用LNGの在庫状況によれば、直近の週末在庫量はこうなっている。
| 時点 | 発電用LNG在庫量 |
|---|---|
| 7月末 | 176万トン |
| 8月2日 | 202万トン |
| 8月9日 | 203万トン |
| 8月16日 | 227万トン |
| 8月23日 | 238万トン |
| (参考)8月末の過去平均 | 212万トン |
| (参考)前年8月末 | 212万トン |
7月末の176万トンから、4週間で238万トンまで積み上がっている。8月末の過去平均212万トンも、前年同月末の212万トンも上回っている。戦争が半年続いているなかで、発電用のLNG在庫は例年より厚い。
「LNGは日本の弱点だ」という言い方は、平時の一般論としては聞くことがある。だがいまのホルムズ海峡の話としては、当てはまらない。不安を煽る材料になりそうだったので、確認して外した。
なお、この記事で使った「LNG在庫が3週間分しかない」という説は、個人が運営する解説サイトを出所とするものだった。資源エネルギー庁の公表資料に当たったところ、発電用LNG在庫は過去平均を上回っており、ホルムズ海峡依存度も6.3%にとどまることが確認できたため、記述を差し替えた。あわせて「石油備蓄254日分」も同じ出所だったが、政府資料では3月20日時点で約241日分(国家146+民間89+産油国共同6)となっている。本文はすべて政府資料の数字に統一した。
トランプ大統領は5月に北京にいて、イランのことは頼まなかった
ここまでの話を、時系列に並べ直すと、ひとつ引っかかる日付が出てくる。
2026年5月14日から15日。トランプ大統領は北京にいた。習近平国家主席との首脳会談である。会談は関税、台湾、AIといった議題で報じられた。
その同じ週、日本のガソリン補助金は1リットル42.6円だった。ホルムズ海峡は閉じていた。米軍の海上封鎖は続いていた。
そして、この会談についてトランプ大統領自身が後に語ったところによれば、イランについては何も頼みごとをしなかった。
CNNが8月28日に配信した分析記事は、この点を「出口戦略に残る一つの大問題」として扱っている。ベッセント財務長官が8月24日に「経済的追放作戦」を発表した記者会見で、作戦の成否を決めるかもしれない国の名前を挙げなかった、という指摘である。挙げられなかった国が中国だ。
ベッセント長官はその会見で、米国による制裁の適用対象から外れる者などいない、と語った。だが実際には、その前月まで4か月かけて名指ししてきた相手が「認めず、実施せず、遵守しない」と答え、それでも何も起きていない。
中国は8月24日に、別の言い方をしている
面白いのは、その同じ8月24日に習近平主席が何を言っていたかである。
ヨルダンのアブドラ国王との会談後に出した共同声明で、習主席はホルムズ海峡の「正常な通航」と、紛争の「包括的解決」を呼びかけた。翌25日には中国外務省が声明を出し、米国の制裁を一方的なものとして拒否している。
同じ日に、アメリカは「経済的生命線を全て断つ」と言い、中国は「正常な通航を」と言った。日本のガソリン補助金は、その2日後に32.5円へ引き上げられた。
CNNによれば、習主席の訪米は11年ぶりになる見通しで、米中の貿易休戦はこの秋に期限が切れる。イラン問題の出口は、その交渉のテーブルの上にある。そして日本は、そのテーブルには着いていない。
説明されていないのは、いつまで払うのかである
ここまでの事実を、家計の側から並べ直す。
いま起きていることは、政府が国民の生活を守るために公金を投じている、ということである。3月に190.8円まで上がった全国平均を、半年にわたって170円前後に抑え続けている。高市首相が8月25日に「170円程度」と改めて言い、基金の積み増しを指示したのも、その線を維持するためだ。この判断そのものは、生活防衛として理解できる。170円と195.9円の差は、月に何度も給油する家庭にとって小さな額ではない。
問題は、その先が示されていないことである。
財源の桁は、すでに動いている
基金の残高は7月末時点で約2,100億円。前月末から約1,700億円減っている。1か月で残高の4割強が出ていった計算になる。
これに充てるとされているのが、令和8年度補正予算で新設された「中東情勢等対応予備費」2兆5,000億円である。8月25日には数千億円規模の追加投入が指示された。
桁を並べると、こうなる。基金2,100億円、予備費2兆5,000億円。補助単価は1リットル32.5円で、2週連続の拡大中。ガソリンの暫定税率はすでに廃止されている(ガソリンが2025年12月31日、軽油が2026年4月1日)。いまの170円は「税金を下げた後の価格に、さらに税金を足して作った価格」である。
説明が要るのは、この3つだと思う
第一に、終わりの条件は何か。ホルムズ海峡が開くまで払い続けるのか。それとも、ある水準を超えたら170円の線を動かすのか。7月に報じられた175円案は見送られたが、なぜ見送ったのかは説明されていない。
第二に、2兆5,000億円を使い切ったらどうするのか。予備費は「予備」である。半年で基金の4割が消えた速度と、2兆5,000億円という額を並べたとき、いつまで持つのかは計算できるはずだ。その計算は公表されていない。
第三に、効かない制裁に付き合い続けるのか。日本は制裁を主導している側ではない。だが、海峡が閉じている原因の一部は、効かないと分かっていた制裁を積み上げ、最後に軍艦を出したという選択の結果でもある。JOGMECは戦争の8か月前に「この経路は制裁では止まらない」と書いていた。日本の公的機関が持っていたその分析は、どこかで使われたのだろうか。
いちばん動かしにくいのは、93.0%のほうである
補助金は、来週にも増やせるし減らせる。予備費も積める。だが原油の93.0%がホルムズ海峡を通っているという構造は、来週には変わらない。中国は50日かけて喜望峰を回るという答えを持っていた。日本には、いまのところそれに当たる答えがない。
ガソリンスタンドの169.9円という表示から、山東省の製油所と、イラン沿岸に張りついた米軍の艦艇まで、線は一本でつながっている。つながっているのに、給油のたびに払っている32.5円が何の値段なのかは、どこにも書かれていない。
会社の経費でガソリンを入れている人も、通勤で入れている人も、同じ32.5円を払っている。この32.5円は、いつまで、いくらまで払うことになっているのか。
この記事で使った資料と、その確度
★が低いから使わない、という意味ではない。★2でも用途を限定すれば材料になる。以下は、どの資料を何に使い、何に使わなかったかの記録である。
| 確度 | 媒体 | 資料 | 評価の理由 |
|---|---|---|---|
| ★5 | 経済産業省 | 中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保(2026年3月24日・中東情勢に関する関係閣僚会議 第1回 資料4) | 政府が閣僚会議に出した一次資料。原油の中東依存度94.0%・ホルムズ依存度93.0%、LNGの10.8%・6.3%、備蓄241日分の内訳、170円程度という抑制目標、3月19〜25日の支給単価30.2円はすべてここによる。個人系サイト由来の数字(依存度93.5%・備蓄254日分)は、この資料で置き換えた |
| ★5 | 資源エネルギー庁 | 発電用LNGの在庫状況(電力基盤整備課・令和8年8月26日) | 週末在庫量の公表値。8月23日238万トン、8月末の過去平均212万トンはここによる。「何日分」という換算は資料に無いため、本文でも日数には換算していない |
| ★4 | JOGMEC | イラン原油供給ネットワーク再考:中国への流通経路と制裁の有効性(2025年7月1日・豊田耕平) | 独立行政法人による分析。制裁が効かない3つの理由、日量150〜170万バレル、中国向け90%、STSの日量、ティーポット20か所以上はここによる。ただし2025年7月の記事で、データは2025年1〜5月。開戦前の姿として使い、いまの日量には使っていない |
| ★4 | The National(Kpler) | China’s Iranian oil imports nearly halve since war(2026年8月26日) | 船舶データ会社Kplerの集計を明示している。2024年10月の190万バレル、ピーク比72%減、喜望峰回りの運賃10〜11ドル・50日、スエズ経由5ドル・25〜27日、中国の在庫10〜14億バレルはここによる |
| ★4 | 補助金ポータル | ガソリン補助金32.5円/Lへ2週連続拡大|高市首相「170円維持」表明(2026年8月27日更新) | 制度専門メディアで数字の出所が追える。支給単価の週次推移、8月24日の169.9円、基金残高2,100億円、予備費2兆5,000億円、暫定税率廃止日はここによる。高市首相の8月25日の発言は、この記事の要旨として扱い、鉤括弧では引用していない |
| ★3 | CNN.co.jp | 【分析】トランプ氏によるイランからの出口戦略、一つだけ残る大問題(2026年8月28日) | この記事の入口。「5月の会談でイランについて何も頼まなかった」「習主席の訪米は11年ぶり」「貿易休戦は秋に期限」「習主席の8月24日の呼びかけ」はここによる。分析記事で筆者名の記載がなく、論調が入るため★3 |
| ★3 | ARAB NEWS 日本語版 | 米国、イラン産原油を購入した中国の「ティーポット」製油所に制裁を発動/中国、イラン石油関連での米国制裁を拒否 | 4月25日の制裁対象企業名、ベッセント長官の発言、中国商務省の「認めず、実施せず、遵守しない」はここによる。2本の記事で山東省の企業名の表記に揺れがあったため、本文では確実に一致する社名のみを出し、残りは「山東省の複数の独立系製油所」に丸めた |
| ★3 | OilPrice.com/RFE/RL | China’s Teapots Look Beyond Iranian Oil amid U.S. Blockade(2026年8月21日)/US Blockade Squeezes Iranian Oil Supplies To China | 7月82.3万バレル・8月53.4万バレル、前年平均140万バレル、7月13日の封鎖再開、割高化、孫佳楠氏と徐沐宇氏の指摘はここによる。業界メディアで、数字はKplerとEnergy Aspectsという出所が明示されている。アナリスト発言は英語からの訳のため、鉤括弧は最小限にとどめた |
| ★3 | GLOBAL SCM | ホルムズ海峡危機:情勢と今後の見通し(2026年8月6日更新) | 物流業界向けの情勢まとめ。8月4日の通航8隻、戦前135隻、迂回パイプラインの能力、マーシュ社の戦争保険料0.25%→7.5〜10%はここによる。集計主体ごとに数字が割れることを自ら注記しており、その注記ごと本文に反映した |
| ★3 | 日本経済新聞/CISTEC | 米中首脳会談、北京で5月14〜15日に開催/米中首脳会談の概要(2026年5月21日・CISTEC事務局) | 首脳会談の日付と場所の裏取りに使った。日経はrobots.txtにより本文が読めず、見出しのみの確認である。会談でイランが議題になったかどうかは、CNNの記述以外に確認できていない |
| ★2 | Wikipedia(英語版) | 2026 United States naval blockade of Iran/2026 Strait of Hormuz crisis | 封鎖の開始日時、指揮官名、阻止した隻数、損失額、5月29日の終了、海峡閉鎖の経緯はここによる。編集される媒体なので★2。日付と隻数という争いの少ない事実に用途を限定し、損失額は「幅がある」と明記して使った |
この記事で使わなかったもの——戦争の死傷者数は、集約サイトを出所とする推計しか得られなかったため、一切使っていない。ブレント原油の直近価格についても、8月4〜5日の79〜80ドル台までは確認できたが、8月27日時点の水準は一次寄りの資料で裏が取れなかったので本文に書いていない。オマーンとの「回廊」枠組みや洋上積み替えの件数も、通航料が未決着であることまでは確認できたが、積み替え量の数字は裏が取れていない。
関連(当サイト既報)



