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同志社の八田英二理事長が辞めるのは理事長職だけ──残る総長の任期は2029年3月31日まである

学校法人同志社の八田英二理事長(77)が、理事長を辞任する意向を示した。3月の沖縄・辺野古沖でのボート転覆事故で、同志社国際高校2年の武石知華さん(17)と船長の金井創さん(71)が亡くなった責任を取る、という理由だ。

ただし、辞めるのは理事長職だけだ。法人が運営する14校園の教学を統括する総長と、理事の職には残る。そして総長の任期は、2029年3月31日までと決まっている。

さらに、法人が8月25日に公表した文書には、いつ辞めるのかが一行も書かれていない。「遅くとも今年度中」という時期は、法人の発表ではなく、複数の法人関係者に取材した読売新聞が書いたものだ。京都新聞は同じ日に「辞任時期は未定」と書いている。

報道の見出しは「引責辞任」で揃っている。だが、公表された文書に書いてあることと、見出しの語感はかなり違う。何が決まっていて、何が決まっていないのかを並べる。

八田英二氏が辞める職と、残る職学校法人同志社の八田英二氏は理事長職を辞任する意向を示したが、総長と理事の職には残る。総長の任期は2029年3月31日までと決まっている。八田英二氏が辞める職と、残る職(2026年8月27日時点)左=いま就いている3つの職。右=理事長を辞めたあとの状態。いま(2017年から3つを兼ねる)理事長を辞めたあと総長総長 ── 残る14校園の教学を統括する職。任期は2029年3月31日までと決まっている理事理事 ── 残る寄附行為で理事15名のうち1名は「総長のうち理事会が選任した者」理事長理事長 ── 下ろす法人の発表文に時期の記載はない。読売新聞は「遅くとも今年度中」報酬等規程が定める年額(役員が教職員でない場合)総長兼理事長 2,360万円  →  総長のみ 2,000万円  /  理事(その他役員) 36万円八田氏にどちらの欄が適用されるかは、法人が公表していない。出典:学校法人同志社の公表文書・寄附行為・役員一覧・報酬等規程、同志社大学リリース、読売新聞、京都新聞。辞任は意向が伝えられた段階で、2026年8月27日時点で行われていない。

いま就いている3つの職と、理事長を辞めたあとに残る職を並べた。左と右で消えるのは真ん中の1つだけである。まず8月21日からの動きを追い、そのあとで「残る職」の中身を見ていく。


八田英二氏が辞任の意向を伝えたのは、8月21日の臨時理事会だった

時系列を先に置く。ここが曖昧なまま「引責辞任」という言葉だけが動いているためだ。

日付 起きたこと 分かった経路
3月16日 辺野古沖でボート2隻が転覆。同志社国際高の生徒18人と乗組員3人の計21人が乗船し、生徒1人と船長1人が死亡、14人が負傷 法人発表・報道
3月28日 法人が外部弁護士による「特別調査委員会」を設置 法人発表
7月13日 中城海上保安部が、遺族が出した告訴状を受理 報道
7月28日 第11管区海上保安本部が同志社国際高校を家宅捜索。法人がホームページで公表 法人発表
7月31日 特別調査委員会が報告書を提出し、大阪市内で会見。法人は同日、報告書を全文公開し「精査と検討が完了し次第、速やかに記者会見を開催する」と告知 法人発表
8月14日 遺族が法人に緊急の要望書を提出したと発表 遺族側の発信
8月21日 臨時理事会で、八田氏が辞任の意向を伝える。同じ理事会で、西田喜久夫校長を8月31日付で解任することを決議 法人発表
8月24日 法人側から文部科学省に報告があった 文科省への取材(京都新聞)
8月25日 午前5時 読売新聞オンラインが「引責辞任へ」と報道。八田氏のコメントつき 報道
8月25日 日中 法人が京都新聞・共同通信に「理事会の決定事項ではないので、答えは差し控える」とコメント 報道
8月25日 法人がホームページで「理事長の辞任意向および同志社国際中学校・高等学校校長の交代について」を公表 法人発表
8月26日 遺族が「辞任という区切りによって、検証が簡素になることは避けてほしい」とコメント 共同通信配信

目につくのは、法人が自分から発表するより先に読売新聞の朝刊が出ていることだ。8月25日午前5時に記事が配信され、そのあとの取材に法人は「答えは差し控える」と答え、同じ日のうちに自分のホームページで発表している。

もう一つは、記者会見が一度も開かれていないことだ。7月31日に会見を開いたのは特別調査委員会であって、法人ではない。法人はその日、「調査報告書の内容の精査および再発防止策等の検討が完了し次第、速やかに記者会見を開催し、ご説明いたします」と書いた。その会見は8月27日時点でまだ開かれておらず、開催予定の告知も出ていない。法人の代表が代わるという話も、文書1枚で出された。


法人が公表した文書には、辞任の時期が書かれていない

8月25日に法人が出した文書は、A4で1枚に収まる短いものだ。哀悼と謝罪のあと、辞任についてこう書かれている。

2026年8月21日に開催いたしました臨時の理事会において、本法人の八田英二理事長より、本件事故に関する本法人の一連の責任を取って辞任する意向が伝えられました。理事会で協議の結果、本件事故の安全管理に関する再発防止策や教育の中立性及び適切性に関する検証及び改善策を着実に進めていき、説明責任を果たした上で辞任し、理事会で新理事長を選定する見通しです。

── 学校法人同志社「理事長の辞任意向および同志社国際中学校・高等学校校長の交代について」(2026年8月25日)

ここに日付はない。あるのは条件だけだ。「再発防止策」「教育の中立性及び適切性に関する検証及び改善策」を着実に進め、「説明責任を果たした上で」辞任する、と書いてある。

いつ果たされたことになるのかを決めるのは、理事会だ。そして八田氏は、その理事会に理事として残る。

「今年度中」という時期がどこから来たのかを、媒体ごとに並べる。

出どころ 辞任の時期についての書き方 情報源として示されているもの
学校法人同志社(公表文書) 記載なし。「説明責任を果たした上で辞任し」とだけ 法人自身
読売新聞オンライン 「事故の対応や安全対策、教職員の処分などにめどをつけた後、遅くとも今年度中に理事長から退くとみられる」 「複数の法人関係者ら」
京都新聞 「辞任時期は未定で、法人の総長と理事は引き続き務める」 文部科学省への取材
共同通信 法人のコメント「理事会の決定事項でないので、答えは差し控える」 法人への取材

「遅くとも今年度中」と「時期は未定」は、同じ日の同じ出来事についての記述である。前者は法人関係者への取材、後者は文部科学省への取材から出ている。法人自身はどちらも言っていない。

今年度は2027年3月31日で終わる。読売の書き方が正しければ、辞任まであと7か月。京都新聞の書き方が正しければ、期限はない。

八田氏の「法人として責任があり、以前から辞任を熟考してきた」という発言と、「総長と理事の職にはとどまる」という説明は、どちらも読売新聞の取材に対するもので、当サイトは音声も映像も確認していない。同趣旨の「総長と理事は引き続き務める」は京都新聞も別ルートで書いており、2社が一致している。


残る総長職は、任期が2029年3月31日までと決まっている

ここからが本題だ。八田氏が残る「総長」とは何か。学校法人同志社の寄附行為(法人の憲法にあたる規則)は、第4条でこう定めている。

前条の各学校の教学を統轄するために、この法人に総長を置く。2 総長は、評議員会の意見を徴して、理事会がこれを選定する。3 総長の任期は、4年とする。

── 学校法人同志社寄附行為 第4条

「前条の各学校」を数えると、同志社大学や同志社女子大学、同志社国際中学校・高等学校などで14校園になる。読売新聞が「法人が運営する14校園の教学を統括する総長」と書いたのは、この範囲を指す。

任期は4年。八田氏がいつ選ばれたかは、同志社大学が2025年1月16日に出したプレスリリースに書いてある。

現総長の任期満了(2025年3月31日)に伴い、同志社総長候補者選出規程に基づき、次期同志社総長候補者に、現八田英二総長が選出されました。任期は、2025年4月1日から2029年3月31日までの4年間です。

── 同志社大学「次期同志社総長候補者について」(2025年1月16日)

事故の1年2か月前に、八田氏は総長として再選されている。任期の終わりは2029年3月31日。8月27日から数えて2年7か月先だ。

「遅くとも今年度中」に理事長を退いたとしても、総長の椅子はその後さらに2年残る。法人の文書に時期がない以上、確実に言えるのはこちらの日付だけである。


総長にとどまる限り、理事の椅子も残る仕組みになっている

もう一つ残るのが「理事」だ。これは総長職とセットで動く。

寄附行為第9条は、理事15名の内訳を定めている。その第1号がこれだ。

総長のうち、理事会において選任した者 1名

── 学校法人同志社寄附行為 第9条第1号

つまり理事15人の枠のうち1つは、総長のためにある。法人が公表している「役員・評議員・社友一覧」(2026年8月4日現在)の理事欄は、こうなっている。

氏名 任期の書かれ方
理事長 八田 英二 2017年4月22日~(終わりの日付が書かれていない)
総長 八田 英二 2025年4月1日~2028年度定時評議員会終結の時
大学長 小原 克博 2024年4月1日~2027年度定時評議員会終結の時
常務理事(教学、危機管理) 瀧 英次 2026年8月4日~2029年度定時評議員会終結の時

八田氏の名前が、理事長と総長の2つの枠に出ている。理事長の欄だけ終わりの日付がない。理事長は理事の中から選ぶ職なので、理事でいる限り続く形になっているためだ。

私立学校法も同じ構造を定めている。第37条は「理事長は、理事のうちから理事会において選定する」。理事を選ぶのも解任するのも理事選任機関で(第30条・第33条)、評議員会は解任を「求める」ことができるだけである。

言えることは一つだ。理事長を辞めても、総長である限り理事の枠は残る。逆に、総長を辞めればその枠は空く。八田氏が下ろすと言っているのは、3つのうち一番外側の看板だけである。


報酬の規程は、総長兼理事長と総長だけの額を分けて書いている

役職が減れば、報酬も減る。法人はその額を公表している。「学校法人同志社役員の報酬等規程」の別表1は、役員が法人の教職員である場合とそうでない場合の2列に分かれる。教職員でない場合の年額はこうだ。

役職 月額報酬 夏期賞与 冬期賞与 年額
総長兼理事長 130万円 325万円 475万円 2,360万円
総長 110万円 275万円 405万円 2,000万円
理事長 110万円 275万円 405万円 2,000万円
常務理事 50万円 なし なし 600万円
その他役員(理事など) 3万円 なし なし 36万円

兼務をやめて総長だけになると、年額は2,360万円から2,000万円になる。減るのは360万円、約15%だ。役員が法人の教職員である場合は別の列があり、総長兼理事長は年540万円、総長は年360万円と書かれている。

八田氏にどちらの列が適用されるかは、法人が公表していない。プロフィール欄には「1985年 同志社大学経済学部教授(2019年~同志社大学名誉教授)」とある。名誉教授は専任の教職員ではないが、実際の扱いは分からない。

もう一つ、同じ規程の第4条に退任慰労金の定めがある。

総長、理事長、常務理事及び常勤の監事には、退任時に退任慰労金を支給する。2 退任慰労金の支給額は、在任1年につき退任時の月額報酬額とする。ただし、在任年数が3年以上の場合は、在任1年につき退任時の月額報酬額の倍額を支給額とする。

── 学校法人同志社役員の報酬等規程 第4条

この条文が、理事長職だけを退いて総長にとどまる場合に適用されるのかは、規程の文面からは読み取れない。「退任時」が役員そのものを退くときを指すのか、個別の職を退くときも含むのかが書かれていないためだ。ここは推測しない。


校長は「退任」ではなく、8月31日付の「解任」だった

同じ8月21日の臨時理事会で、もう一つ決議されたことがある。同志社国際高校の西田喜久夫校長の処遇だ。法人の文書はこう書いている。

また、同理事会において、西田喜久夫校長を2026年8月31日付で解任することを決議いたしました。事故前後の対応を含め、再発防止策や改善策に取り組むべく、9月1日からの新学期を下記の新たな体制で迎える必要があることなどを総合的に判断いたしました。

── 学校法人同志社(2026年8月25日)

「解任」と書いてある。理事長の「辞任する意向」とは性質がちがう。辞任は本人の申し出、解任は理事会が本人の意思と関係なく職を解く決議だ。

ところが報道の表記は割れた。

媒体 校長の処遇の書き方 備考
学校法人同志社 解任 8月31日付。理事会の決議として公表
時事通信 解任 見出しに「月末に解任」
朝日新聞 解任 見出しに「法人がHPで公表」
MBSニュース 解任 法人の理由説明を引用
読売新聞オンライン 退任 法人発表より前、8月25日午前5時配信
京都新聞 退任 同日12時30分配信。文科省への取材

読売と京都新聞は、法人が発表文を出す前に書いている。だから「退任」と書いたこと自体は不自然ではない。ただ、法人の文書が出たあとも、この2社の記事は「退任」のままだ。読者から見ると、同じ日に「校長は退任」と「校長は解任」の両方が流れたことになる。実際に決議されたのは解任である。

後任は宿久洋(やどひさ・ひろし)氏。現在は学校法人同志社の企画部長と同志社大学副学長を兼ねており、9月1日付で同志社国際中学校・高等学校長に就く。

法人の文書は、このあとにもう一行だけ足している。「なお、関係者については、引き続き、処分を検討してまいります。」


7月31日の報告書は「明らかに安全配慮義務違反があった」と書いた

7月31日に何が出たのかを押さえておく。これが辞任の理由になっている。

法人が3月28日に設置した特別調査委員会は、外部の弁護士3人でつくられた。委員長は渡辺徹氏(北浜法律事務所・外国法共同事業)、委員は秋山洋氏(弁護士法人御堂筋法律事務所)と谷明典氏(同)である。

7月31日午後4時、大阪市中央区の北浜フォーラムで会見が開かれた。渡辺委員長の発言を京都新聞が記録している。

学校法人同志社は、生徒に対する安全配慮義務違反の責任を免れない。多くの教職員において、生徒の身体・生命の安全を確保するために何をなすべきかという観点での大きな想像力の欠如があった。猛省しなければならない

── 特別調査委員会 渡辺徹委員長(2026年7月31日、大阪市内での記者会見)

報告書は9章立てで、第6章が「学校法人同志社の安全配慮義務違反の有無」にあてられている。そこで挙げられた義務は3つだ。

第6章で挙げられた義務 内容
1 事前調査義務違反 ボートのコースを事前に自分で調べる義務
2 安全性を確保した研修旅行計画を策定し、実施する義務 安全を確保した計画を作り、そのとおり実施する義務
3 説明義務違反 生徒と保護者に、何をするのかを説明する義務

報告書は「明らかに安全配慮義務違反があった」と結論づけ、事故の原因に安全管理体制の不備、リスク管理の機能不全、安全管理を他人任せにする組織風土を挙げた。再発防止策として、危機管理マニュアルの見直し、リスク管理体制の再構築、組織風土改革を提言している。

ただし、報告書には範囲の限定がある。第1章にこう書かれている。

本調査は、学校法人同志社及び同志社国際高校の役員及び教職員、その他本件事故の関係者の民事上又は刑事上の法的責任の追及を目的とするものではない。また、平和学習の内容については、教育活動の内容自体は本調査の対象外である。この2点は、報告書のなかで委員会自身が書いている。誰にいくら払わせるか、誰を罰するかは、この報告書では決まらない。

7月31日に出たのは法人という組織に義務違反があったという認定であって、個人の責任を割り振ったものではない。それを割り振るのは、刑事の手続きと、法人自身の処分と、民事の裁判である。


教職員の処分を決めるのは、八田氏が理事として残る理事会である

法人の8月25日の文書は、辞任と校長解任のあとに一行だけこう足していた。「なお、関係者については、引き続き、処分を検討してまいります。」

読売新聞の書き方も重なる。「事故の対応や安全対策、教職員の処分などにめどをつけた後、遅くとも今年度中に理事長から退くとみられる」。辞任の前に処分があるという順番だ。

ここで辞任の中身がもう一度効いてくる。処分を決めるのは理事会であり、八田氏はその理事会に理事として残る。

順番はこうなる。理事会が教職員の処分を決める。八田氏はその議決に加わる。処分が終わり、理事会が「説明責任は果たされた」と判断したら、八田氏は理事長を辞める。新しい理事長を選ぶのも同じ理事会だ。

この流れのどこにも、法人の外の人間は入っていない。報告書を書いた特別調査委員会は、報告書を出した時点で役目を終えている。

役員名簿から分かることがもう一つある。理事会には「常務理事(教学、危機管理)」という担当が置かれ、2026年8月4日現在で瀧英次氏がその職にある。危機管理を担当する常務理事が、事故の関係者の処分を検討する側にいる形になる。

これは規則違反ではない。私立学校法も寄附行為も、そういう構造をとる。ただ、報告書が「安全管理を他人任せにする組織風土」を原因に挙げた組織が、自分でその処分を決める形になることは、書いておく。


刑事の手続きは、法人の外で進んでいる

法人の内側で処分が検討される一方、外側では別の手続きが動いている。

2026年7月13日、中城海上保安部が遺族の出した告訴状を受理した。罪名は業務上過失致死傷など。対象は11人で、同志社国際高校の校長ら4人と、ボートを運航していた市民団体「ヘリ基地反対協議会」の共同代表ら7人とされる。

7月28日には第11管区海上保安本部が同志社国際高校を家宅捜索し、法人はこの日、ホームページで「同志社国際高等学校に対する家宅捜索について」を公表した。8月12日には協議会関係者の自宅にも捜索が入ったと報じられている。

告訴状の受理と家宅捜索は、捜査が始まったことを意味するだけで、罪が決まったことではない。対象とされた11人の氏名は公表されておらず、この記事でも書かない。書類送検されたか、起訴されたかは、8月27日時点で確認できていない。刑事責任が問われるかどうかは、これから捜査機関と裁判所が判断することであり、それまでは無罪と推定される。

ここでも報告書の限定が効いてくる。あの報告書は「民事上又は刑事上の法的責任の追及を目的とするものではない」と自分で書いていた。だから「明らかに安全配慮義務違反があった」という記述は、誰かが罪に問われることを意味しない。逆に、個人名を割り振らなかったことも、誰にも責任がないことを意味しない。この2つは別々に進み、法人の処分はそのどちらとも別に、法人が自分で決める。


遺族は「どなたかが職を退くことではなく」と書いた

亡くなった武石知華(ともか)さんの両親は、8月26日にコメントを発表した。

法人の最高責任者が事故の責任を認めたことは重く受け止めている

私たちが求めてきたのは、どなたかが職を退くことではなく、なぜ知華が亡くならなければならなかったのかが明らかになり、誰にどのような責任があったのかが事実に基づいて示され、二度と同じことが起きない仕組みが作られることだ

辞任という区切りによって、検証が簡素になることは避けてほしい

── 武石知華さんの両親(2026年8月26日発表、産経新聞・共同通信が報道)

産経新聞によれば、両親は八田氏が総長職にとどまると報じられていることを踏まえて、「検証の結果に対する責任はこれからもあり続ける」と強調した。西田校長の解任についても、「どのような対応でどのように評価された結果なのか説明を求めたい」としている。

「どなたかが職を退くことではなく」という一行が、ここまで並べてきたことと正面から重なる。辞任が発表されると一件落着という空気になり、そのあとの検証が薄くなる。それを先回りして書いている。

8月14日、両親は法人に緊急の要望書を出していた。中立性と公正性を確保した検証体制の確立と公表を求めるもので、根拠の示されない処分は「幕引き」になりかねないと懸念していた。その11日後に、辞任の意向が理事会に伝えられている。

遺族は7月22日に「辺野古転覆事件の全容解明と再発防止を求める会」を立ち上げ、noteで発信を続けている。報告書の読後メモには、委員会が個人への責任の割り振りをしなかったことは責任がないことを意味しない、それを担うのは捜査機関と、処分を決める学校と、民事の裁判所だ、と書かれている。八田氏の辞任は、その3つのどれでもない。


法人が説明していないことが、まだいくつも残っている

一つめは、辞任の条件に入っている「教育の中立性及び適切性に関する検証」だ。文部科学省は2026年5月、この研修旅行が教育基本法の定める政治的中立性に反すると初めて認定した。しかし7月31日の報告書は、平和学習の内容を対象外にしている。中立性の検証を誰がどこでやるのかは示されていない。

二つめは、船を運航していた団体との関係だ。法人は6月8日の文書でこう書いている。

本法人は、私学として創立者新島襄が掲げた建学の精神に基づき、キリスト教を徳育の基本とする学校を経営し、もって教育の実を挙げることを目的とする学校でありますが、日本基督教団、ヘリ基地反対協議会をはじめとする特定の団体による学校運営への影響はありません。

── 学校法人同志社「同志社国際高等学校の研修旅行等に関する発信等について(お願い)」(2026年6月8日)

同じ文書で法人は、在校生への危害をほのめかす行動や電話をやめてほしいと求め、「学生、生徒等に責任はありません」とも書いている。生徒を守る文としては当然の内容だ。ただ、団体との関係を否定した一文について、法人はそれ以上の説明をしていない。報告書も、平和学習の内容を対象外にした以上、踏み込んでいない。

大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は8月25日、八田氏が総長と理事に残ることを「単なる保身・責任逃れとしか言いようがない」と書き、全役職を辞任して記者会見を開くべきだと主張している。


【論評】辞任と呼ぶかどうかは、この記事では決めない

ここからは事実ではなく、評価である。

この記事が並べた事実はすべて、法人が自分で公表している文書か規則から取れる。寄附行為も役員名簿も報酬等規程も、法人のホームページにある。隠されているものは一つもない。

それでも、8月25日の見出しを見た人が受け取る像と、文書に書かれていることはずれる。見出しは「引責辞任へ」。文書には日付がなく、条件だけがあり、残る職のことは一行も書かれていない。

代表の看板は下ろす。だが教学を統括する職と、処分を決める議決権は残る。それを辞任と呼ぶかどうかは、読む人が決めていい。

報告書が原因に挙げたのは、特定の教員の判断ミスではなく「安全管理を他人任せにする組織風土」だった。風土は、看板を1枚下ろしても変わらない。渡辺委員長が「多くの教職員において」と言ったのは、そういう意味だろう。その風土ができた期間に、八田氏は総長と理事長を9年務めている。処分を決める理事会に残るのは、その9年の当事者である。

これは同志社だけの形ではない。学校法人の理事長は理事の中から理事会が選ぶ、と私立学校法が定めている。理事長職を降りても理事に残る形は、どの学校法人でも作れる。「理事長辞任」と報じられたとき、その人が法人からいなくなったのかどうかは、役員名簿を見ないと分からない。


次に確認できる日付

これから日付が動く。確認できる点を挙げておく。

時期 確認できること どこで分かるか
2026年9月1日 宿久洋氏が校長に就任。西田氏の解任が実行されたか 学校の公式サイト
時期未定 7月31日に法人が予告した記者会見が開かれるか 法人のNews一覧
時期未定 「関係者」の処分の内容と人数。誰が対象になったか 法人の発表
2027年3月31日 読売が書いた「遅くとも今年度中」の期限。理事長が交代したか 役員・評議員一覧
2029年3月31日 総長の任期満了。ここまでは辞めなければ在職する 役員・評議員一覧
時期未定 告訴された11人の書類送検・起訴の有無 海上保安庁・検察の発表

法人の「役員・評議員・社友一覧」は更新日つきで公開されている。理事長の欄と総長の欄の名前を見れば、何が起きたかは1分で分かる。


言葉の整理

言葉 この記事での意味
理事長 法人を代表し、業務を総理する職(寄附行為第16条)。理事の中から理事会が選ぶ。辞任の意向が示されたのはこの職
総長 14校園の教学を統轄する職(同第4条)。任期4年。八田氏の現任期は2029年3月31日まで
理事 定員15名。うち1名は「総長のうち、理事会において選任した者」(同第9条)
辞任 本人が申し出て職を離れること。八田氏は8月21日に意向を伝えた段階で、8月27日時点でまだ辞任していない
解任 本人の意思と関係なく、決議で職を解くこと。西田校長は8月31日付で解任と決議された

この記事で使った資料と、その確度

★が低いから使わない、という意味ではない。★2でも用途を限定すれば材料になる。何に使い、何に使わなかったかを書いた。

確度 媒体 資料 評価の理由と、使った範囲
★5 学校法人同志社 理事長の辞任意向および同志社国際中学校・高等学校校長の交代について(2026年8月25日) 当事者が自分で出した文書。辞任の条件、校長解任の日付と理由、後任人事はここから引いた。辞任の時期と残る職の記載がないことも、事実として使った
★5 学校法人同志社 学校法人同志社寄附行為(2025年4月1日) 法人の基本規則。第4条(総長・任期4年)、第9条(理事15名の内訳)、第16条(理事長)を条文のまま引いた
★5 学校法人同志社 役員・評議員・社友一覧(2026年8月4日現在) 理事長・総長・理事の任期表記はここから。理事長の欄に終期がないことを確認した
★5 学校法人同志社 役員及び評議員の報酬等規程総長・理事長プロフィール 2026年1月と2025年4月の両施行版を突き合わせた。八田氏にどちらの列が適用されるかは書かれていないので、推測せず「分からない」と書いた
★5 同志社大学 次期同志社総長候補者について(2025年1月16日) 大学自身のリリース。総長任期が2025年4月1日から2029年3月31日までであることの根拠
★5 特別調査委員会 調査報告書の受領について(2026年7月31日・報告書PDF添付)記者会見開催について(7月30日) 章立て、第6章の3類型、調査範囲の限定はPDF本体から。委員3人の氏名と所属は7月30日の告知から。会見を予告した一文もここにある
★5 学校法人同志社 研修旅行等に関する発信等について(お願い)(2026年6月8日) 団体との関係を否定した一文を全文で引いた
★5 e-Gov(デジタル庁) 私立学校法 第30条(理事の選任)、第33条(解任)、第37条(理事長は理事のうちから理事会が選定)。同志社だけの形ではない根拠に使った
★3 読売新聞オンライン 同志社の八田英二理事長が引責辞任へ(2026年8月25日5時) 第一報。八田氏の発言と「総長と理事にとどまる」の出どころ。「遅くとも今年度中」は「複数の法人関係者ら」への取材であって法人の発表ではないと、本文に明記した
★3 京都新聞 八田英二理事長、理事長職を辞任する意向(8月25日)「学校法人同志社は猛省を」特別調査委員会が会見(7月31日) 地元紙で記者名が入り、会見は現場取材。「辞任時期は未定」、文科省ルートの日付、渡辺委員長の発言、乗船者数はここから
★3 時事通信・朝日新聞・MBS 時事(8月25日)朝日(同)MBS(同) 校長の処遇を「解任」と書いた3社。読売・京都新聞の「退任」との表記の割れを示すのに使った
★2 共同通信 「簡素な検証避けて」同志社理事長引責で遺族(8月26日)/法人コメント「理事会の決定事項でないので、答えは差し控える」 配信記事で自社サイトの全文が読めない。「誰が何を言ったか」にだけ使い、理由や背景の説明には使っていない
★3 産経新聞 辺野古転覆事故の遺族がコメント「検証結果の責任はこれからも」(8月26日) 記者名入りで、遺族コメントをいちばん長く引いている。遺族コメントの文言はここから取った。8月14日の要望書の中身もここ
★2 Yahoo!エキスパート 石渡嶺司「八田氏の総長留任には批判続出」(8月25日) 署名のある個人の論評。外部の評価として名前つきで引いただけで、事実の根拠にはしていない
★2 遺族側の発信 辺野古ボート転覆事故遺族メモ「調査報告書を読んで① 責任について」 当事者の発信で、立場は一方の側。遺族の受け止めとしてのみ使い、報告書の内容の根拠には使っていない

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編集者K

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