沖縄県知事選挙は2026年8月27日に告示、9月13日に投開票。現職の玉城デニー知事が3選を目指し、自民党などが推す前那覇市副市長の古謝玄太氏と、元衆院議員の下地幹郎氏が挑む構図である。
その告示5日前、玉城氏が総決起大会でこう述べた。「3万票を取るため、告示日までに電話をかけて選挙に入る準備の声掛けをしてほしい」。事前運動ではないか、という指摘が出た。指摘であって、認定ではない。
この記事では3つを分けて確かめる。
ひとつめ。「公選法違反」と言われているものは2つあり、確からしさがまったく違う。
告示前の発言が事前運動にあたるという話は、いまのところネット上の指摘だけである。選挙管理委員会も警察も、この件については何も言っていない。一方、のぼり旗とポスターについては、県選管が「公職選挙法に違反する」と判断して撤去命令を出している。前者は疑惑、後者は行政の判断として出た事実である。
そのうえで、どちらも刑事の認定ではない。本人・後援会・陣営が立件・起訴・有罪になった記録は、報道にも公的資料にも見当たらない。ネット上で言われている「告発状が提出された」「陣営が撤去を拒否した」に至っては、報道機関の記事が1本もない。
ふたつめ。その367件の撤去命令は、4陣営すべてが対象である。玉城陣営だけの話ではない。ただし2022年の知事選では11件だった。
みっつめ。地力と情勢がねじれている。政党の得票で見れば古謝氏の側が3倍厚い。それでも8月に出た県内の世論調査では、先行しているのは玉城氏だった。
まず、構図を1枚にした。
左が現職、真ん中が自民党などが推す新人、右が元衆院議員である。下の2枚が、この選挙のいちばん奇妙なところにあたる。
自民党が立てたのは、42歳の元総務官僚だった
まず対抗馬の側から見る。名前が知られていないぶん、経歴を置いておく必要がある。
古謝玄太氏は1983年10月生まれの42歳。那覇市の出身で、石嶺小・中から昭和薬科大附属高を経て、東京大学薬学部を卒業して総務省に入った。内閣官房や復興庁でも働き、岡山県庁と長崎県庁に出向して国際課長や財政課長を務めている。
その後、2022年12月に那覇市の副市長に就任した。記録が確認できる範囲で史上最年少の副市長だったとされる。任期は4年だったが、2026年2月に辞職して知事選に向かった。
4年前、2,888票差で負けている
古謝氏には選挙の実績がある。
2022年7月の参議院選挙沖縄選挙区に、自民党公認で出た。結果はこうである。
| 候補 | 得票 | 結果 |
|---|---|---|
| 伊波洋一(無所属・現職) | 274,235票 | 当選 |
| 古謝玄太(自民党・新人) | 271,347票 | 落選 |
差は2,888票である。沖縄選挙区としては異例の接戦だった。この人物が、4年後に知事選へ回ってきた。
推薦を出したのは6つ
古謝氏についた政党は、数だけ見ても多い。
| 政党 | 決定 |
|---|---|
| 国民民主党 | 7月20日 |
| 自由民主党/日本維新の会 | 8月8日 |
| 公明党(県本部。本部推薦ではない) | 8月13日 |
| 日本保守党 | 8月19日 |
| 参政党 | 8月3日の時点で決定済み |
自民から参政、日本保守党までが同じ候補に乗っている。国政では距離のある政党が並んでいることになる。
公約は8月14日に発表された。41市町村での聞き取りにもとづく120項目で、柱は「10年で県民所得を倍増し、手取りを2倍に増やす」である。観光・健康・環境・海洋・起業を軸にした「新5K経済構想」、公共交通を組み直す「沖縄移動革命」、国の沖縄関係予算と一括交付金の大幅増額の要望が並ぶ。辺野古については、普天間の危険性を除く最も早い解決策として移設を容認する立場である。
玉城デニーは、政党の推薦を受けない
現職の側は、今回そこを変えている。
玉城氏は2026年5月11日、政党の推薦を受けない方針を表明した。「幅広く県民党的な組織体制にするため。推薦ありきではなく、形にこだわらずに支援をお願いしていく」という説明である。
支援を表明しているのは共産党、立憲民主党、社民党、沖縄社会大衆党。連合は7月16日の中央執行委員会で玉城氏の推薦を決めた。
ここで、ねじれが1つ出ている。連合が「連携政党」と位置づける国民民主党は、古謝氏を推薦している。労働団体と政党が、同じ選挙で反対側についた。国民民主の玉木代表は「問題ない」とコメントしたと報じられている。
玉城氏は1959年10月生まれの66歳。うるま市の出身で、ラジオのパーソナリティから沖縄市議、衆院議員4期を経て、2018年に知事になった。
公約は8月12日に発表された。7本の柱があり、高校3年までの窓口医療費無料化の拡大、就学援助と給付型奨学金の拡充、鉄軌道の早期導入、離島の島外通院への支援拡充などが並ぶ。7本目が「辺野古新基地建設反対の民意を守り抜く」である。
8月22日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで総決起大会を開いた。3期目の施策として「おきなわゆいまーる基金」の創設を掲げ、2期8年の実績として首里城火災への対応と県税収入が過去最高になったことを挙げている。
政党の地力では、3倍の差がついている
ここからが情勢の話になる。
沖縄タイムスが8月23日に出した記事の見出しは、「支持基盤は古謝玄太氏が圧倒 玉城デニー氏の3倍」だった。
比べたのは2026年2月の衆院選の比例代表で、県内の政党別得票数である。古謝氏を推薦する5党の合計が、玉城氏を支援する3党を3倍上回った、という比較だ。
同じ記事は、国政選挙と知事選では争点が異なるとも書いている。そのまま置き換えられる数字ではない。ただ、組織の厚みの差としては大きい。
足元は、4年で細っている
現職の側から見ると、この4年の数字は一貫している。
| 選挙 | 結果 | 投票率 |
|---|---|---|
| 2018年 知事選 | 玉城396,632票/佐喜真316,458票。差は80,174票 | 63.24% |
| 2022年 知事選 | 玉城339,767票/佐喜真274,844票/下地53,677票。差は64,923票 | 57.92% |
| 2024年 県議選 | 県政与党が24議席から20議席へ。定数48の過半数を失う | 45.26% |
| 2025年 参院選 | 高良265,203票/自民の奥間231,907票。差は33,296票。参政党が126,743票 | 56.75% |
玉城氏の得票は、2018年から2022年で56,865票減っている。相手との差も80,174票から64,923票に縮んだ。
そして2024年の県議選で、県政与党は定数48のうち20議席になった。投票率45.26%は過去最低である。
2025年の参院選も、勝ってはいるが33,296票差だった。そこで126,743票を取った参政党が、今回は古謝氏を推薦している。
「オール沖縄」は、この4年で細っている
数字が動いた理由は、枠組みの側にある。
「オール沖縄」は2013年1月の建白書から始まった。オスプレイの配備撤回と普天間の県内移設断念を求めて、県内の市町村長と議会議長が政府に出した文書である。手渡したのは当時の翁長雄志・那覇市長。保守と革新が、基地の一点で組む形だった。
その形を支えていたのが経済界である。2015年12月に発足した「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」の共同代表には、金秀グループの呉屋守將会長が入っていた。その経済界が、抜けた。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2018年2月 | 金秀グループの呉屋会長が共同代表を辞任。名護市長選の敗北の引責で、この時点では辺野古反対を続けると述べていた |
| 2018年4月3日 | かりゆしグループが脱会。県民投票への消極姿勢が理由。幹部は「オール沖縄は設立時に比べて革新色が強くなり」と述べた |
| 2021年9月 | 呉屋会長が離脱を明言。「これからは経済が大切で、自分の後ろにはたくさんの従業員もいる」 |
翁長氏が2018年8月に死去したあと、保守側が順に離れた。2024年の県議選で与党が20議席になったのも、その延長線上にある。
そして今回、玉城陣営が「オール沖縄」という言葉を控えていると、読売新聞が8月12日に報じている。ただしこれは1社の報道で、本稿は本文を読めていない。傍証はある。8月22日の総決起大会の主催は支持団体「県民と歩む会」で、地元紙の記事に「オール沖縄」の語は出てこない。政党の推薦を受けない「県民党」方式も、同じ方向を向いている。
現場のほうでは、人が死んでいる
反対運動そのものにも、この2年で大きな出来事が2つ起きた。キャンプ・シュワブのゲート前の座り込みは、2014年7月7日に約100人で始まった。警察庁は2026年5月8日の衆院法務委員会で、2015年以降の逮捕者を110人、うち外国籍が5人、県外を住所とする者が延べ23人と答弁している。そこに、事故が重なった。
2024年6月28日、名護市安和の桟橋の出口で、土砂の搬出に抗議する牛歩戦術が行われていた最中に、ダンプカーが2人に衝突した。47歳の男性警備員が死亡し、抗議に参加していた72歳の女性が重傷を負った。
県警は2年後の2026年6月5日、3人を書類送検した。抗議に参加していた女性を重過失致死、ダンプの運転手を過失運転致死傷、誘導していた警備員を業務上過失致死傷。県警は事故の地点を「車道」と判断している。歩行者に重過失致死を適用するのは異例とされる。
一方、オール沖縄会議は事故の直後、警備会社が代わってダンプの誘導が強引になったと主張し、防衛局に工事の中断を求めていた。事実の見方が正面から食い違っている。書類送検は起訴ではなく、3人の認否は公表されていない。
2026年3月16日には、辺野古沖で抗議船2隻が転覆した。京都の高校の研修旅行で、生徒18人が2隻に分乗していた。17歳の女子生徒と、71歳の男性船長が死亡した。負傷者の数は、報道によって14人と16人に分かれている。
2隻とも、人を運ぶのに必要な海上運送法の登録を受けていなかった。国土交通省は5月22日、死亡した船長を同法違反の疑いで刑事告発した。海上保安庁は8月12日にも、船を運航していたヘリ基地反対協議会の関係者宅を業務上過失致死傷などの容疑で捜索している。捜査は続いていて、起訴された人はまだいない。
文部科学省は5月22日、この高校の学習内容が教育基本法14条の政治教育の規定に違反すると認定した。同種の認定は初めてとされる。玉城知事は3月27日の記者会見で、こう述べている。
二度とこのような悲惨な事故が発生しないように、修学旅行における安全管理体制や受入体制の再点検を、関係機関と連携して進めていきたい
修学旅行で、この船を使って海上から現地の様子を見るというような情報を持ち合わせておりませんでしたので、ある種、本当に衝撃を受けた
── 玉城デニー・沖縄県知事(2026年3月27日 定例記者会見。沖縄県の会見録より)
知事は、抗議船に修学旅行生が乗っていたことを知らなかったと述べている。
事故のあと、ゲート前の抗議行動は3月17日にいったん中止された。沖縄平和運動センターの代表は、犠牲者への哀悼を表するためだと説明した。
この状態で、選挙は告示を迎える。
それでも、世論調査では現職が先行している
ところが、数字がひっくり返る。
選挙コンサルタントの大濱崎卓真氏が2026年8月12日に公表した記事によると、ジャッグジャパン株式会社が県内の有権者に世論調査を実施した。ネット調査と電話調査を組み合わせ、有効回答は950件。性別と年代で人口構成に補正をかけている。
結果は「玉城デニー氏が先行し、古謝玄太氏が追う展開」だった。
ただし、同じ記事に条件が付いている。「まだ決めていない」が4割以上にのぼり、情勢はなお流動的である。
4割が決めていない調査の「先行」は、確定した優劣にならない。年代別・地区別の内訳は有料部分にあり、確認していない。
報道各社の情勢調査は、まだ1本も出ていない
念のため書いておく。8月25日の時点で、沖縄タイムス、琉球新報、共同通信、朝日、読売、毎日、NHKのいずれも、今回の知事選の情勢調査を出していない。
琉球新報の「2026知事選」タグの記事も、「世論調査」タグの記事も当たったが、今回の調査は見当たらなかった。
4年前がどうだったかは残っている。2022年は琉球新報と共同通信が8月28日(告示の3日後)に1回目、9月5日(投開票の6日前)に2回目を出した。同じ間隔なら、今回の1回目は8月末から9月初めに出ることになる。
つまりいまは、地力の数字だけが先に出ていて、情勢の数字はまだ揃っていない時期である。そこに「公選法違反」の話が乗った。
「3万票取るため、電話をかけて」
ここが今回の発端になる。産経新聞が2026年8月24日に報じた、8月22日の総決起大会での発言である。
この選挙は3万人の勝負。3万票を取るため、告示日までに電話をかけて選挙に入る準備の声掛けをしてほしい
── 玉城デニー知事の発言として産経新聞が報じた内容(2026年8月22日の総決起大会)
産経は続けてこう書いている。この発言をめぐって、「立候補届け出前の投票依頼などの選挙運動を禁じた公職選挙法の事前運動に当たるのではないかとの指摘が、インターネット上を中心に相次いでいる」。
読み落としてはいけないのは、指摘の主体である。選挙管理委員会でも、警察でも、対立陣営でもない。インターネット上である。
条文はどうなっているか
公職選挙法129条は、選挙運動の期間をこう区切っている。
選挙運動は、候補者の届出のあった日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない
── 公職選挙法 第129条(要旨)
届出の前にやれば事前運動になる。罰則は239条1項1号で、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金である。
今回の告示は8月27日、発言は8月22日。5日前である。
ただし、事前運動かどうかは言葉の見た目だけでは決まらない。投票を依頼したのか、選挙運動の準備を頼んだのかで扱いが変わる。「電話をかけて声掛けをしてほしい」がどちらなのかは、本稿が判断できることではない。判断するのは捜査機関と裁判所である。
本人は何と言ったか
玉城氏は8月24日の朝、県庁に登庁したところで記者団に応じている。
勢いによって出てしまった言葉。いかがなものかという意見もあるから、指摘はしっかりと受け止めたい
厳しい状況であることは、われわれ選対でも一致している認識。必死に頑張ろうという気持ちが言葉で思い余って(出て)しまったかもしれない。以後、気を付ける
── 玉城デニー・沖縄県知事(2026年8月24日朝、県庁での取材に対して。産経新聞)
ここに、情勢についての言葉が混じっている。「厳しい状況であることは、われわれ選対でも一致している認識」。
世論調査では先行していると言われた候補の陣営が、内部では厳しいと見ている。その認識が「3万票」という数字と、告示前の電話という手段を出させた。
3万票が何を指すのかは、本人が説明していない。参考までに置くと、2022年知事選の得票差64,923票は、約3万2千票が動けば逆転する差である。これは本稿の計算であって、玉城氏がその意味で言ったという裏付けはない。
のぼり旗の撤去命令は、4陣営すべてに出ている
もう1つ、公選法の話が並行して走っている。
沖縄タイムスが8月10日に報じた。県選挙管理委員会(武田昌則委員長)が同日、「立候補予定者4人の氏名などが表示された計367件」のポスターやのぼり旗を公職選挙法に違反すると判断し、関係者宛てに撤去を命じる文書を発送した。
4人である。特定の陣営の話ではない。
陣営別の内訳は有料部分にあり、確認できていない。ネット上には玉城陣営200件という数字が出回っているが、一次確認ができていないので使わない。
4年前は11件だった
件数の意味は、過去と並べると分かる。
| 年 | 内容 |
|---|---|
| 2018年 | 県警が違法な掲示物46件に警告(9月19日まで)。陣営別の内訳は記事にない |
| 2022年 | 県選管が計199件に撤去命令(参院選188件、知事選11件)。知事選分は佐喜真氏のぼり旗7件、玉城氏のぼり旗4件 |
| 2026年 | 県選管が367件に撤去命令。立候補予定者4人分 |
11件が367件になっている。2022年は佐喜真陣営7件、玉城陣営4件で、どちらも一桁だった。
何が違反なのか
根拠になっているのは、公職選挙法143条である。
同条16項は、候補者等や後援団体の氏名・名称を表示した文書図画の掲示を、一定の期間について禁止扱いにする。その「一定期間」を決めているのが19項で、任期満了による選挙では、任期満了の6か月前からである。
今回の知事の任期満了は2026年9月28日。逆算すると2026年3月29日から掲示が禁止されていたことになる。沖縄県の公式サイトにも、その日付が明記されている。
撤去の権限は147条にある。都道府県または市町村の選管が撤去でき、その際は事前に警察署長へ通報すると定めている。
従わなかった場合の罰則もある。243条1項6号で、2年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。ただし147条のうち一部の号に該当する分に限られるため、今回の367件がこれに当たるかは、記事本文を読めていない本稿では確定できない。
地元紙も「何が適法で何が違法か」を記事にしている
沖縄タイムスは8月23日にも別の記事を出した。見出しは「沖縄知事選、告示前の『のぼり旗』が物議 他議員と並べた『2連』旗も 何が適法で何が違法か」。
リードにはこうある。
「○○が公選法違反である事前運動をしている模様」「△△の方が違法行為が多い」。X(旧ツイッター)上では、各立候補予定者の氏名などが印刷されたのぼり旗の画像や動画と共に、公選法違反だと指摘する投稿があふれている。
── 沖縄タイムス(2026年8月23日)
「各立候補予定者」であり、指摘は双方向に飛んでいる。そして陣営側は、他の議員の顔写真を並べた「2連」の旗という回避策を出している。禁止されているのは候補者等の氏名を表示した掲示だから、別の人と並べれば形が変わる、という理屈である。
地元紙が「何が適法で何が違法か」を専門家に聞く記事を立てるほど、現場の線引きが曖昧になっている。
報道が1本もない話が、混ざっている
ここまでは、報道で確認できる話である。だが、いま拡散しているものの中には、そうでないものが混ざっている。
| 出回っている話 | 確認した結果 |
|---|---|
| 告発状が提出された/受理された | 報道機関の記事を1本も確認できなかった。匿名のX投稿とまとめサイトにのみ存在する |
| 陣営が注意されても撤去を拒否した | 報道ゼロ。まとめサイトと個人サイトのみ |
| 知事が「投票呼びかけ動画」を公開した | 報じられているのは総決起大会での発言。知事が動画を公開したという事実は確認できなかった |
| 玉城陣営の撤去命令は200件 | 有料記事の中にあり、一次確認できていない |
| 玉城氏が公選法違反で立件された | 本人・後援会・陣営の立件、起訴、有罪の記録は確認できなかった。過去にさかのぼっても見当たらない |
とくに「告発状」については、制度を知っておいたほうがいい。
刑事訴訟法239条1項は、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定めている。
告発は誰でもできる。告発状が出されたことは、犯罪があったことも、捜査機関がそれを相当と判断したことも意味しない。仮に本当に出されていたとしても、それ自体はニュースの中身が薄い。
そして、選管の撤去命令は行政上の措置である。刑事責任の認定ではない。命令を受けたことと、処罰されたことは別である。
3氏は、何で分かれているのか
琉球新報が8月20日から24日に出した「政策点検」全5回のテーマは、政治姿勢、普天間移設と安全保障、一括交付金と交通、経済、子どもの貧困と教育だった。地元紙が争点をどう置いているかが、この並びに出ている。
| 争点 | 玉城デニー | 古謝玄太 | 下地幹郎 |
|---|---|---|---|
| 辺野古移設 | 反対。「新基地建設反対の民意を守り抜く」 | 容認。普天間の危険性除去に最も早い | 反対。軟弱地盤を埋めず、7年で「民軍共用やんばる国際空港」 |
| 那覇軍港の浦添移設 | 容認。討論会では「△」と評価したが、容認の姿勢に「変わりはない」 | 確認できなかった | 反対 |
| 経済 | 製糖工場の建て替え支援、中小企業従業員の奨学金返済支援 | 10年で県民所得倍増、手取り2倍。「新5K経済構想」 | 2030年のG7サミット誘致、副知事3人体制 |
| 子育て | 高校3年までの窓口医療費無料化を拡大 | 子育て支援予算を2倍に | 22歳以下のバス・モノレール無償化、出産育児一時金200万円 |
| 交通 | 鉄軌道の早期導入 | 「沖縄移動革命」。バス路線の見直し | (上記の無償化) |
時事通信は8月13日の記事に「決め手欠く主要2陣営 かすむ争点、無党派に訴え」という見出しを付けている。辺野古で割れてはいるが、そこが決め手になりにくくなっている、という見立てである。
辺野古の埋め立ては2025年11月28日に大浦湾側で初めて土砂が投入された。2026年3月時点で全体の進捗は約17%とされ、土砂の8割超を要する大浦湾側は水深が深い。反対しても容認しても、工事の時計は動いている。
沖縄振興予算も動いた。令和8年度は約2,647億円で、前年度から0.2%の増。一括交付金は約736億円。10年ぶりの増額だが、県が求める3,000億円台には5年連続で届いていない。
整理すると、こうなる
確認できたことだけを並べる。
玉城デニー氏が告示5日前の総決起大会で「3万票を取るため、告示日までに電話をかけて」と発言し、事前運動ではないかという指摘がネット上で出た。本人は「勢いによって出てしまった言葉」「以後、気を付ける」と述べた。ここまでが報道で確認できることのすべてである。
告発された事実も、立件された事実も、確認できない。事前運動の件は、最初から最後まで疑惑の範囲にとどまっている。
一方、掲示物のほうは段階が違う。県選管が「公職選挙法に違反する」と判断して撤去命令を出しており、行政の判断としては確定している。その367件は立候補予定者4人が対象で、玉城陣営だけの話ではない。ただし2022年の知事選は11件だった。11件が367件になった選挙で、地元紙が「何が適法で何が違法か」を記事にしている。
情勢は、ねじれている。政党の得票で見れば古謝氏を推す5党は玉城氏を支援する3党の3倍あり、県政与党は2024年の県議選で過半数を失っている。それでも8月の県内調査で先行しているのは玉城氏で、4割超が投票先を決めていない。
足元では、支えていた経済界が2018年から順に離れ、辺野古の現場ではこの2年で3人が亡くなっている。枠組みも運動も、8年前とは形が違う。
そして、その調査で先行していると言われた陣営の候補者自身が、「厳しい状況であることは、われわれ選対でも一致している認識」と言っている。
この選挙で最初に動いたのは、争点ではなかった。のぼり旗と、告示前の電話である。367件の撤去命令も、5日前の一言も、選挙の中身とは関係のないところで起きている。ルールの線が引かれていない場所に、両陣営が同時に踏み込んでいる。
次に確認できること
| いつ | 何が確認できるか |
|---|---|
| 2026年8月27日 | 告示。立候補の届出で顔ぶれが確定する。台風が接近しても告示日は変更しないと県選管が明言している |
| 8月末〜9月初め | 報道各社の情勢調査の1回目。2022年は告示の3日後だった |
| 告示後 | 告示前に掲示したポスターは、候補者となった日のうちに撤去する義務がある(公選法201条の14)。撤去されたかどうか |
| 随時 | 告発が実際に行われ、受理されたかどうか。報道が出れば確認できる |
| 随時 | 安和の死傷事故で書類送検された3人について、那覇地検が起訴するかどうか。辺野古沖の転覆事故の捜査の結論 |
| 2026年9月13日 | 投開票。投票率が2022年の57.92%からどう動くか |
本稿は県選管にも各陣営にも取材していない。条文と公表資料、報道から書いた。誰に投票すべきかは書いていない。
この記事で使った資料と、その確度
確度が低いから使わない、という意味ではない。以下は、どの資料を何に使い、何に使わなかったかの記録である。
| 確度 | 媒体 | 資料 | 評価の理由 |
|---|---|---|---|
| ★5 | e-Gov法令検索 沖縄県・内閣府 |
公職選挙法(129条・143条・147条・201条の14・239条・243条)/刑事訴訟法(239条)/令和8年沖縄県知事選挙(沖縄県)/令和8年度沖縄振興予算について(内閣府) | 条文はすべて法令APIで原文を確認した。掲示禁止が2026年3月29日から始まることは県の公式ページで確認。振興予算2,647億円と一括交付金736億円は内閣府の資料から |
| ★4 | 産経新聞 | 沖縄・玉城知事「以後、気を付ける」(2026年8月24日・大竹直樹記者) | 本文を直接読んだ。発言と釈明の鉤括弧はすべてここから。ただしこの発言を報じているのは現時点で同社のみで、他社の記事は確認できていない |
| ★4 | 沖縄タイムス | 367件に撤去命令(8月10日)/支持基盤は古謝氏が3倍(8月23日)/告示前の「のぼり旗」が物議(8月23日) | 3本ともリード部分のみ確認(有料)。「立候補予定者4人」「367件」「3倍」「2連の旗」はリードから取れた。陣営別の内訳は有料部分にあり、使っていない |
| ★4 | 琉球新報 | 古謝氏の公約(8月14日)/玉城氏が推薦を受けない方針(5月11日)/連合が玉城氏推薦(7月16日)/下地氏の政策(7月23日)/2022年の199件(2022年6月14日)/2024年県議選(2024年6月17日) | 推薦の決定日、公約、2022年の撤去命令11件と陣営別内訳、県議選24→20はここから。2022年に玉城陣営4件・佐喜真陣営7件だったことが、今回の367件の意味を決めている |
| ★3 | ジャッグジャパン Yahoo!エキスパート |
大濱崎卓真「沖縄県知事選 玉城氏先行、古謝氏追う」(2026年8月12日) | 唯一の世論調査。調査主体・手法・有効回答950件・「4割超が未定」はリード部分で確認した。年代別と地区別の内訳は有料部分にあり、読んでいない。報道機関の調査ではないので★3に置いた |
| ★3 | 選挙ドットコム QAB・時事通信 |
2022年参院選沖縄選挙区/2025年参院選沖縄選挙区/古謝玄太氏の経歴/QAB 立候補予定者の構図(8月3日)/時事「決め手欠く主要2陣営」(8月13日) | 得票数と経歴はここから。時事通信の記事は見出しのみで、本文は読めていない。「かすむ争点」という見立てを紹介するだけに使った |
| ★4 | 沖縄県 琉球新報・QAB |
知事定例記者会見録(2026年3月27日)/金秀・呉屋氏の共同代表辞任(2018年3月1日)/かりゆし脱会(2018年4月3日)/呉屋氏の離脱明言(2021年9月16日)/安和の死傷事故(2024年6月29日)/3人を書類送検(2026年6月5日)/海保が関係者宅を捜索(2026年8月12日) | 知事の発言は県の会見録PDFの原文から取った。経済界の離脱の日付と発言、2つの事故の事実関係と捜査の段階もここから。どちらの事故も刑事手続きが続いており、起訴された人はいない。抗議側の主張は団体の会見によるもので、県警の見立てと食い違うことを本文に書いた |
| ★1 | まとめサイト 匿名の投稿 |
「告発状が提出された」「陣営が撤去を拒否した」「玉城陣営200件」の出所 | 根拠には一切使っていない。どこ発の話なのかを特定するためだけに開いた。本文では「報道が確認できない」という記録としてのみ扱った |
| 未使用 | — | 367件の陣営別内訳/古謝氏の那覇軍港移設への立場/報道各社の情勢調査/高市首相が沖縄に入ったかどうか | いずれも確認できなかったので書いていない。情勢調査は8月25日時点で各社とも出しておらず、無いことを本文に書いた |



