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赤い羽根の北海道事務局長が、寄付1億8000万円を6年間着服か──自浄できない募金は、やめていい

「赤い羽根共同募金」を北海道で運営する北海道共同募金会の事務局長(58)が、道民の寄付から約1億8000万円を、2020年ごろから6年にわたって自分の管理する口座に移していた疑いがある。募金会は7月13日付でこの事務局長を懲戒解雇し、刑事告訴と損害賠償請求の準備を進めている。

被害を受けたのは募金会ではない。道内の町の社会福祉協議会、認知症の家族の会、子ども食堂、除雪の助け合い。毎年4月に赤い羽根の助成を受けて動いていた活動が、今年は予定の半分しか金を受け取れていない。安平町の社協は高齢者向けの配食サービスの値上げを検討し、札幌の認知症の家族の会は5万円の啓発イベント費が出なかった。

この記事で押さえたい事実は3つある。1つ目は、不正に最初に気づいたのは募金会の監査ではなく、本人の税金を調べに来た札幌国税局だったこと。2つ目は、帳簿を合わせるために偽造した理事会議事録で銀行2行から計1億9000万円を借りていたこと(8月18日に判明)。3つ目は、募金会の常務理事が会見で「マグマのような怒り」と言葉にした怒りの先に、通帳と印鑑を35年間1人に渡し続けた組織の責任が残っていることである。そして、不正の発見も公表も指導も全部外からだった組織に、この先も善意の金を預けるのか。記事の最後で、赤い羽根をいったんやめるという選択肢を出す。

先に答えておくと、この事務局長も会長も公務員ではない。北海道共同募金会は民間の社会福祉法人で、会長は北海道電力グループ会社の社長である。ただし赤い羽根は法律で定められた募金で、寄付した人は税金の控除を受けられ、学校や町内会や職場を通じて集められる。民間でありながら公の看板で集めた金だという点は、後の章で整理する。

事務局長の名前は報道されていない。この記事でも書かない。本人は弁護人を立て、募金会の聴取に応じていない。着服の疑いは募金会が委託した弁護士の調査に基づくもので、刑事事件としてはまだ立件されていない。

北海道共同募金会の寄付金の流れと、帳尻合わせの3つの手口道民の寄付が募金会に入り、事務局長が管理する口座へ流出。年度末には取引業者からの一時借入と、偽造議事録による銀行借入で残高を合わせていた。寄付1億8000万円はどう消え、どう隠されたか道民の寄付年6〜7億円(2025年度6.7億円)北海道共同募金会会計は事務局長1人通帳も印鑑も本人が管理道内の福祉活動へ助成毎年4月・193の募金委員会経由2026年は予定の5割事務局長が管理する複数口座2020年ごろから送金・着服の疑い使途は未解明・本人は聴取を拒否計約1.8億円年度末に残高を合わせた2つの借入(調査弁護士の説明)① 取引業者から一時借入年度末に借りて残高を合わせ、決算が終わると返す2020年度ごろから反復② 偽造議事録で銀行から借入理事会が承認したことにして道内2行から2023年度から・計1億9000万円(8/18判明)監査が見ていたのは期末の残高。期中の入出金は見ていなかった(6月15日会見・調査弁護士)最初に気づいたのは募金会ではなく、2026年2月17日に査察に入った札幌国税局

図の下半分が、6年間ばれなかった理由である。寄付金が減っていても、年度末にだけ残高が合っていれば、監査は通る。この仕組みを順に見ていく。

数字が多いので、先に4つだけ並べておく。

何の金か 金額 出所
北海道で1年に集まる寄付(2025年度) 6億7314万円 北海道新聞
2026年度に配る予定だった助成 約3億4000万円 6月15日の会見
消えた寄付(使途不明金) 約1億8000万円 6月15日の会見
隠すために偽造議事録で銀行から借りた金 約1億9000万円 8月18日の募金会の説明

制度の言葉が多い記事なので、用語も開いておく。

言葉 この記事での意味
共同募金会 赤い羽根の募金を集めて、地域の福祉団体に配る社会福祉法人。都道府県ごとに1つあり、北海道共同募金会は札幌市中央区にある。全国の元締めが中央共同募金会
使途不明金 帳簿の上ではあるはずなのに、実際の預金口座にない金。「誰が何に使ったか分からない」という意味で、募金会は事務局長が着服した疑いがあるとみている
簿外処理 募金会の正式な帳簿に載せずに金を動かすこと。組織は把握できない
査察 国税局が裁判所の令状を取って行う強制調査。任意の税務調査とは違い、資料を押収できる。今回は事務局長本人の所得税法違反の疑いで入った
懲戒解雇 最も重い処分として辞めさせること。退職金は原則として出ない
助成(配分) 集めた寄付を福祉団体に渡すこと。北海道では毎年4月に、道内193の共同募金委員会を通じて配られる

最初に気づいたのは募金会ではなく、国税だった

2月17日、事務局長の税金を調べに査察が入った

発端は2026年2月17日である。札幌国税局が、事務局長本人の所得税法違反の疑いで募金会に査察に入った。募金会が6月14日に出した公表文によると、このとき会計資料のほとんどが押収された

つまり国税が見ていたのは、募金会の金の流れではなく、事務局長個人の収入だった。本人の申告と実際の金回りが合わない、という入口である。募金会は2月の時点では、自分たちの金が減っていることを把握していなかった。

残った資料を精査して、3月末に不足が分かった

募金会が「あるべき金銭が相当額不足している」と確認したのは3月末だった。押収を免れた資料を調べ、預金口座の残高と帳簿の残高に大きな差があることが分かった。公表文には「簿外での処理も多数行われていた」とある。

募金会は3月末に弁護士へ調査を依頼し、4月中に調査、5月の連休明けに最初の報告を受けた。6月12日に北海道新聞が「少なくとも1億円が使途不明」と独自報道し、6月14日に募金会が公表文を出し、翌15日に会見を開いた。

日付 出来事
1991年 事務局長が北海道共同募金会に入職。以後、経理・会計を担当し続ける
2020年ごろ 不正な経理処理が始まった可能性(調査弁護士)
2022年7月 事務局長に就任
2023年度〜 理事会の承認のない議事録を作り、金融機関から借入(調査弁護士)
2026年2月17日 札幌国税局が事務局長の所得税法違反の疑いで査察。会計資料の大半を押収
3月末 募金会が残高不足を確認し、弁護士に調査を依頼
4月 例年なら助成金を配る月。交付決定を一時停止
6月12日 北海道新聞が「少なくとも1億円が使途不明」と独自報道
6月14日・15日 募金会が公表文を出し、翌日会見。使途不明は約1億8000万円。会長が辞任の意向
6月16日 募金会への苦情が100件超(共同通信)。鈴木直道知事が会見で「善意と信頼を大きく損ねる」
7月6日 北海道新聞が助成半減の影響を報道。支給は1億6000万円、予定の5割弱
7月13日 事務局長を懲戒解雇。14日に助成の一部(約5割)再開を発表
7月22日 札幌市が特別監査の結果をもとに行政指導(文書は22日付、報道は27日)
8月14日ごろ 中央共同募金会が全国の共同募金会の緊急一斉点検の結果を公表
8月17日・18日 偽造議事録で銀行2行から計1億9000万円を借りていたと判明。刑事告訴と損害賠償を検討

なぜ税務署のほうが先だったのか

一般論として書く。他人の金を着服した場合、その金は税法上、本人の所得として扱われる。申告していなければ、所得税法違反(無申告や脱税)の対象になる。国税は本人の預金口座や生活水準と申告内容のずれを見る。募金会の帳簿が年度末だけ合っていても、事務局長個人の口座に説明のつかない金が積み上がっていれば、そちらから見える

募金会の監査は法人の帳簿を見る。国税は個人の金回りを見る。見ている場所が違ったから、先に気づいたのは国税だった。逆に言えば、法人の側に「個人の口座に募金会の金が流れていないか」を見る仕組みがあれば、6年はかからなかった。

この表で見てほしいのは、2月17日から6月14日までの4か月である。国税が来てから道民に知らされるまで、それだけの時間があった。募金会は「資料が押収されていて精査に時間がかかった」と説明している。その説明自体は筋が通る。ただ、寄付した側からすれば、自分の金が減っていることを最初に知ったのは税務署で、自分たちではなかった、という事実は残る。

「マグマのような怒り」と、通帳を渡し続けた35年

常務理事は「なんてことをしてくれたんだ」と言った

6月15日の会見で、瀬尾英生会長が頭を下げて謝罪したあと、天羽啓常務理事は事務局長に対する怒りを、こう言葉にしたと伝えられている。

マグマのような怒りを感じる
なんてことをしてくれたんだ

── 天羽啓・北海道共同募金会常務理事(2026年6月15日の会見。HBC北海道放送の番組と、それを引用した記事による)

この発言は、HBC北海道放送の番組(TVerで配信)と、それを引用したウェブ記事で確認した。会見の映像そのものを通しで確認できておらず、文言の前後は未確認である。「怒り」を向けた相手が事務局長であることは文脈から読めるが、一字一句の正確さはHBCの報道に依拠している。

謝罪会見で組織の幹部がここまで感情を出すのは珍しく、この言葉は会見の翌日から広まった。ただ、怒っていたのは道民のほうが先である。共同通信によると、募金会には会見翌日の6月16日までに100件を超える苦情が寄せられた。札幌市内のある連合町内会は、毎年100万円を募金していたのを見合わせると決めた(北海道新聞)。

【論評】怒りの向きを確かめておきたい。常務理事が怒っている相手は、35年一緒に働いた事務局長である。それは自然な感情だが、その事務局長に通帳と印鑑を渡し、誰も中身を見なかったのは、怒っている側の組織である。「なんてことをしてくれたんだ」は、寄付をした道民が募金会に向けて言う言葉でもある。

「明るいキャラでリーダーシップがあり」

6月15日の会見で、瀬尾英生会長は事務局長をこう評した。

明るいキャラでリーダーシップがあり、業務全般に精通していて、職員の中で信頼を得ていた人物

── 瀬尾英生・北海道共同募金会会長(2026年6月15日の会見、ABEMA TIMESの報道による)

事務局長は1991年に入職し、2022年7月に事務局長に就いた。入職から数えて35年、ずっと経理・会計の担当だった。天羽啓常務理事は会見で、事務局長が通帳から印鑑まで全般を管理できる立場だったと説明している。

年間6〜7億円の寄付が入る法人で、金の出入りを1人が握り、その1人が35年間同じ席に座っている。信頼があるから任せ、任せたから誰も見なくなる。横領事件の型としては珍しくないが、ここまで長く続いた例は多くない。

本人は「いずれちゃんとお詫びをしたい」と職員に言った

天羽常務理事によると、事務局長は職員に対して「申し訳ないことをした。いずれちゃんとお詫びをしたい」と話したという。ただし本人は弁護人を立て、刑事事件に関わる募金会の聴取には応じていない。金を何に使ったのかは、8月22日時点で明らかになっていない

ここが、この事件の空白である。6年間で1億8000万円。年に3000万円の計算になる。何に消えたのかについて、募金会も、報道も、答えを持っていない。

年度末にだけ帳尻を合わせる、2つの借入

取引業者から借りて、決算が終わったら返す

調査を担当した後藤雄則弁護士は会見で、手口を説明した。まず、年度末が近づくと取引業者から一時的に金を借り、預金残高を帳簿に合わせる。決算処理が終わったら返す。これを繰り返していた。

監査が見るのは年度末の残高である。その日に残高が合っていれば、期中に何があっても書類の上では正常に見える。会計監査の専門家がこの事件について「期末時点の残高を確認するだけでは不十分で、期中の入出金の流れを詳細に確認しなければ不正を発見することは難しい」と評しているのは、この点を指している。

理事会が承認したことにして、銀行から1億9000万円

業者からの借入で足りなくなると、手口は大きくなる。後藤弁護士は、2023年度から理事会の承認を得ていない議事録を作り、金融機関から相当額を借りていたと述べた。6月時点では金額は出ていなかった。

金額が出たのは8月17日の北海道新聞の独自報道と、翌18日のUHB・HTB・STV・共同通信の報道である。元事務局長は2025年に、偽造した理事会議事録を道内の2つの金融機関に示し、計約1億9000万円を借りていた。募金会は「使途不明金の発覚を逃れるための借入」とみている。

ここで数字を並べてほしい。消えた寄付が1億8000万円。それを隠すために借りた金が1億9000万円。隠すための借金のほうが、消えた金より大きい

誰がこの借金を返すのか

この借入は、書類の上では北海道共同募金会が借りたことになっている。理事会が承認していない以上、募金会は「法人として借りた覚えはない」と主張できる余地がある。一方で、銀行は募金会の名義の書類を信じて貸している。

この1億9000万円を誰が返すのか、すでに返済された分があるのか、残高はいくらかは、8月22日時点の報道では確認できなかった。募金会の公表文にも記載がない。寄付金で返すことになれば、道民の寄付が銀行への返済に回る。銀行が損失を被るなら、偽造書類の責任が問われる。どちらに転んでも、金を出したのは事務局長ではない誰かになる。

今年の助成は、予定の半分しか出ていない

3億4000万円を配る予定だった

北海道共同募金会は、2025年度に集めた寄付から約3億4000万円を2026年度の助成に充てる予定だった。2025年度の寄付の総額は6億7314万円である。

消えた1億8000万円は、この助成予定額の約53%にあたる。例年なら4月に配る金が、国税の査察と調査で止まった。募金会は7月14日に「地域で計画された福祉活動に要する資金の約50%の規模で助成を行った」と発表した。事務費の削減と積立金の取り崩しで捻出した分である。

残りの半分について、募金会は「手当ては現在のところ未定」としている。北海道新聞によると、募金会は中央共同募金会に相談したが、確保の見通しは立っていない。

安平町は配食の値上げを考え、認知症の家族の会は5万円が出なかった

半分になった金が、どこで止まったか。北海道新聞が7月6日に具体を報じている。

団体 起きたこと
安平町社会福祉協議会 助成が約140万円から約70万円に半減。高齢者向けの配食サービス(1食400円)の値上げを検討。広報誌のページを減らす
当麻町社会福祉協議会 減った助成を子ども向けの事業を優先して配り直す
札幌認知症の人と家族の会 予定していた啓発イベント費5万円が支給されず
西胆振の福祉団体・社協 「いつ、いくら分配されるのか」と不安。社協には募金会から経緯の説明がないと困惑(6月17日)
札幌市内の連合町内会 毎年100万円の募金を見合わせ

1食400円の配食を値上げするかどうか、5万円のイベントを開けるかどうか。事務局長の口座に移った金は年に3000万円の計算で、それが町の単位に下りると、こういう大きさになる。1億8000万円という数字より、400円と5万円のほうが、消えた金の正体に近い

止まった先にあるもの

北海道共同募金会が2021年度から2024年度の4年間に助成した実績は、約21億5000万円、1万2715件。内訳は次のとおりである。

助成の種類(2021〜2024年度の合計) 金額 件数
社会参加・まちづくり支援 約11億4900万円 8,282件
日常生活支援 約5億7600万円 2,882件
その他の地域福祉支援 約2億5700万円 1,183件
合計 約21億5000万円 12,715件

1件あたりにすると平均17万円ほどになる。子ども食堂、高齢者のサロン、障害者の作業所の備品、除雪の助け合い。そういう規模の活動が1万2000件以上、この金で動いていた。今年はその半分が、まだ届いていない。

この人たちは公務員なのか

答えは「違う」。民間の社会福祉法人の職員である

事務局長も、会長も、常務理事も、公務員ではない。北海道共同募金会は社会福祉法に基づく民間の社会福祉法人で、職員は法人に雇われた民間人である。国や道からの出向でもない。公務員に準じて刑法が適用される「みなし公務員」でもない。だから、事務局長に問われうる罪は、公務員の収賄や横領ではなく、民間人と同じ業務上横領と、偽造議事録による私文書偽造・詐欺である。

会長の瀬尾英生氏は、北海道電力グループの「ほくでんサービス」の社長である(北海道経済同友会の役員名簿による)。共同募金会の会長は各地で地元の財界や福祉団体の長が非常勤で務める形が多く、北海道も同じ型である。募金会の常勤職員は数人規模で、2022年4月時点の現況報告書では本部の常勤専従職員は6人だった。

それでも「公の看板」で集めた金である

民間だから責任が軽い、とはならない。赤い羽根が他の寄付と違うのは、法律が後ろ盾になっている点である。

公の看板 中身
法律で定められた募金 社会福祉法に「共同募金」の章がある。都道府県に1つだけ設立でき、第1種社会福祉事業に位置づけられる。ほかの団体が「共同募金」を名乗ることはできない
税金の控除 寄付した個人は所得税・住民税の寄付金控除を受けられ、法人は全額を損金にできる。国が税金を減らしてまで後押ししている寄付である
行政の監督 所轄庁(札幌市)が監査し、今回は行政指導が出た。厚生労働省も共同募金の所管部署を持つ
集め方 10月1日の一斉開始、学校・町内会・職場を通じた集金、厚労大臣が出席する中央伝達式。自発的な寄付が建前だが、町内会費と一緒に集められる地域も多い

つまり、公務員の腐敗ではない。だが、公務員でない人間が、国の制度と税の優遇と行政の看板を使って集めた金を、私物化した疑いである。公務員なら監査委員・議会・情報公開という外からの目がある。民間の社会福祉法人には、それがない。あるのは所轄庁の定期的な監査と、法人が自分で雇う会計監査人だけで、今回はそのどちらも6年間見つけられなかった。

【論評】「寄付を呼びかける団体」の責任は、その意味で公務員より重い面がある。公務員の金は税で強制的に集まるが、寄付は信頼でしか集まらない。北海道で毎年6億円以上が集まっていたのは、赤い羽根という看板が信じられていたからである。その看板の下で35年間経理を1人に任せていた責任は、事務局長個人の刑事責任とは別に、法人と理事会に残る。

札幌市の行政指導と、全国47募金会の一斉点検

札幌市は「管理の是正」を求めた

北海道共同募金会の所轄庁は札幌市である。市は特別監査を行い、7月22日付の文書で業務改善を求める行政指導をした。北海道新聞はこれを「管理是正求める」と報じている。行政指導は命令ではなく、法的な強制力はない。

募金会は7月29日に「再発防止策の進捗について」を公表し、札幌市の特別監査の結果に基づき、弁護士の監修のもとで再発防止策を策定中だとしている。報道では、幹部体制を刷新し、事務局長に金融機関出身者を登用する方針も伝えられている。

中央共同募金会は全国に点検をかけた

全国の元締めである中央共同募金会は、この事件を受けて「共同募金会における出納業務適正実施のための全国緊急一斉点検」を実施し、8月中旬に結果を公表した。各都道府県の募金会も個別に結果を出している。たとえば長野県共同募金会は8月14日付で「改善を要する項目はありませんでした」と報告した。

この一斉点検の全国集計で、何か所に改善点があったかは、この記事を書いている時点で中央共同募金会の公表ページを直接読めていない(アクセス制限のため)。ソース欄にリンクを置くので、読者の側で確認してほしい。

点検の項目は「出納業務」、つまり通帳と印鑑を誰が持ち、入出金を誰が確認しているかである。北海道で起きたことが、同じ構造の募金会で起きていないか。点検が年度末の残高ではなく期中の流れを見たのかどうかが、意味のある点検だったかの分かれ目になる。

自浄できないなら、赤い羽根はもうやめていい

辞任も告訴も、2か月止まったまま

瀬尾会長は6月15日の会見で、組織の責任を認め、「然るべき時期に会長職を辞したい」と述べた。翌16日、鈴木直道知事は会見で「善意と信頼を大きく損ねる。道民に説明責任を果たしてほしい」と述べた(北海道新聞)。8月22日時点で、会長が実際に辞任したという報道は確認できなかった。

刑事告訴も同じである。募金会は6月15日に「刑事告訴する方針」と言い、8月18日にも「刑事告訴と損害賠償請求を検討」と言っている。2か月経って、表現は変わっていない。告訴状が出されたという報道も、8月22日時点で確認できなかった。国税が告発すれば脱税で立件される可能性はあるが、その罪名は「税金を納めなかった」であって、「寄付を盗んだ」ではない。

自浄作用があったか、事実だけ並べる

この法人に自分で自分を正す力があったかどうか。判断は読者に委ねるが、材料は並べておく。

問い 起きたこと
不正を自分で見つけたか 見つけていない。6年間気づかず、札幌国税局の査察で初めて分かった
監査は機能したか 法人が雇った会計監査人(年額50万円)も、所轄庁の監査も、6年間見つけられなかった
自分で公表したか 3月末に不足を確認してから公表まで2か月半。公表の2日前に北海道新聞が独自報道
責任者は辞めたか 「然るべき時期に」と言ったまま2か月。辞任の報道なし
本人を訴えたか 「検討」のまま2か月。告訴の報道なし
被害を受けた団体に説明したか 西胆振の社協は「きちんとした経緯の説明がない」と困惑(北海道新聞・6月17日)
穴を埋める見通しは立ったか 中央共同募金会に相談したが「確保の見通しは立っていない」。残り半分は「未定」
全国の点検は外の目か 中央共同募金会が各県募金会に自己点検させ、各県が「改善を要する項目なし」と自己申告する形式

8つの問いのうち、募金会が自分の力でやり遂げたものは、ひとつもない。見つけたのは国税、報じたのは新聞、指導したのは札幌市である。

【論評】善意の金を預かれない組織に、善意を集める資格はない

【論評】ここからは意見である。この記事は、赤い羽根共同募金という仕組みそのものを、いったんやめる選択肢を出したい。

理由は3つある。第1に、これは税金の無駄遣いに近い。寄付は自発的だという建前だが、実態は町内会費と一緒に集められ、学校で募金袋が配られ、職場で回ってくる。断りにくい集め方で集めた金は、税金に近い性格を持つ。しかも寄付した人は税の控除を受けるから、国は税収を減らしてこの仕組みを支えている。税金の無駄遣いなら議会と監査委員と情報公開が追及する。赤い羽根には、そのどれもない。

第2に、自浄作用が確認できない。上の表のとおり、発見も公表も指導も、全部外からだった。組織が自分で直せないなら、外から止めるしかない。外から止める手段は、寄付をしないことである。札幌の連合町内会が100万円の募金を見合わせたのは、その最初の例になる。

第3に、寄付する側には、募金会を通さない道がある。子ども食堂にも、認知症の家族の会にも、社協にも、直接寄付できる。ふるさと納税で使い道を指定できる自治体もある。北海道共同募金会を通した金は、6年間で1億8000万円が途中で消えた。直接渡せば、少なくともその経路は消える。

もちろん、赤い羽根の助成で動いている1万2000件の活動が、募金が止まれば困るという反論はある。それは正しい。だが、困るのは募金会ではなく、末端の団体である。その団体に直接届ける仕組みを作る責任は、寄付をやめる側でなく、信頼を壊した側にある。

全国の共同募金は1995年度の265億円から2019年度には173億円まで減り、毎年3〜4%ずつ減っている。北海道の事件は、その流れを加速させるだろう。募金会が「募金離れが心配だ」と言うなら、順番が逆である。先に信頼を壊したのは、集めた側だった。

青森県田舎館村でも、2022年度の赤い羽根の20万5000円が消え、社協の元職員が書類送検された。金額は1000分の1だが、構造は同じである。1人が現金を扱い、誰も見ていない。北海道が特別だったのではなく、北海道は大きかっただけかもしれない。

もし自分の会社で、経理を35年同じ人に任せ、通帳も印鑑もその人が持っていて、年度末だけ残高を確認していたら。その会社にもう一度金を預けるだろうか。

この記事で使った資料と、その確度

確度が低いから使わない、という意味ではない。★2でも用途を限定すれば材料になる。

確度 媒体 資料 評価の理由
★5 北海道共同募金会 本会に関する報道について(6月14日) 当事者の公表文。2月17日の査察、資料押収、3月末の不足確認、簿外処理の存在はここから。金額と人物像は書かれていない
★5 北海道共同募金会 本会職員の懲戒解雇について(7月14日) 解雇日(7月13日付)と理由はここから。ブログ等で「6月13日解雇」としているものがあるが、当事者の公表を採った
★5 北海道共同募金会 助成の一部再開について(7月14日) 「約50%の規模で助成」「残りは未定」の表現はここから
★5 北海道共同募金会 再発防止策の進捗について(7月29日) 札幌市の特別監査を受けて弁護士監修で策定中、の記述に使った
★5 中央共同募金会 全国緊急一斉点検結果のご報告 全国集計の一次資料。執筆時にアクセス制限で本文を読めていない。集計の数字は本文に書いていない
★5 長野県共同募金会 一斉点検の結果報告(8月14日) 他県の点検結果の実例として1件だけ使った
★4 北海道新聞 【独自】「赤い羽根」使途不明1億円(6月12日)6年間にわたり着服か(6月15日)札幌市が行政指導(7月27日)【独自】偽造文書で1.9億円借り入れ(8月17日) 独自報道が2本あり、事件の節目を先に出している。年間寄付6〜7億円、2025年度6億7314万円、193の募金委員会、会長名・年齢、1.9億円の借入先が2か所、はここから。有料部分は読めていない
★4 ABEMA TIMES なぜ発覚遅れた? 会見で説明(6月15日) 会見の発言を発言者の肩書き付きで最も詳しく書いている。会長・常務理事・弁護士の発言、1991年入職、2022年7月就任、3億4000万円の助成予定、業者借入と偽造議事録の手口はここから。livedoor転載で読んだ
★4 北海道新聞 【独自】赤い羽根、当面の助成半減 道内の福祉団体苦悩(7月6日)西胆振の福祉団体、分配助成金を不安視(6月17日)鈴木知事会見「善意と信頼損ねる」(6月16日) 被害団体の具体(安平町・当麻町・札幌認知症の人と家族の会・連合町内会)と支給額1億6000万円、知事の発言はここから。有料部分は読めていない
★2 共同通信 赤い羽根募金に苦情百件超(6月16日) 苦情の件数のみ。見出しで確認し、本文は転載先で読めていない
★3 HBC北海道放送(TVer) 「赤い羽根共同募金」で使途不明金…事務局長が約1億8000万円 常務理事の「マグマのような怒り」の出所。映像は通しで確認できておらず、本文の確度注記のとおり
★2 リアルタイムニュースNAVI(個人サイト) 外部監査でなぜ6年も見抜けなかったのか HBC報道の発言を文字で引用しているサイト。発言の文言照合にだけ使い、事実関係には使っていない
★4 北海道経済同友会 役員一覧 瀬尾会長の肩書き(ほくでんサービス取締役社長)の確認
★5 北海道共同募金会 現況報告書(2022年4月1日現在) 常勤専従職員6人、会計監査人(公認会計士事務所・年額50万円)の確認。役員名は当時のもので現在と異なる
★3 UHB北海道文化放送 偽造議事録使い2億円近く借り入れ(8月18日) 「2025年に」「道内の2つの金融機関」「刑事告訴を含む法的措置」の表現。地元局の自社サイトで読んだ
★3 HTB北海道テレビ 議事録偽装で巨額借入も発覚(8月18日) 「発覚を逃れようと借り入れた可能性」「刑事告訴と損害賠償請求を検討」の表現はここから。返済状況の記載はない
★2 共同通信 赤い羽根、議事録偽造し借り入れ(8月18日)札幌市、使途不明巡り特別監査(7月) 「誰が何をした」の確認だけに使い、理由や解釈の根拠にはしていない
★3 デーリー東北 社協元職員を書類送検 田舎館・赤い羽根募金不明(2023年12月12日) 他地域の先例として。20万5000円、2022年度、書類送検の事実のみ。会員限定部分は読めていない
★2 監査役ニュース(公認会計士事務所のブログ) 北海道共同募金会 事務局長による使途不明金の発生について 「期末残高の確認だけでは不十分」という会計監査上の指摘を専門家の見方として1か所引いた。事実関係には使っていない
★2 赤い羽根募金マップ(個人サイト) 1億8,000万円横領、6年間気づかれなかった理由と助成への影響 2021〜2024年度の助成実績21億5000万円・1万2715件の内訳はこのサイトの集計。募金会の事業報告書で照合できていないため、本文では「実績」として紹介するにとどめた
★3 Wikipedia 共同募金 全国の募金総額(2019年度173億円)と制度の骨格(社会福祉法、配分の7割が地域内)の確認だけに使った

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編集者K

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