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兵庫県警の警部補が詐欺の金を送って、減給1か月──63万円を盗んだ警察官は免職、発表されたのは免職だけ

兵庫県警の県西部の警察署に勤める50代の男性警部補が、詐欺被害者3人の金、約25万円を、自分の口座を通して詐欺グループの指定口座に送っていた。マッチングアプリで知り合った「女性」を名乗る人物に頼まれてのことだった。

詐欺と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで書類送検されている。県警がこの警部補に出した懲戒処分は、2026年7月24日付で減給1か月だった。

その同じ7月24日、33歳の男性巡査長が懲戒免職になっている。窃盗事件の捜査で訪れた独居高齢女性の家に後から侵入し、現金約63万円を盗んだ疑いだった。免職は、自分から辞める辞職とは違う。県警が辞めさせる処分だ。産経、MBS、ABC、関西テレビ、共同通信が同じ日に報じた。

発表されたのは、この免職のほうだけだった。警部補の減給1か月が表に出たのは、約1か月後の8月21日、共同通信の配信記事によってである。

この記事は、事件そのものの記事ではない。処分の記事である。減給1か月という物差しが、何と比べてどれだけ軽いのか。そして、なぜ1か月も表に出なかったのか。この2つだけを追う。

先に、言葉を開いておく。公務員の懲戒処分は4種類しかない。重い順に、免職・停職・減給・戒告である。それぞれ、実際に何が起きるのかはこうなっている。

処分 ひとことで言うと 身分と給料
免職 辞めさせられる。自分から辞める「辞職・依願退職」とは正反対の処分 職を失う。退職手当は支給しないのが原則(条例で定められている)
停職 一定期間、仕事をさせない 身分は残るが、兵庫県の条例では期間中はいかなる給与も支給されない(6か月以下)
減給(本件) 仕事は続ける。給料の一部が、決められた期間だけ減る 兵庫県の条例では「6月以下の期間、給料の月額の10分の1以下」。1か月なら、減るのは1か月分の給料の1割まで
戒告 文書で注意する 給料は減らない

つまり、7月24日に兵庫県警が出した2つの処分は、こういう差である。片方は職を失い、退職金も原則として出ない。もう片方は職場に残り、1か月分の給料の1割までが減る。

仮に月給が40万円なら、減る額は最大でも4万円ということになる。詐欺被害者3人の25万円を送って、減るのは4万円。金額の話にすると、そういう構図になる。

25万円がたどった経路詐欺被害者3人の金が警部補の口座を経由して詐欺グループの指定口座に送られた流れと、警部補自身が別の人物に約200万円をだまし取られていたことを示す図25万円は、警察官の口座を通って詐欺グループに渡った詐欺の被害者3人合計 約25万円振込警部補の口座兵庫県警・県西部の警察署50代・男性送金指定された口座(詐欺グループ)送り先を指示したのは「女性」を名乗る人物マッチングアプリで知り合った「女性」依頼この警部補自身も、別の「女性」を名乗る人物から約200万円をだまし取られていた(=詐欺の被害者でもある)処分=減給1か月2026年7月24日付・発表なし

図の上の段が金の流れ、下の段が背景である。警部補は「女性に好意があった」と説明し、県警は恋愛感情を利用されたとみている、と共同通信は伝えている。以下、この処分を他の処分と並べていく。

何が起きたのか

共同通信の配信記事によって確認できる事実を、そのまま並べる。8月22日時点で、この件を報じているのは共同通信の配信記事だけである。神戸新聞、NHK、読売、朝日、毎日、産経、サンテレビの独自記事は見つからなかった。

項目 内容
対象 兵庫県警・県西部の警察署に勤務する50代の男性警部補
容疑 詐欺、および組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで書類送検
経緯 マッチングアプリで知り合った「女性」を名乗る人物の依頼で、資金洗浄に加担したとされる
金の流れ 昨年、自身の口座に振り込まれた詐欺被害者3人分の約25万円を、指定された口座に送金した
処分 2026年7月24日付で減給1か月の懲戒処分
本人の説明 「女性に好意があった」。県警は恋愛感情を利用されたとみている
本人の被害 別の「女性」を名乗る人物からは、約200万円をだまし取られてもいた
現在の身分 在職か退職かは確認できなかった。起訴されたかどうかも不明

書類送検の段階であり、刑事責任はこれから判断される。詐欺罪の成立には、被害金だと知っていたかどうかが問われる。本人は恋愛感情を利用された側だと説明しており、その主張が退けられたわけでもない。この記事は、この警部補が有罪だという前提には立たない。

問題にするのは、県警自身が下した行政処分のほうである。県警は懲戒処分を出した。つまり県警は、非違行為があったと認定している。その認定の上で、量定を減給1か月にした。ここが本題になる。

同じ7月24日、63万円を盗んだ巡査長は免職になり、そちらだけが発表された

7月24日という日付に戻る。この日、兵庫県警は33歳の男性巡査長を懲戒免職にしたと発表した。

報じられた内容はこうである。過去の窃盗事件の捜査で訪問した際に「無施錠の家が多い」と把握しており、独居の高齢女性宅に侵入して現金約63万円などを盗んだ疑い。動機は「フィギュアの購入資金が欲しかった」。女性には「泥棒の被害が多いので気をつけてください」と声をかけていたとも報じられた。住居侵入と窃盗の疑いで書類送検されている。

この件は、産経新聞、MBS、ABC、関西テレビ、共同通信、神戸新聞が7月24日に一斉に報じた。県警が発表したからである。

同じ日付で決まったもうひとつの処分は、報道されなかった。並べるとこうなる。

2026年7月24日 巡査長(33) 警部補(50代)
行為 高齢女性宅に侵入し現金を盗んだ疑い 詐欺被害者3人の金を詐欺グループへ送金した疑い
金額 約63万円 約25万円
処分 懲戒免職 減給1か月
刑事手続 住居侵入・窃盗の疑いで書類送検 詐欺・組織犯罪処罰法違反の疑いで書類送検
発表 その日のうちに発表。6媒体が報道 発表なし。約1か月後に共同通信が報じた

金額は2.5倍の差がある。行為の性質は違う。片方は自分の利得のための窃盗で、片方は他人に指示されての送金だ。同列には置けない。

それでも、片方は組織から追放され、片方は1か月分の給料の一部を減らされて職場に残った。そしてこの差は、7月24日の時点で県民には見えていなかった。見えていたのは免職のほうだけである。

処分をくらべる

減給1か月という量定が、他の事例のどのあたりに位置するのか。金銭が絡む公務員の懲戒処分を、直近から並べる。

金銭が絡む公務員の懲戒処分の比較2024年から2026年の警察官と県職員の懲戒処分を、処分の重さの順に並べた図。本件の減給1か月が最も軽い位置にある同じころ、同じような金額で、どんな処分が出ていたか← 重い                                                            軽い →懲戒免職 三重県警・巡査(35) 落とし物の封筒から約6,000円を着服 2026年4月17日懲戒免職 埼玉県警・巡査(35) 検視で訪れた家から現金20万円 2026年7月23日懲戒免職 兵庫県警・巡査長(33) 高齢女性宅から現金約63万円 2026年7月24日懲戒免職 警視庁・巡査部長(40) 不正開設した口座を譲渡、詐欺被害金7,000万円が流入 2025年10月31日停職6か月+2段階降格 秋田県職員(55) バスローブ姿で取材会にオンライン参加 2026年8月14日付停職3か月 兵庫県警・巡査(24) 同僚の落とした財布から約9万円 2026年2月20日停職1か月 兵庫県警・巡査(26) 署内で上司の机から現金3万円 2024年7月26日減給1か月 ★本件 約25万円を送金兵庫県警・警部補(50代) 2026年7月24日付免職=辞めさせられる。退職手当は原則なし / 停職=身分は残るが、その期間は給与が出ない / 減給=仕事は続け、給料の一部が減る(兵庫県の条例では月額の10分の1以下)横棒の長さは処分の重さのイメージで、厳密な尺度ではない

横棒の長さは、処分の重さのイメージである。厳密な尺度ではない。だが、並べたときに何が起きているかは見える。

日付 所属・階級 行為 金額 処分
2026/4/17 三重県警・巡査 落とし物として届いたかばんの中の封筒から着服 約6千円 懲戒免職
2026/7/23 埼玉県警・巡査 独居死した女性宅の検視作業中に現金を持ち去り、後日「発見」を装った 20万円 懲戒免職
2026/7/24 兵庫県警・巡査長 捜査で訪れて無施錠を把握していた高齢女性宅に侵入し窃盗 約63万円 懲戒免職
2026/5/14 大阪府警・警部補 死亡した男性の部屋にあった現金を持ち去り。実刑判決 約1,011万円 懲戒免職
2025/10/31 警視庁・巡査部長 偽造免許証で開設した口座を譲渡。その口座に特殊詐欺の被害金が流入 被害金7千万円 懲戒免職
2026/8/14 秋田県・職員(55) 記者説明会にバスローブ姿でオンライン参加。休暇申請は事後。金銭被害はなし なし 停職6か月・2段階降格
2026/2/20 兵庫県警・巡査 同僚が落とした財布から現金を着服。ほかに無許可の副業 約9万円 停職3か月
2024/7/26 兵庫県警・巡査 勤務する署に窃盗目的で侵入し、上司の机から現金を窃取 3万円 停職1か月
2026/7/24 兵庫県警・警部補 詐欺被害者3人の金を、指定口座へ送金 約25万円 減給1か月

三重県警の巡査は、約6千円で免職になっている。落とし物の封筒から抜いた金額である。本件の40分の1以下の金額で、職を失っている。

埼玉県警の事例は、日付が本件の前日にあたる。7月23日、20万円。金額は本件と近い。処分は免職だった。

もちろん、行為の性質が違う。自分の懐に入れたのか、他人に言われて口座を通しただけなのか。県警は後者を「恋愛感情を利用された」と見ている。だから軽い、という理屈は成り立ちうる。

それでも、秋田の県職員と並べたときの違和感は残る。バスローブ姿で取材会に出たことで停職6か月と2段階降格。金は1円も動いていない。処分理由は「社会的に大きな影響を及ぼした」ことである。詐欺被害者の金25万円が警察官の口座を通って詐欺グループに渡ったことは、社会的に大きな影響を及ぼさなかったのか。

指針には「免職又は停職」と書いてある

感覚の話をしても仕方がない。公式の物差しがあるので、そちらを見る。

国家公務員については、人事院の「懲戒処分の指針について」(平成12年職職-68、最終改正 令和2年4月1日)が標準例を定めている。関係する部分はこうである。

非違行為 標準的な量定
公金又は官物を横領した職員 免職
人を欺いて公金又は官物を交付させた職員 免職
他人の財物を窃取した職員 免職又は停職
人を欺いて又は恐喝して財物を交付させた職員(詐欺・恐喝) 免職又は停職

兵庫県の知事部局が使う「兵庫県懲戒処分指針」(令和6年1月1日施行)も、詐欺・恐喝は免職又は停職としている。ただしこれは知事部局の基準であり、県警には直接適用されない。県警には別に「兵庫県警察職員の懲戒の取扱いに関する訓令」があるが、この訓令には量定の基準が書かれていない。手続と処分の種類を定めているだけである。

警察職員の量定基準は、警察庁の「懲戒処分の指針」(最新は令和7年6月1日付の通達)にある。この通達は警察庁のサイトで公開されているが、画像だけのPDFで、本文を機械的に読み取れなかった。

一世代前の令和5年7月13日付から読み取れた範囲では、証拠物件の窃取・横領が「免職又は停職」、住居侵入盗が「免職」、その他他人の財物の窃取が「免職又は停職」、恐喝が「免職又は停職」となっている。詐欺・犯罪収益隠匿に対応する項目は読み取れなかった。

警察庁の指針の全文を確認できていないため、「犯罪収益の隠匿がどの区分に当たるか」は本稿では確定していない。上の表は人事院の指針と兵庫県知事部局の指針であって、県警の量定基準そのものではない。この点は、記事の弱点としてそのまま書いておく。

そのうえで言えることが2つある。ひとつは、国と県のどちらの公表基準を見ても、詐欺は「免職又は停職」から始まるということ。もうひとつは、人事院の指針が減軽事由として挙げているのが「非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき」と「情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき」の2つだということである。

本件で減軽が働いたとすれば、後者だろう。本人も別の人物に約200万円をだまし取られた被害者であり、故意の度合いが低いという判断はありうる。だが、県警がどの事由でどう判断したのかは、公表されていないので誰にも分からない。

参考までに、2026年上半期の全国の警察職員の懲戒処分は155人で、内訳は免職22、停職43、減給72、戒告18。このうち窃盗・詐欺・横領など金銭関係は21件で、免職4、停職8、減給9だった。金銭関係で減給に落ちるのは、21件中9件。珍しくはないが、免職・停職が過半を占めている。

発表しなかったのは、指針どおりだった

ここからが、この記事のもうひとつの柱である。処分は7月24日付。報道は8月21日。この約1か月、県警はこの処分を公表していたのか。

調べた結果は、こうである。

確認したページ 結果
兵庫県警トップページの新着情報(8月21日分まで) 音楽隊のコンサート動画、警察事務職の募集など。懲戒処分の発表はない
サイトマップ 「監察」「懲戒」「処分の公表」にあたる項目そのものがない
兵庫県公安委員会「行政処分」のページ 警備業・探偵業・自動車運転代行業など民間事業者への処分を載せるページだった。警察職員の懲戒処分は載っていない
公安委員会の定例会議(令和8年7月23日・第19回)の議題 議題に「懲戒処分等の状況について(令和8年6月)」がある。ただし件数の報告で、個別の事案名や階級は載らない
8月開催分の定例会議の議題 8月21日時点で未掲載

兵庫県警のウェブサイトには、個別の懲戒処分を公表する仕組みそのものがない。公安委員会に上がるのは月ごとの件数の集計だけである。

では、記者クラブでの発表はあったのか。それは分からない。分かるのは、7月24日に免職を報じた6媒体が、同じ日付の減給1か月をひとことも書いていないということだけである。

ここで効いてくるのが、警察庁の「懲戒処分の発表の指針」である。全文を掲載している秋田県警のページから引用する(同県警は警察庁の指針を準用すると明記している)。

2 発表を行う懲戒処分の種類

・職務執行上の行為及びこれに関連する行為に係る懲戒処分

・私的な行為に係る懲戒処分のうち停職以上の懲戒処分

・前掲のもののほか、行為の態様、行為の公務内外に及ぼす影響、職員の職責等を勘案し、国民の信頼を確保するため発表することが適当であると認められる懲戒処分

── 警察庁「懲戒処分の発表の指針」(秋田県警察のページに掲載された全文より)

読み直してほしい。私的な行為なら、停職以上でなければ発表しなくてよい。本件は勤務外の行為で、量定は減給である。つまり、この指針に照らせば、発表しなかったことは間違っていない。

3番目の項目に逃げ道はある。「公務内外に及ぼす影響、職員の職責等を勘案し、国民の信頼を確保するため発表することが適当」と認めれば発表できる。現職の警察官が詐欺の被害金を詐欺グループに送っていた、というのは、この条項に当たらないのだろうか。当たらないと判断されたか、そもそも検討されなかったかの、どちらかである。

人事院の「懲戒処分の公表指針」も、私的行為については免職・停職のみを公表対象とし、公表内容は「個人が識別されない内容のものとすることを基本」としている。国全体が、そういう建て付けになっている。

だからこの記事は、兵庫県警が隠したとは書かない。書けるのはこうである。減給以下は発表しなくてよい、というルールがある。そのルールがある限り、詐欺の被害金を送った警察官がいても、県民はそれを知らないまま1か月が過ぎる。

処分の重さが、公表するかしないかの分かれ目になっている。軽く処分すれば、発表しなくて済む。そういう構造になっていることは、指摘しておいていい。

25万円と、被害者3人はどうなったのか

報じられていないことが、もうひとつある。被害者3人の25万円である。

共同通信の記事に、弁済や返還についての記述はない。3人が誰なのか、金が戻ったのか、戻らなかったのか、警部補が弁償したのか。何も分からない。

詐欺の被害金は、いったん別の口座に移されると回収が難しくなる。そのために犯罪グループは口座を経由させる。その経由地を引き受けたのが警察官だった、というのがこの事件の骨格である。被害者から見れば、自分の金を取り戻せなくした人物のひとりが、警察官だったということになる。

そして、この警部補がいま在職しているのかどうかも分からない。辞めさせられたわけではないので、処分を受けたまま職場に残ることができる。自分から辞めていれば、それは依願退職であり、退職金は満額が支払われる。免職との最大の違いはここにある。どちらなのかは公表されていない。

起訴されるかどうかも、これから決まる。書類送検された事件は、検察が起訴・不起訴を判断する。その結果が公表される保証もない。

7月10日から、同じことをすれば別の罪にもなる

ここからは、読者が自分の身を守るための話である。この事件の手口は、いま最も広がっている型のひとつだ。

流れはこうなっている。マッチングアプリやSNSで知り合う。好意を持たせる。そして「私の代わりに受け取ってほしい」「この口座に送ってほしい」と頼む。頼まれた側は、自分の口座を貸しただけ、送っただけのつもりでいる。だが、口座に入ってくるのは他人がだまし取られた金であり、送金した時点で資金洗浄の一部になっている。

本件の警部補は、報道されている限りでは報酬を受け取っていない。動機として説明されているのは好意である。そして本人も、別の人物に約200万円をだまし取られていた。だます側とだまされる側を、同じ人物が同時にやらされていたことになる。

この手口に対して、法律のほうが動いた。2026年7月10日、改正犯罪収益移転防止法が施行され、「送金犯罪」の罰則が新設された。警察庁の資料によれば、内容はこうである。

項目 内容
新設された条文 犯罪収益移転防止法 第32条第1項〜第4項
対象になる行為 正当な理由がなく、有償で、預貯金の口座などを使って自分以外の者に財産を移す行為。受け取った財産を移す行為も含む
対象になる立場 依頼した側、誘い込んだ側、実際に送金した側、勧誘した側の4類型
罰則 2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり)。反復・継続していれば3年以下または500万円以下
施行 2026年7月10日

全国初の摘発は施行の11日後だった。沖縄県警が2026年7月21日、40代の女性を送金犯罪の疑いで書類送検したと報じられている。きっかけは、スキマバイト探しだったという。

本件の送金は昨年のことなので、この新しい罰則は適用されない。だが、いま同じことをすれば、詐欺の故意が立証できなくても、送金そのもので罪に問われうる。「知らなかった」「好きな人に頼まれただけ」は、7月10日を境に通りにくくなった。

覚えておくべき線引きは単純である。自分の口座に、身に覚えのない金が入ってくる。それを誰かに指示されて別の口座に送る。この2つが揃った時点で、もう入口に立っている。相手が恋人でも、副業の紹介者でも、条件は変わらない。

兵庫県警の年表に、また1行増えた

この件は、単発の不祥事として置かれると意味を失う。6月に書いた記事で、兵庫県警の20年分の不祥事を年表にした。そこに新しい行が加わる形になる。

数字で見ると、状況は良くなっていない。神戸新聞によれば、兵庫県警の2025年の懲戒処分は50人で、過去最多だった。それまでの最多は、自動車警ら隊の捜査書類捏造が発覚した2004年の37人である。2025年の上半期は、全国154人のうち20人が兵庫県警で、全国ワースト1位だった。

2025年12月だけを見ても、外事課の捜査員ら18人が勤務時間中に飲酒やパチンコを繰り返して処分され、勤務中に競輪の車券を233回買った50代の警部補が減給1か月になっている。本件と同じ量定である。勤務中の車券購入と、詐欺被害金の送金が、同じ「減給1か月」の箱に入っている。

2026年に入ってからも、交番のトイレで女性警察官を盗撮した巡査長が免職、女性警察官の自宅に合鍵で侵入して盗撮カメラを設置した警部が免職、と続いている。免職になる基準がないわけではない。盗撮と窃盗では、ためらいなく免職が出ている。

だからこそ、詐欺被害金の送金が減給で止まったことの説明が要る。この物差しは、県民が持っている物差しと合っていない。合っていないなら、合っていない理由を説明する義務が県警の側にある。説明がないから、8月21日に報じられた瞬間にX上でトレンドになった。元警視庁捜査一課の佐藤誠氏は「詐欺を取り締まる警察官が、送金係になっている」と書いている。

次に確認できる日付は3つある。ひとつは、8月に開かれた兵庫県公安委員会の定例会議の議題が公表される日。7月分の懲戒処分の件数がそこに載る。ふたつめは、神戸地検が起訴・不起訴を判断する日。ただし公表されるとは限らない。みっつめは、2026年の兵庫県警の懲戒処分の年間集計が出る年末である。50人という過去最多を、更新するのかどうか。

減給1か月は、1か月分の給料の1割までが減るだけである。職場は変わらない。1か月が過ぎれば、給料は元に戻る。詐欺被害者3人の25万円が戻ったかどうかは、いまも分かっていない。

この記事で使った資料と、その確度

★の低い資料を使わなかったという意味ではない。★2でも、用途を限定すれば材料になる。以下は、どの資料を何に使い、何に使わなかったかの一覧である。

確度 媒体 資料 評価の理由
★5 人事院 懲戒処分の指針について懲戒処分の公表指針について 一次資料。詐欺=免職又は停職、減軽事由、公表の考え方はここから。国家公務員向けであり県警に直接適用されない点は本文に書いた
★5 兵庫県警・県公安委員会 公安委員会の行政処分ページ定例会議開催概要第19回(7月23日)議題 「公表されていない」ことの根拠。該当しうるページを直接開いて確認した。議題に載るのが件数の集計だけであることもここで確認
★5 警察庁 令和8年上半期の懲戒処分者数「送金犯罪」に関する罰則の創設について 一次統計と一次資料。155人の内訳、金銭関係21件の内訳、7月10日施行の罰則の条文と法定刑はここから
★5 兵庫県・総務省 職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(兵庫県法規集)地方公務員の退職手当の支給制限(総務省) 減給=6月以下・給料月額の10分の1以下、停職=期間中は無給、免職=退職手当を支給しない。4つの処分が実際に何を意味するのかはこの2つで確認した
★5 兵庫県 兵庫県懲戒処分指針 県の公式基準。詐欺=免職又は停職の裏付け。知事部局用で県警には適用されないため、比較材料としてのみ使った
★4 秋田県警 懲戒処分の発表の指針 引用した指針の全文はここから取った。警察庁の原本PDFは文字が画像化されていて読み取れず、原本との照合はできていない
★4 埼玉新聞 検視で訪れた家から20万円、巡査を懲戒免職 地元県紙の本文を直接読んだ。7月23日という日付、20万円、免職、罪名まで確認。比較表のいちばん重要な1行
★4 神戸新聞 懲戒処分が過去最多の50人に【詳報】過去最多40人超に署内で3万円窃盗・停職1か月同僚の財布から9万円・停職3か月 兵庫県警の処分については最も詳しい。50人・37人・全国ワーストの数字と、県警内の量定のばらつきはここから
★4 KSB瀬戸内海放送 秋田県職員を停職6か月・2段階降格 本文を直接読んだ。14日付、停職6か月、2段階降格、55歳、処分理由の文言まで確認
★3 産経・MBS・ABC・関西テレビ・共同通信 産経MBSABC関西テレビ共同通信 7月24日の巡査長免職。5媒体が同じ日に同じ内容で報じているため事実として採った。本文はYahoo!転載しか読めず、見出しと各社の要旨での確認
★2 共同通信 警部補が詐欺被害金洗浄か 兵庫県警、書類送検北日本新聞(共同配信) 本件の唯一の情報源。掲載先がYahoo!と北日本新聞の2件しかなく、どちらも機械的な取得を拒否しているため、本文を直接読めていない。25万円・被害者3人・7月24日付・減給1か月・50代警部補という事実は、この配信記事の記述による
★2 警察庁(画像PDF) 懲戒処分の指針(令和7年6月1日)同(令和5年7月13日) 警察職員の量定の一次資料だが、最新版は画像PDFで本文が読めない。一世代前から読み取れた項目だけを本文に書き、詐欺・犯罪収益隠匿の区分は「確認できなかった」と明記した
★2 X(旧Twitter) 元警視庁捜査一課・佐藤誠氏らの投稿 事実の根拠には使っていない。「報道された当日に反応が集中した」という記録としてのみ使った

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編集者K

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