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石破茂が4万票を失った選挙で、自民は316議席を取った

「なんで鳥取は、まだ石破さんに入れるのか」

この夏、石破茂前首相が高市政権の消費税減税に異論を唱えるたびに、同じ言葉がSNSに流れた。党の公約に前首相が反対している。しかもその人は、つい半年前の選挙で当選したばかりである。

ただ、この問いには前提がひとつ含まれている。鳥取1区の有権者は何も変わっていない、という前提だ。

数字を確認すると、そうではなかった。

2026年2月8日の衆議院選挙で、石破茂が鳥取1区で得た票は66,146票。2024年10月の106,670票から、40,524票が消えている。得票率は85.15%から67.49%へ、17.66ポイント下がった。

この選挙で、自民党は316議席を取っている。単独で3分の2を超えた、戦後初の圧勝である。

党が歴史的に勝った選挙で、前首相だけが4万票を失った。本稿は、その数字を分解し、そのあとに石破茂が何をしてきたかを並べる。


まず、2回の選挙を並べる

2024年10月27日と2026年2月8日。鳥取1区は、この間に区割りが変わっていない。総務省の区割り改定(2022年)の対象に鳥取県は入っておらず、2つの選挙は同じ区域の比較になる。

結果はこうである。

項目 2024年10月27日 2026年2月8日
石破茂の得票 106,670票 66,146票 −40,524票
得票率 85.15% 67.49% −17.66ポイント
投票率 57.18% 46.05% −11.13ポイント
当日有権者数 223,713人 220,368人 −3,345人
有効投票数 125,279票 98,012票 −27,267票
全国の投票率 53.85% 56.26% +2.41ポイント
自民党の議席 191議席 316議席 +125議席

最後の2行が、この記事の出発点である。

全国の投票率は上がっている。53.85%から56.26%へ、2.41ポイントの上昇だ。自民党は191議席から316議席へ、125議席を積み増した。有権者は投票所に足を運び、そして自民党に入れた選挙である。

その同じ選挙で、鳥取1区の投票率だけが11.13ポイント下がった。鳥取県全体でも47.69%で、全国平均を8.57ポイント下回っている。

そして石破茂の得票は、4万票減った。

「投票率が下がっただけ」では説明がつかない

ここでよくある反論がある。2月の選挙で雪が降った、投票率が下がった、だから票が減っただけではないか、という見方だ。

半分は当たっている。有効投票数そのものが27,267票減っているので、石破の得票減の相当部分は「投票所に来なかった人」で説明できる。

だが、それだけなら得票率は変わらないはずである。来なかった人が石破支持層にも他候補の支持層にも同じ割合でいるなら、比率は動かない。

実際には得票率が17.66ポイント落ちた。投票所に来た人のなかで、石破に入れる人の割合が減っている。この2つは別の現象で、鳥取1区では同時に起きた。


67.49%は、石破茂にとって何番目に低い数字か

石破茂は1986年の初当選から、この選挙で14回連続の当選になる。過去の得票率を並べると、2026年の位置がわかる。

選挙 得票数 得票率 投票率
1996年 62.47%
2000年 49.06%
2003年 71.60%
2005年 59.25%
2009年 61.97%
2012年 124,746票 84.50% 60.73%
2014年 93,105票 80.27% 50.51%
2017年 106,425票 83.63% 55.01%
2021年 105,441票 84.07% 56.10%
2024年 106,670票 85.15% 57.18%
2026年 66,146票 67.49% 46.05%

2003年以降でいちばん低い。2000年の49.06%を除けば、この30年で最低の水準である。

得票の実数で見ると、もっとはっきりする。2012年の124,746票を頂点に、石破は10万票台を4回続けてきた。2026年の66,146票は、その半分に近い。

グラフにすると、下がり方が1回で起きたことがわかる。

石破茂の鳥取1区における得票数の推移(2012年〜2026年)2012年124746票、2014年93105票、2017年106425票、2021年105441票、2024年106670票、2026年66146票124,74693,105106,425105,441106,67066,146201220142017202120242026石破茂の得票数(鳥取1区)

票はどこへ行ったのか

ここは公平に見る必要がある。2024年と2026年では、対立候補の顔ぶれが違うからだ。

2024年に石破と争ったのは、立憲民主党と共産党の2人だった。合わせて18,609票、得票率で14.85%。

2026年は3人に増えた。国民民主党が13,364票(13.64%)、参政党が11,734票(11.97%)、共産党が6,768票(6.91%)。3人の合計は31,866票、32.51%になる。

投票所に来た人が減ったのに、石破以外に入った票は18,609票から31,866票へ、1万3千票増えている

受け皿が増えた、という言い方もできる。だが受け皿が増えたときにそちらへ動くのは、もともと迷っていた層である。石破に入れる以外の選択肢を、鳥取1区の3万2千人が選んだという事実は残る。


鳥取市の投票率は43.08%だった

鳥取1区は、鳥取市・倉吉市と、岩美町・若桜町・智頭町・八頭町・三朝町で構成されている。このうち鳥取市だけは、市の選挙管理委員会が投票結果を公表している。

2026年2月8日、鳥取市の投票率は43.08%だった。当日有権者数149,116人に対し、投票した人は64,236人である。

市内の地域別に見ると、傾向がはっきり出る。

地域 投票率 性格
旧鳥取市(市街地) 41.59% 有権者117,215人。市内の約8割が集中する
用瀬 52.05% 中山間地の旧町域
福部 52.02% 同上
鹿野・佐治 51.25% 同上
河原 51.13% 同上
青谷 48.49% 同上
気高 46.32% 同上
国府 44.50% 同上
鳥取市全体 43.08% 投票区別では16.84%〜78.95%と大きく開いた

人口の集中する市街地が41.59%で、周辺の旧町域が50%を超えている。都市部ほど投票所に行かなかった、という形である。

投票区単位では16.84%という数字も出ている。5人に4人が行かなかった区域が、鳥取市のなかに実在する。

有権者220,368人のうち、66,146人

ここでもう一度、全体の数字に戻る。

鳥取1区の当日有権者数は220,368人。石破茂に投票したのは66,146人。有権者に占める割合は30.0%である。

10人のうち3人が石破に入れ、1人半が他の候補に入れ、残る5人半は投票所に行かなかった。これが2026年2月8日に鳥取1区で起きたことの全体像だ。

2024年は、有権者223,713人のうち106,670人が石破に入れていた。47.7%である。2人に1人だった。

1年4か月で、10人のうち5人が3人になった。「鳥取は目を覚ましていない」という言い方は、この数字とは合わない。


ではその66,146票は、どこへ行ったのか

ここから先が本題である。

石破茂は2026年2月8日に14回目の当選をした。同じ選挙で自民党は316議席を取り、高市早苗首相は単独で3分の2を超える議席を手にした。

そのあと、前首相は何をしてきたか。

時系列で並べる。

日付 内容
2025年10月21日 石破内閣が総辞職。高市早苗が第104代首相に指名される
2025年11月13日 TBSラジオ 高市首相の台湾有事「存立危機事態」答弁を批判。歴代政権は個別の事態を断定してこなかったと指摘
2025年12月11日 東洋経済 消費税減税を批判。「ウケる政治が国家のためですか?」という見出しのインタビュー
2026年1月23日 高市首相が衆議院を解散。2月8日投開票へ
2026年2月8日 鳥取1区 66,146票で14回目の当選。自民党は316議席の歴史的圧勝
2026年2月13日 TBS系番組 当選から5日後、消費減税に懸念を表明
2026年5月1日 BS-TBS 高市首相に投票した以上その政策に責任を負うべきだと述べる一方、財政再建へ舵を切る選択に理解を示す
2026年5月22日 週刊誌取材 高市首相を支える議員連盟「国力研究会」に不参加。「関与すべきではないし、する気もない」
2026年6月2日 日米地位協定の改定を議論する超党派議員連盟を主導すると報じられる
2026年6月6日 国旗損壊罪の法案に疑問を示す
2026年7月2日 自民党本部 「防災立国議連」設立総会。石破は発起人の一人
2026年7月24日 BS-TBS 消費減税と改正皇室典範の両方に異論
2026年7月26日 鳥取市・倉吉市 地元での時局講演会。国旗損壊処罰法に否定的、消費減税を「お金持ちの方が得をする制度」と批判
2026年7月29日 東洋経済 「ショート動画政治」で国は守れるかと問うインタビュー
2026年8月1日 倉吉市 講演。減税より給付だと主張し、代替財源を示せないのは無責任だと述べる
2026年8月3日 自民党本部 党税調・社会保障制度調査会の合同会議。飲食料品の消費税1%を党として事実上了承した場で異論を述べる
2026年8月11日 東京新聞 単独インタビュー。高市政権の進め方に苦言
2026年8月13日 TBS系番組 秋の臨時国会に向け、消費減税に反対する議員と連携する意向を表明。あわせて皇室典範の再改正を主張

2月13日という日付に注目したい。当選から5日後である。

選挙で自民党は316議席を得た。公約には飲食料品の消費税率引き下げが入っていた。その公約を掲げた党の公認で当選した5日後に、前首相は減税への懸念をテレビで語っている。


8月13日、異論が「連携」に変わった

ここまでの発言は、すべて個人の意見である。政治家が自分の考えを述べることは、当然に認められている。前首相であればなおさら、その言葉には重みがある。

だが2026年8月13日の発言は、性格が違う。

共同通信は同日、石破茂が秋に想定される臨時国会に向けて、飲食料品の消費税減税に反対する議員と連携する意向を示したと配信した。北海道新聞、南日本新聞、沖縄タイムスなど複数紙が同じ見出しで掲載している。

異論を述べることと、反対する議員をまとめることは、別の行為である。前者は意見の表明で、後者は党内で法案を止めにいく動きだ。

その10日前、8月3日に何があったかを思い出してほしい。党の税制調査会と社会保障制度調査会の合同会議が、飲食料品の消費税率を2年間1%に引き下げる方針を事実上了承している。石破はその会議のなかで異論を述べ、会議後に記者団にも語った。財政の悪化と、安定財源が見つかっていないことを理由に挙げている。

本稿は8月3日と8月13日の発言について、配信元の記事本文を直接確認できていない。時事通信・共同通信の該当記事は本文の取得ができず、複数の他紙・他媒体に転載された見出しと要旨で内容を確認している。したがって発言の逐語引用は行わず、報じられた要旨として記述している。

316議席の意味

ここで、この記事の最初の表に戻る。

自民党は316議席である。単独で3分の2を超えた。野党がどれだけ反対しても、政府提出法案は通る。

つまり、いま高市政権の法案を止められる場所は党の内側にしかない

与党内で反対派がまとまれば、法案は国会に出る前に党内手続きで止まる。あるいは修正される。野党にはもうその力がない。

2026年8月13日の「連携」という言葉は、その場所で使われた言葉である。


総裁として臨んだ選挙は、2回とも負けている

先に、反対側の材料を置いておく。

石破茂は選挙で選ばれている。66,146票は実在の票で、当選14回は有権者の判断の積み重ねである。誰に投票するかは有権者の自由で、外から「目を覚ませ」と言われる筋合いのものではない。

消費税についての主張も、一貫している。2025年7月の参院選で、自民党は消費税減税に反対する立場で戦った。その総裁だった人物が、いまも同じことを言っている。前言を翻しているわけではない。

そのうえで、石破茂が総裁として受けた審判は、記録として残っている。

選挙 自民党の議席 結果
2024年10月27日
衆院選
191議席
(公示前247)
自公で215。過半数233に届かず、1994年の羽田内閣以来30年ぶりの少数与党に
2025年7月20日
参院選
39議席 自公47。非改選を含めても与党過半数に届かず。自民党が政権与党のまま衆参両院で過半数を失うのは1955年の結党以来初めて
2026年2月8日
衆院選
316議席
(公示前198)
高市政権のもとで単独3分の2超。石破の鳥取1区だけが4万票減

2回とも負けている。首相在任は386日で終わった。

そのあと高市早苗が総裁になり、次の選挙で自民党は125議席を積み増した。同じ党、同じ有権者、1年4か月の差である。

この対比を「石破のせいだ」と一言で片づけるのは乱暴だろう。裏金事件の後始末という条件は石破政権のほうが重かった。ただ、有権者が下した評価の方向は、数字としてはっきりしている。


問いを立て直す

「鳥取はなぜ石破に入れるのか」という問いは、いま少しずれている。

鳥取1区の有権者のうち、石破に入れたのは30.0%である。1年4か月前は47.7%だった。動いていないのではなく、すでに大きく動いた。

問い直すなら、こうなる。

残った66,146票は、何を託した票なのか。

考えられる中身は、いくつかに分かれる。

託したもの その票がいま得ているもの
地元への影響力 現在の石破は党の役職に就いていない。政権を支える議員連盟にも参加していない
財政規律という政策 一貫して主張している。ただしそれは、自民党が選挙で掲げた公約と逆の方向である
政権への歯止め 316議席の政権を止められるのは党内だけ。その意味では機能している
人物・長年の関係 当選14回。1986年の初当選から40年になる
ほかに選びたい人がいない 2026年は3人が対立候補として立った。3人の合計は31,866票で、2024年の2人(18,609票)から増えている

この表のなかで、いちばん引っかかるのは2行目である。

自民党は2026年2月の衆院選で、飲食料品の消費税率引き下げを掲げて戦った。有権者はその公約を含めて自民党に316議席を与えた。鳥取1区でも、自民党の公認候補として石破茂が当選している。

そして当選から5日後にその減税に懸念を述べ、半年後には反対派との連携に踏み込んだ。

これを「筋を通している」と見るか、「公約で当選して公約を止めにいっている」と見るかで、評価は正反対になる。どちらの見方にも根拠がある。

ただ、ひとつだけ言えることがある。この構図は、投票した側にも説明を求める種類のものである。66,146票を投じた人たちは、どちらの石破に入れたのか。


秋の臨時国会が、答え合わせになる

ここから先は、予測ではなく確認できる日付の話である。

秋に想定される臨時国会で、飲食料品の消費税率を2年間1%に引き下げる法案が扱われる見通しになっている。党としては8月3日に事実上了承済みで、あとは法案の形にする段階である。

そこで確認できることが3つある。

確認できること 意味
連携した議員の数と名前 「反対派と連携」が何人の集まりになるのか。数が出れば、党内でどれだけの力を持つ動きなのかがわかる
石破茂の投票行動 賛成するか、反対するか、欠席するか。自民党は党議拘束をかける党である。反対票は造反にあたる
法案の中身が変わるか 1%・2年間という条件が党内調整で動くかどうか。動けば、それが党内の反対がもたらした結果になる

次の国政選挙は、当面ない。衆議院の任期は2030年2月まで、参議院の次の通常選挙は2028年である。つまり有権者が石破茂について何かを表明できる機会は、当分こない。

だからこそ、この秋の記録が意味を持つ。選挙のない期間に何をしたかは、次の選挙のときにはほとんど報じられない。4年後の投票日に思い出せるかどうかは、いま誰が記録を残しておくかにかかっている。


「目を覚ませ」と言う前に

この記事は、鳥取1区の有権者を批判するために書いていない。数字を見るかぎり、批判が成立しないからである。

1年4か月で、石破茂の得票は4万票減った。得票率は17.66ポイント落ちた。有権者に占める支持は47.7%から30.0%になった。全国の投票率が上がったその選挙で、である。

鳥取1区は動いた。動いたうえで、66,146人が石破茂を選んだ。

その66,146票が何を託した票だったのかは、投じた人にしかわからない。だが託された側が何をしているかは、日付つきで記録できる。本稿がやったのは、それだけである。

2月13日に減税へ懸念を述べ、8月3日に党の了承の場で異論を述べ、8月13日に反対派との連携を表明した。この3つの日付は、すべて2026年2月8日の当選のあとに並んでいる。

あなたが票を入れた政治家が、その票を掲げた公約と逆の方向に動いていたとき、それは筋を通していることになるのだろうか。それとも、票を託した側が問い直すべきことなのだろうか。


主要ソース

選挙結果

石破政権の記録

退陣後の言動

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この記事に登場する人物石破茂

編集者K

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