日立と聞いて、何を思い浮かべますか。
冷蔵庫。洗濯機。エアコン。「この木なんの木」のCM。たぶん、そのあたりだと思います。
2026年4月21日、日立はその白物家電事業をノジマに約1,100億円で売りました。国内メディアが書いたのは「日立が家電から撤退した」という一行です。
では、日立はいま何の会社なのか。
先に答えを出します。この17年で当期利益は△7,873億円から8,023億円へ、株価は約13倍になりました。ただし売上はほとんど伸びていません。10兆円だったものが、いま10.5兆円です。
つまり日立は、大きくなったのではなく中身を入れ替えた会社です。何を捨てて何を取ったのか。それが分かる痕跡が、海外に残っています。
かつてインドネシアの首都ジャカルタには、「HITACHI」という名前で呼ばれる電車が走っていました。愛称ではありません。通勤客が日常的にそう呼ぶ形式名です。
この電車が着いたのは1997年4月。その3か月後、この国の通貨が崩れました。結果として「HITACHI」は、ジャカルタの通勤路線が日本から買った最後の新造電車になります。そして2023年、インドネシアが次に選んだ新車は中国製でした。
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ジャカルタを走っていた「HITACHI」という名前の電車
正式な形式名はKL3-97形。ジャカルタ都市圏の電化路線は1976年から日本の円借款で近代化が進み、利用客の増加に対応するために発注されたのがこの車両でした。
最初の編成が到着したのは1997年4月。翌5月の試運転で良好な成績を記録しています。
注目すべきは、その次です。日立が自社で作ったのは、一部の部品を除いて最初の1編成だけ。以降の5編成20両は、日立の技術指導のもとで、インドネシアの国営車両メーカーPT.INKAがノックダウン方式で製造しました。
車体は全長20メートルの4両編成。軌道状態が悪いジャカルタ向けに台車枠を強化していますが、冷房装置は積んでいません。末期は扉を開け放したまま走り、混雑時には屋根の上まで乗客が溢れていたと記録されています。
ジャカルタの通勤電車は、もともと「ABB-Hyundai」「BN-Holec」などメーカー名で呼び分けられてきました。日立だけが特別扱いされたわけではありません。ただ、他が連名であるのに対し、日立は会社名がそのまま通称です。毎日その電車で通勤する人が、日本の会社の名前で車両を指していた。
始まりは1932年の小型電動機と扇風機の輸出でした。扇風機から40年以上かけて1975年にジャカルタ事務所ができ、さらに20年かけて電車になった、という順番です。
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試運転の3か月後、通貨が3分の1になった
1997年7月、タイのバーツを起点にアジア通貨危機が始まります。インドネシアは同年8月14日にルピアを変動相場制へ移行しました。
ジャカルタで暴動が起き、32年続いたスハルト政権が倒れます。電車を買うどころではありません。輸入した新車の値段が、ルピアで見て3倍以上になったということです。
導入後も利用客は増え続けましたが、新型車両を買う資金が調達できなくなり、以降の増備は日本からの中古車両か、PT.INKA独自の新型車両になります。日立が1編成だけ作って技術を渡した相手が自国の車両メーカーとして育ち、日本は新車ではなく中古車両を送る国になりました。
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「HITACHI」の後を継いだのは、中国製だった
1997年に新車が買えなくなってから、ジャカルタを支えたのは日本の中古電車でした。その26年続いた流れが、2023年に断ち切られます。
2022年9月、KAIコミューターがJR東日本のE217系348両を順次譲り受ける計画で輸入許可を申請しました。これに対し工業省は「PT.INKAに必要な電車を製造する能力がある」として却下します。
2023年6月にはルフット・ビンサル・パンジャイタン海洋・投資調整相が中古電車の輸入を認めないと明言し、2024年6月22日に政府が輸入禁止を正式表明。中古車両の導入は2020年の武蔵野線205系が最後になります。
では、足りない車両はどこから来たのか。2023年1月31日、インドネシア通勤鉄道(KCI)は中国中車青島四方(CRRC)と12両編成3本の購入契約を結びました。契約額は約7,830億ルピア。CLI-125型として2025年6月1日に営業運転を開始しています。日本の中古車両が走ってきた区間です。
ただし、日本が全部いなくなったわけではありません。INKAの新型車両CLI-225型は、ステンレス車体の製造品質についてJ-TREC(総合車両製作所)の技術指導を受け、主要な電機品は東洋電機製造の製品です。
看板は中国製に変わり、国産化の掛け声も強まった。それでも、車体の作り方と中の電機品は日本から来ています。
日本は車両の商売を失い、技術だけが現地に残りました。これを負けと呼ぶか種まきと呼ぶかは、読む人によって割れると思います。
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家電を売った日立は、いくら稼いでいるのか
では、その日立はいま何で食べているのか。2026年3月期の連結売上収益は10兆5,867億円、当期利益は8,023億円で前年から30.3%増えました。「家電から撤退した会社」の決算としては、ずいぶん違う顔です。
1,100億円で売ったもの、残したもの
2026年4月21日の発表を、もう少し細かく見ます。ノジマが設立する特別目的会社が新会社の株式80.1%を取得し、日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が19.9%を持ちます。買収額は約1,100億円。
対象は国内の白物家電だけではありません。2021年にトルコの家電大手アルチェリクと作った合弁会社(AHHA)も含まれ、海外の家電も一緒に手放します。
一方で日立GLSには空調事業が残ります。冷蔵庫と洗濯機は消費者向け、業務用空調はビル設備。残したのは後者でした。
手放したのは家電だけではない
この10年、日立が売ったものを並べると、方向がはっきり見えます。
| 時期 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 2016年 | 日立物流 | 持分法適用会社化。連結から外す |
| 2020年 | 日立化成 | 譲渡 |
| 2022年 | 日立建機 | 持分法化 |
| 2023年 | 日立金属 | 投資ファンドへ譲渡。創業に連なる事業 |
| 2026年 | 白物家電 | ノジマへ約1,100億円。空調は残す |
日立は1956年以降、非電機の事業を分社して個別に上場させ、親子上場でグループを束ねてきました。上場子会社は最多で22社あったと報じられています。その構造をほぼ解体した。
報道の見出しは、そのつど「日立が◯◯を売却」でした。ですが一覧を並べると別の質問が出てきます。売った金で、何を買ったのか。
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7,873億円の赤字から、8,023億円の黒字へ
川村隆の着任から家電の売却まで、当期利益を並べます。
ところが、売上はほとんど伸びていない
売上収益は2009年3月期が10兆4億円、翌2010年3月期に8兆9,685億円まで落ち、2026年3月期で10兆5,867億円。17年かけて、ほぼ元の水準に戻っただけです。伸びたのは利益率のほうでした。
| 決算期 | 売上収益 | 当期利益 | 利益率の目安 |
|---|---|---|---|
| 2009年3月期 | 10兆4億円 | △7,873億円 | 営業利益率1.3%(米国基準) |
| 2019年3月期 | 9兆4,806億円 | 2,225億円 | 調整後営業利益率8.0% |
| 2021年3月期 | 8兆7,291億円 | 5,016億円 | 調整後営業利益率5.7% |
| 2025年3月期 | 9兆7,833億円 | 6,157億円 | 調整後営業利益率9.9% |
| 2026年3月期 | 10兆5,867億円 | 8,023億円 | 調整後営業利益率11.3% |
売上が凹んだ年が、そのまま「売った年」だった
売上のグラフを見ると、途中で2回大きく凹んでいます。どちらも、事業を手放した年です。
2017年3月期は日立物流と日立キャピタルが外れて8,720億円減、2024年3月期は日立金属・建機・物流・Astemoが抜けて1兆1,524億円減。
見るべきはその翌年です。売上を落とした後ほど利益率が上がっている。売上を捨てて利益率を買っている、という言い方が実態に近い。
買った側も見ておく
2020年7月にABBのパワーグリッド事業、2021年7月にGlobalLogic、2024年5月にタレスの地上輸送システム事業。タレスは2025年3月期の売上を2,826億円押し上げました。
送電網、ソフトウェア、鉄道の信号。買ったものに家電は1つもありません。
人は、減ったのではなく外に出た
連結従業員数は2009年3月末が36万1,796人。2024年3月末には26万8,655人まで減り、2026年3月末は28万7,901人に戻しています。
10万人近く減った計算ですが、公表された人員削減計画は2009年2月の7,000人規模のみ。減った分の大半は、解雇ではなく事業ごと連結から外れた人たちです。
株価は13倍になった
投資家から見た答えははっきりしています。
2011年3月末の株価は約434円。2026年8月12日の終値は5,669円で、時価総額は約25.7兆円です。15年で約13倍。2009年の底値を起点にすればさらに大きくなりますが、当時の株価は一次資料で確認できませんでした。
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この線を引いたのは、5人の社長だった
数字は勝手に動きません。
川村隆 切る基準を作った
2009年4月、子会社の日立マクセル会長だった川村隆が本体に呼び戻され、会長兼社長に就きます。
この人がやったのは、テレビ事業からの撤退と、社会イノベーション事業との関係が薄い事業を切るという基準づくりでした。
中西宏明と東原敏昭 売ってから、買った
2010年4月に社長を継いだ中西宏明は、2012年3月にハードディスク事業をウエスタン・デジタルへ約3,900億円で売却。当時の日立で過去最大の事業譲渡でした。中西は2018年に経団連会長に就き、2021年6月27日に75歳で亡くなっています。
2014年4月に社長となった東原敏昭で、日立は初めて大きく買う側に回ります。ABBのパワーグリッド事業とGlobalLogicの約1兆円を含め、海外投資は総額2兆円超。切るだけの改革から、切った金で買う改革に変わったのがこの時期です。
2021年6月就任の小島啓二の任期中には、日立金属・日立建機・日立物流の切り離しが完了。最多で22社あった上場子会社は、ほぼゼロになりました。
徳永俊昭 家電の会社の社長だった人が、家電を売った
2025年4月1日に社長兼CEOとなった徳永俊昭に、いちばん皮肉な事実があります。徳永は2017年4月から日立アプライアンス(現・日立グローバルライフソリューションズ)の取締役社長で、低迷していた家電事業の立て直しを担当した人物でした。
その人が、社長就任の翌年に家電事業を1,100億円で売りました。
| 社長 | 就任 | 在任中に決めたこと |
|---|---|---|
| 川村隆 | 2009年4月 | テレビ撤退。事業を切る基準づくり |
| 中西宏明 | 2010年4月 | HDD事業を約3,900億円で売却(2012年) |
| 東原敏昭 | 2014年4月 | ABBパワーグリッド、GlobalLogic約1兆円。海外投資2兆円超 |
| 小島啓二 | 2021年6月 | 日立金属・建機・物流を切り離し、親子上場を解消 |
| 徳永俊昭 | 2025年4月 | 家電をノジマへ1,100億円。ATM事業をOKIと統合 |
日本の大企業で珍しいのは、5人が代わっても改革の方向がぶれなかったことです。社長が代わるたびに前任の路線を否定する会社は珍しくありません。日立は逆でした。
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では、誰の功績なのか
日立の復活はふつう「川村隆の功績」として語られます。ですが数字を追うと、そう単純ではありません。
川村隆は「止めた人」で、「伸ばした人」ではない
川村が会長兼社長だった時期の当期利益は△7,873億円→△1,070億円→2,389億円で、戻しただけです。売上も10兆円から9兆3,158億円に減りました。V字回復と呼ばれますが、これは回復であって成長ではありません。
利益の水準を上げたのは東原敏昭
調整後営業利益率は2014年3月期の5.5%から2019年3月期の8.0%へ。東原が社長だった期間です。いまの日立が稼いでいるエネルギーとソフトウェアは、この人が約2兆円で買ったものです。数字だけで「最大の功績」を決めるなら、東原になります。
11.3%まで持っていったのは、小島と徳永
親子上場を解体すると、子会社の少数株主に流れていた利益を全部拾えるようになります。利益率は6.9%(2023年3月期)から9.9%(2025年3月期)、そして徳永の下で11.3%になりました。
それでも、川村がいなければ何も始まらなかった
川村の貢献は数字に出ない場所にあります。「社会イノベーション事業との関係が薄い事業は切る」という基準を言葉にしたことです。この基準があったから、中西はHDDを売る判断ができ、東原は何を買うべきかで迷わずに済みました。
後任の4人が方向を変えなかったのは、それが個人の好みではなく引き継げるルールとして書かれていたからだと思います。
もう1つ。川村は2009年12月に3,492億円を調達しています。既存株式の約13%の希薄化を伴い、当時は世界中の株主から批判されました。ですが、この資本がなければ後の2兆円の買収はできていません。
ただし、全部を個人の手柄にはできない
追い風もありました。世界的な電力投資の拡大、データセンター需要、そして円安です。同じ判断を10年早くやっていたら、同じ結果になったかは分かりません。
整理すると、こうなります。川村が生存と方向を、中西が最大の売却を、東原が成長を、小島と徳永が仕上げを担当した。誰か1人の物語にできないことが、この会社の強さでもあります。
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鉄道は6年で2.3倍になった
移動先のひとつが鉄道です。モビリティセグメントの売上収益は2026年3月期で1兆3,215億円、受注残は7.1兆円。5年分以上の仕事を抱えています。
2020年3月期の鉄道事業は5,803億円でした。6年で2.3倍です。
2024年5月にはタレスの地上輸送システム事業の買収を完了。車両ではなく信号と運行管理を買っています。日立レールの主力は「電車の箱」ではなく、列車をどう走らせるかを決める制御の部分です。
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ホーチミンの地下鉄は、受注から開業まで11年かかった
アジアでの実物を1つ。ベトナム・ホーチミン市初の都市鉄道1号線は2024年12月22日に開業しました。19.7キロ、地下3駅・高架11駅です。
| 分類 | 日立が納入したもの |
|---|---|
| 車両 | 17編成・計51両 |
| 信号・通信 | 無線式列車制御システム(CBTC)、列車無線 |
| 駅設備 | ホームドア、券売機・改札機 |
| 電気・土木 | 受変電設備、架線・軌道工事、車両基地設備 |
車両を売ったのではなく、走る仕組みを丸ごと納めています。券売機と改札機まで日立です。
そして、ここが報道になりにくい部分です。受注は2013年6月、開業は2024年12月。間に11年半あります。
インドでは信号を、シンガポールではエレベーターを
インドのチェンナイメトロでは、日立レールSTSの合弁事業体が信号・車両制御・映像管理の業務を162億ルピー(約260億〜275億円)で落札しました。総延長119キロを90秒間隔で走らせる中身で、2027年完成予定。ここでも売っているのは制御です。
シンガポールでは住宅開発庁(HDB)の高層住宅向けにエレベーター450台。日立グループとしてシンガポールで過去最大の昇降機受注です。
ただし勝っていない場所もあります。インドのエレベーター市場でのシェアは1%弱で、中国に次ぐ世界2位の市場をほぼ取れていません。
アジアのどこでも日立が強い、という話ではありません。強いのは、インフラの制御と保守が絡む領域です。
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インドネシアで、現金を数えている機械の2台に1台
インドネシアで稼働しているATMは約10万台、うち還流式が約4万5,000台。日立チャネルソリューションズによれば、このうち同社製が約2万2,500台でシェアは約50%(2025年・同社調べ)。現金を扱う機械の2台に1台が日立製という計算です。
10年でここまで来た
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1932年 | 小型電動機・扇風機を初輸出 |
| 1975年 | ジャカルタ事務所を設立 |
| 1997年 | 通称「HITACHI」の電車が到着。以降はPT.INKAが現地生産 |
| 2013年 | BCA銀行でATMの自動還流運用を開始 |
| 2015年 | 現地法人を設立。翌年4月から事業開始 |
| 2019年 | BRI銀行向けにマネージドサービス開始 |
| 2020年 | 還流式ATMの累計出荷1万台を突破 |
| 2024年 | 累計出荷2万台を突破。POSも市場投入 |
売ったあと、24時間監視している
数字として重いのは台数よりこちらです。自社保有の約9,000台を含む約1万7,000台を24時間体制で監視・運用し、全土に85のサービス拠点と350人超の保守員を置いて、監視カメラの管理からブースの空調保守、清掃までまとめて請けています。
ここが家電と決定的に違います。売った瞬間に関係が終わらない。1万7,000台を24時間見続ける契約は、翌年もその翌年も続きます。
1万7,000台のうち約9,000台が自社機ということは、他社が売ったATMも日立が面倒を見ているということです。
そして、そのATM事業も手放す
ここまで書いておいて、ひっくり返す事実を1つ足します。
日立は2026年3月26日、OKIとATM事業を統合する契約を結びました。出資比率はOKIが60%、日立が40%。事業開始は2026年10月1日の予定で、2026年度中に日立の連結から外れます。インドネシアで半分のシェアを取った事業も、本体からは離れていきます。
日立は「勝った場所に居座る会社」ではありません。家電も建機もATMも、稼ぎ方の形が自社に合わなくなれば外に出す。残しているのはエネルギー、鉄道の制御、デジタル。単体の機械ではなく、動かし続ける仕組みの側です。
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鉱山の穴の底で動いている、120トンのショベル
もう一つ、見えない場所の話を。日立建機は鉱山用の油圧ショベルで世界シェア約30%、超大型ダンプトラックで約12%。日刊工業新聞によれば、鉱山機械事業の売上のうちアジア向けが45%で、その多くがインドネシア。120トンクラスのショベルに限ると53%とされています。
日立建機は西ジャワ州のチビトン第二工場で、中型油圧ショベルの生産に加え、超大型ショベルの溶接構造物と超大型ダンプの足回り部品を作っています。現地で作り、現地で使う形です。鉱山機械事業の売上高は2030年度に6,000億円(2024年度見込みの約1.5倍)が目標です。
ちなみに日立建機は2022年に連結から外れ、2026年5月の追加売却で日立の議決権は約10%です。それでも「日立」の名前で、インドネシアの穴の底で重機が動いています。
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なぜ、この積み上げは報じられないのか
ジャカルタの電車の形式名。インドネシアのATMの半分。ホーチミンの設備一式。チェンナイの信号260億円。シンガポールのエレベーター450台。どれも日本国内では話題になっていません。理由は3つあると考えています。
理由1 買い物にならないものは、記事にならない
冷蔵庫と洗濯機には読者がいます。値段があり、店頭にあり、買うかどうかを判断できる。だから「日立が家電をやめる」は自分の話になります。
一方、CBTC信号システムを買う一般読者はいません。還流式ATMも120トンショベルも同じです。読者が当事者になれない商品は、ニュースの型に収まりません。
理由2 撤退は1日で終わるが、受注は11年かかる
ニュースには「その日」が要ります。家電の売却は2026年4月21日という1日の出来事で、発表があり、金額があり、見出しになる。
対してホーチミン1号線は受注から開業まで11年半あり、途中の10年に「その日」がありません。ATMも同じで、10年分をまとめて初めて「半分を取った」という絵になります。
撤退はイベントで、進出は積分です。報道はイベントを拾い、積分を落とす。
理由3 名前が消えるビジネスを選んでいる
3つ目は、日立自身の選択でもあります。冷蔵庫には日立のロゴが貼ってあります。ですが、ホーチミンの地下鉄に乗る人は、その信号が日立製だとは知りません。インフラは、うまく動いているときほど、誰が作ったか意識されない。
皮肉なのは、その「名前が消える領域」で、かつて会社名がそのまま電車の名前になったことがある、という点です。
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公平のために書いておくこと
まず、家電の売却は前向きな選択とだけは言い切れません。日立GLSは2025年3月期に3,676億円を売り上げています(残す空調事業を含む会社全体の数字)。伸ばせるなら手放す理由はない。
次に、負けている市場があります。インドのエレベーターのシェア1%弱は、世界2位の市場でほぼ取れていないという意味です。数量で戦う商品では勝ち切れていません。
さらに、アジアの比率そのものは、まだ大きくありません。2026年3月期の地域別構成比は日本37%、北米16%、欧州21%、中国9%、アジア9%、その他8%。アジアは中国と合わせても18%で、主戦場はいまも日本と欧州と北米です。鉄道の1兆円台も、拠点の中心は英国・イタリア・日本・米国です。
「日立はアジアで勝っている」ではなく、「アジアで、報じられないまま特定の領域を押さえている」が数字に忠実な言い方です。
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報じられないことは、起きていないことではない
家電を1,100億円で手放したことは、正しく報じられました。同じ会社がインドネシアのATMの約半分を押さえ、1万7,000台を24時間見ていることは、ほとんど報じられていません。片方だけを見れば「日本の家電の終わり」、両方を見れば「稼ぐ場所を移した会社」になります。
1997年、ジャカルタの通勤客は電車を指して「HITACHI」と呼んでいました。会社の名前が、毎日誰かの口に出ていた。その電車はもう走っていません。いま同じ区間を走る新車は中国中車製です。
冒頭の問いに戻ります。日立はいま、送電網と鉄道の制御とソフトウェアの会社です。テレビをやめ、家電を売り、ATMも建機も外に出した。ロゴが見えるものは、ほとんど残っていません。
それでも、その国の現金と鉱山と交通のなかに日立の設備は入っています。負けた話は伝わり、残ったものは伝わらない。
あなたは、日立を何の会社だと思っていましたか。
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この記事で使った資料と、その確度
確度が低いから使わない、という意味ではありません。★2でも用途を限定すれば材料になります。何にどう使ったかを併記します。
| 確度 | 媒体 | 資料 | 評価の理由 |
|---|---|---|---|
| ★5 | 日立製作所 | 2026年3月期 連結決算の概要 | 当事者の開示。売上収益・当期利益・地域別構成比はこの原本で確認 |
| ★5 | 日立製作所 | インドネシアに「日立アジア(インドネシア)社」を設立(2013年7月18日) | 1932年の扇風機輸出と1975年のジャカルタ事務所は、この原文で確認 |
| ★5 | 日立チャネルソリューションズ | インドネシアの販売・サービス会社が設立10周年(2025年12月19日) | ATM2万2,500台・シェア約50%・85拠点・監視1万7,000台の出所。シェアは「同社調べ」で第三者検証ではない |
| ★5 | OKI・日立 | OKIと日立、ATM等の自動化機器に関する事業統合に向けた契約締結を合意(2026年3月26日) | 出資比率OKI60%・日立40%、2026年10月1日事業開始の予定はこの原文による |
| ★4 | 日本経済新聞 | 日立、日立建機株を追加売却へ 持ち分比率10%に/25%→18%で持ち分法適用会社外れる | 資本関係の現状に使用。2026年5月の売却規模(約900億円)は関係者取材によるもので当事者の公表ではない |
| ★5 | 日立製作所 | ホーチミン市初の都市鉄道1号線が開業(2024年12月23日) | 納入範囲の一次資料。受注時期は2013年6月11日のリリースで確認 |
| ★5 | 日立製作所 | 2009年3月期 連結決算の概要/有価証券報告書 第150期 | グラフと表の年度別数値、従業員数の出所。2014年3月期をまたぐ数字は米国基準とIFRSで不連続 |
| ★4 | 日経・Bloomberg | 歴代3トップの構造改革/HDD事業売却完了/中西前会長が死去 | 歴代社長の就任時期と在任中の決定、HDD売却額、中西の死去に使用。徳永の日立アプライアンス社長就任(2017年4月)は経歴報道による |
| ★4 | 国際通貨研究所 | アジア通貨危機 | ルピアの変動相場制移行(1997年8月14日)と2,800→9,662ルピアの推移に使用 |
| ★4 | 日本経済新聞・日経ビジネス | 日立、沈む巨艦に大なた 歴代3トップの構造改革 | 7,873億円の最終赤字と、川村隆の就任・テレビ撤退の経緯に使用 |
| ★4 | 日本経済新聞 | ノジマ、日立の家電事業買収を発表 買収額1100億円 | 買収額・持株比率・AHHAの扱いはこことブルームバーグで照合 |
| ★4 | ジェトロ | ホーチミン1号線が開業/チェンナイメトロを日立レールSTSが落札 | 政府系機関の現地情報。路線諸元と162億ルピーの落札に使用。円換算は報道により260億〜275億円と幅がある |
| ★3 | 東洋経済 | 鉄道世界大手に大躍進の裏側と野望/鉄道売上高2兆円 達成の条件 | 鉄道1兆1,469億円・海外8割超・51カ国・2万4,000人の出所。評価が入るため事実部分のみ使用 |
| ★3 | 日刊工業新聞 | 日立建機が超大型ダンプトラックで攻める/インドのエレベーター市場でシェアわずか1% | 鉱山機械のシェアとインドのエレベーター1%弱に使用。アジア45%・120トン級53%は会社の説明会資料にはない業界紙のみの数字 |
| ★3 | 東洋経済 | インドネシア「日本の中古電車禁止」/実は日本技術の結晶「インドネシア製電車」の中身/「インドネシア国産電車」に見る日本企業の存在感 | 中古車両輸入禁止の経緯と、INKA製車両に入る日本製部品の出所。評価語が入るため事実部分のみ使用 |
| ★2 | Wikipedia・鉄道専門メディア | インドネシアへの中古電車輸入をめぐる論争 | CRRCとの契約額とE217系348両の計画は、KCI・CRRCの公表資料を直接確認できていない。年月日と当事者は複数媒体で一致するため採用 |
| ★3 | Wikipedia(出典付き) | インドネシア鉄道公社HITACHI電車 | 通称「HITACHI」の根拠。百科事典なので本来は★2だが、大場英資ほか「インドネシア・陸運総局納KL3-97電車」(『車両技術』214号)やJICAの調査報告が出典として明示されているため★3 |
| ★2 | ダイヤモンド | 日立化成、日立建機、日立金属… | 上場子会社の売却経緯に使用。論調が強い媒体なので年次と対象会社の事実だけを取った。22社は一社報道のみのため「報じられている」と書くにとどめた |




