ホーム ニュース 斎藤知事が「検証する」と…
ニュース国内

斎藤知事が「検証する」と言った月に、兵庫県は「起債許可団体」になる──338億円の検証部会は、委員を選ぶのが県で、前知事を呼ぶ強制力はない

7月に、当サイトはこう書いた。兵庫県は8月に14年ぶりの「起債許可団体」になる、と。

その8月が来た。

そして2026年8月7日、斎藤元彦知事は、井戸敏三前知事の時代に行われた338億円の不適切な会計処理について、原因を究明する検証部会を設置すると発表した。委員は公認会計士と弁護士。結果は11月ごろにまとまる。

「検証する」という言葉は、それだけ聞けば前向きに響く。

だが、検証には設計がある。誰が委員を選ぶのか。会議は公開されるのか。前知事を呼ぶ力はあるのか。そして11月に何が出れば、検証したと言えるのか。

この記事では、8月に決まったことを並べたうえで、その設計を見ていく。材料は県が公表した議事要旨と会議資料の現物、それに8月7日の各社報道である。

8月7日に決まったこと

部会の中身

斎藤知事が発表したのは、公共用地先行取得等事業債(用先債)をめぐる不適切な会計処理について、原因を究明し、再発防止を図るための部会を設置するというものだ。

項目 内容
目的 原因究明と再発防止策の策定
委員 公認会計士、弁護士。財政学を専門とする大学教授を含むとの報道もある
初会合 報道が割れている。「9月上旬」とするものと、「早ければ8月中」とするものがある
結果 11月上旬まで、または11月ごろまでに取りまとめ
前知事への聴取 斎藤知事は「あり得る」「OBや前知事も何らかの形でヒアリングする予定」と発言
職員への調査 「前知事の指示を踏まえていれば当時の幹部職員からどのような経緯で借り換えしたのか調査していく」

初会合の時期が報道によって食い違っているのは、この時点で正式な設置要綱が公表されていないからだと考えられる。8月中と9月上旬では、11月までに使える時間が1か月ちがう。

知事の言葉

斎藤知事は8月7日、こう述べている。

「当時の判断の検証していくということが大事だと思います」

──2026年8月7日、関西テレビ「newsランナー」

この姿勢そのものは、評価していい。表に出さないこともできた話を公表し、部会を作り、期限まで切った。やらないという選択肢が普通にあったなかで、やると決めている。

そのうえで、中身を見ていく。

7月に書いた予告は、どうなったのか

起債許可団体への移行

7月の記事で、当サイトは「8月に14年ぶりの起債許可団体へ」と書いた。

実質公債費比率——県の収入に占める借金返済の重さを示す指標——の3か年平均が18%以上になると、県債を発行するのに国の許可が要る「起債許可団体」になる。兵庫県はこのラインを超える見通しだった。

県が7月13日に示した資料によれば、修正後の3か年平均は令和7年度に19.3%。18%を明確に超えている。

そして8月、県は公債費負担適正化計画を総務省に提出する予定である。7月13日の検討会で、斎藤知事自身が「来月、総務省にこの適正化計画の提出を予定している」と述べている。

起債許可団体になると、何が変わるのか。

  • 県債の発行に国(総務大臣)の許可が必要になる
  • 公債費負担適正化計画の策定・提出が義務づけられる
  • 計画に沿って投資を抑制することになる

県が示した素案では、令和9年度から投資規模を10%以上抑制するとしている。道路も、河川も、学校も、公園も、この10%のなかにある。

その先にある25%のライン

もうひとつのラインが25%だ。実質公債費比率の3か年平均が25%を超えると「早期健全化団体」になる。都道府県では前例がない。

県の試算では、案1で単年度25%超、案2で令和12〜15年度の3か年平均が25%超。県は厳しいほうの案2をベースに計画を作るとしている。

つまり、8月の起債許可団体入りは通過点であり、本番はその先にある。338億円の話を「過去の後始末」として片づけられない理由が、ここにある。

何が問題だったのか

スキームそのものは7月の記事で詳しく書いたので、ここでは1段落で押さえる。

2000年度、兵庫県は用先債で490億円分の公共用地を取得した。将来の道路や公園、学校のために、着手前に土地を買っておく制度である。この借金は、土地を売った(買い戻された)ときに、その売却収入で返すのが原則だ。2017年度から買い戻しが進み、2020年度までに338億円分の売却収入が生じていた。ところが2020年度に借換の満期が来たとき、県は未売却分の152億円だけを借り換えるのではなく、490億円を全額借り換えた。その結果、338億円は返済に充てられず、県債管理基金に積まれたまま残った。

490億円は、どこで分かれたのか2000年度(平成12年)用先債490億円で公共用地を取得2017〜2020年度買い戻しが進み338億円の売却収入2020年度(令和2年)借換の満期が到来ここで判断が分かれた本来やるべきだったこと売却済みの338億円で県債を償還未売却分の152億円だけを借り換え県債残高は152億円になっていた実際にやったこと490億円を全額借り換え338億円は基金に残したまま地方財政法に抵触するおそれ

基金に338億円が残っていれば、借金返済の備えが厚く見える。実質公債費比率は、県債管理基金の積立状況で改善する仕組みになっているからだ。返さずに置いておくほうが、健康診断の数値は良くなる。

県の資料は、この構造を「起債許可期限(令和12年)まで県債償還を繰り延べて基金残高を留保」と書いている。表現は事務的だが、意味ははっきりしている。

では、338億円は何に使うつもりだったのか

ここで、素朴な疑問が出る。県庁の建て替えや、新しい公共事業に回すために取っておいたのではないか、と。

それは違う。県の資料を読むかぎり、そういう性質の金ではない。

理由は2つある。ひとつは、用先債という制度上、土地を売った金はその借金を返すためのものと決まっていること。もうひとつは、置かれた先が県債管理基金——借金返済のためだけに積む基金だったことである。ここに入れた金で庁舎を建てたり、道路を作ったりはできない。

そもそも、土地を買い戻したのは県自身だ。県の資料には、2017年度から2022年度にかけて、県有環境林特別会計が用地特別会計から用地を環境林として買い戻していった経過が載っている。宝塚新都市、伊加利・津井、小野市市場——これらの買戻しで生じた金が338億円である。県の中で財布を移しただけで、外から新しい金が入ってきたわけではない。

ただし、間接的には公共事業の話でもある

そのうえで、けっして無関係ではない。むしろ、ここが動機の核心かもしれない。

実質公債費比率が18%を超えると、県は起債許可団体になる。県債を出すのに国の許可が要る状態だ。つまり、新しい公共事業のための借金が、自由にできなくなる。

338億円を返さずに基金へ置けば、その比率は低く保たれる。18%のラインに近づく時期を、先に延ばせる。

斎藤知事は7月13日の検討会で、この処理の経緯についてこう説明している。

「これは平成31年の行革プラン策定・見直し時に、当時の知事から県債管理基金の残高確保の指示があり、それに基づいて実施されたとの報告を私自身も受けている」

──第2回持続可能な財政運営検討会 議事要旨(兵庫県)

「県債管理基金の残高確保」。指示の内容として説明されているのは、事業をやるための金の確保ではなく、基金の残高そのものである。残高が確保されれば、指標が保たれる。

ただし、これは斎藤知事が受けた報告として語られたものであり、指示の文書が確認されたという発表はない。井戸前知事本人の説明も出ていない。11月の報告書で確かめられるべきは、まさにこの点だと思う。

では、起債許可団体入りは遅れたのか

もうひとつ、当然出てくる問いがある。338億円を返していれば、もっと早く起債許可団体になっていたのではないか。

数字の上では、そうならない。

県の表で3か年平均を修正前と修正後で並べると、令和3年度から令和6年度までの差は0.1〜0.3ポイントしかない。18%を超えるのは、修正前でも修正後でも同じ令和7年度である(19.0%と19.3%)。

影響が大きくなるのは、むしろこの先だ。25%のラインが視野に入る令和11年度以降で、差が0.8ポイントまで開く。この処理が本当に効いてくるのは、起債許可団体の入口ではなく、早期健全化団体の入口のほうである。

ところが、県の資料は「主な要因ではない」と読める

まず、338億円で県の借金は1円も増えていない

338億円という金額を聞くと、県がそれだけ損をした、あるいは借金がそれだけ増えた、と受け取ってしまう。どちらでもない。

県が借りていたのは490億円で、その額は2000年度から変わっていない。2020年度にやったのは、返せるタイミングで返さずに、そのまま借り続けたということである。借金の総額は動いていない。返す時期を先に延ばしただけだ。

では何が変わったのか。貯金がいくらあるように見えるか、である。

返さなければ、貯金が多く見える

県には「県債管理基金」という、借金返済のための積立金がある。338億円を返済に使わなかったので、その338億円は基金に積まれたまま残った。

そして実質公債費比率——県の収入に対する借金返済の重さを示す指標——は、この基金にどれだけ積んであるかで良くも悪くもなる。積立が足りないと、算定上のペナルティが加算される仕組みになっているからだ。

兵庫県はいま、この積立が約50%不足している。338億円を「本来ここにあってはいけない金」として差し引くと、不足がさらに広がり、ペナルティが増え、比率が悪化する。

県の資料が言う「修正前」「修正後」は、この338億円を引く前と引いた後、という意味である。

その差が、0.8ポイントだった

ここからが、7月には見えていなかった部分だ。

斎藤知事は、338億円の不適切な処理を、兵庫県が財政危機に陥る「主な要因」として挙げてきた。ところが、県自身が7月13日に公表した資料を読むと、そうは読めない。

年度(3か年平均) 修正前 修正後
令和7年度 19.0% 19.3% 0.3
令和11年度 23.7% 24.5% 0.8
令和12年度 24.0% 24.8% 0.8
令和15年度 23.8% 23.8% 0.0

影響がいちばん大きい年でも0.8ポイント。そして令和13年度以降は0.0、つまり影響が消える。

なぜ338億円が、0.8ポイントにしかならないのか

金額の大きさと影響の小ささが釣り合わないので、ここを開いておきたい。理由は3つある。

ひとつめ。兵庫県の借金は、けたが違う。

県が2025年8月に総務常任委員会へ出した資料によれば、令和6年度末の県債残高は3兆8,392億円である。338億円は、その0.9%にあたる。もともとの借金がこの規模なので、338億円を足し引きしても指標は大きくは動かない。

ふたつめ。338億円は、分子にそのまま乗らない。

県が公表している用語集に、実質公債費比率の算式が載っている。分子に入るのは、その年の元利償還額、準元利償還金、そして減債基金の積立不足に対する加算の3つ。338億円が効くのは3つめだけである。

そしてその加算は、こう計算される。

満期一括で返す県債の、その年の償還額 × 積立の不足率

──兵庫県「財政・健全化判断比率用語集」(総務常任委員会資料)

ここが肝心なところだ。338億円という金額が、そのまま分子に足されるわけではない。338億円が動かすのは「積立の不足率」というパーセンテージのほうで、それにその年の償還額を掛けたものが加算される。

そして分母は標準財政規模——県が毎年使える標準的な収入で、兵庫県の場合は1兆円を超える規模である。

つまり338億円は、比率のかたちに変換され、その年の償還額を掛けられ、1兆円規模の分母で割られる。この3段階を通るので、元の金額の大きさは指標の上では薄まる。

みっつめ。10年に分散する。

用先債の借換期限は令和12年である。338億円の影響は、そこまでの各年に散らばって効く。表で令和13年度に0.0になっているのは、そこで用先債の話が終わるからだ。

0.8ポイントを、どう見るか

小さいと言える理由。338億円を修正しなくても、3か年平均は令和12年度に24.0%まで上がる見通しだった。早期健全化団体のラインは25%である。338億円がなくても、あと1.0ポイントのところまで来ていた。そこまで積み上げたのは338億円ではなく、長年の県債残高と、近年の金利上昇である。

大きいと言える理由。その24.0%に0.8を足すと24.8%になり、25%まであと0.2ポイントしかない。ラインを超えるかどうかのぎりぎりの場面では、0.8ポイントは決定的に効く。都道府県で前例のない早期健全化団体に落ちるかどうかが、この0.8で変わりうる。

つまり、こう整理できる。24.0%まで積み上げたものが「主な要因」であり、338億円は最後の0.8ポイントを押した。最後のひと押しは軽くないが、それを「主な要因」と呼ぶと、24.0%を作ったものが見えなくなる。

知事は指摘を受けて「真摯に受け止める」と答えている

この点は、7月の公表直後に記者から突かれている。問題の影響はわずかであり、早期健全化団体への転落の主な要因は金利上昇ではないか、人を惑わす説明ではないか、と。

斎藤知事の答えは「ご指摘は真摯に受け止める」だった。否定していない。

ここは公平に書いておきたい。338億円の処理は、県自身が地方財政法に抵触するおそれがあると認めた事実であり、それ自体が軽い話ではない。基金の残高を実際より厚く見せていたことも事実だ。

ただし、「これのせいで財政が危なくなった」という説明の重さと、0.8ポイントという数字の重さは、釣り合っていない。兵庫県の財政を押し上げている主因は、金利の上昇と、長年積み上がった県債残高そのものである。

そのことは、この一件の悪質さを下げるものではない。基金の残高を実際より厚く見せていたのだから、県民も、県議会も、国も、正しい数字を見られなかった。金が消えたのではなく、正しい数字が消えていた。問題はそこにある。

この差は、検証部会が11月に何を出すかを見るときの、ものさしになる。

では、検証の設計はどうなっているのか

委員を選ぶのは、誰か

「第三者による検証」と言うとき、その第三者を誰が選んだかで、意味が変わる。

8月11日時点で、県は検証部会の設置要綱を公表していない。委員の氏名も、選任の方法も、会議を公開するかどうかも、議事録を出すかどうかも、明らかになっていない。

この段落は、報道と県の公表資料を確認した範囲で「まだ公表されていない」と書いています。県が非公開にすると決めた、という意味ではありません。要綱が出れば分かることです。

ただ、参考になる前例がある。この問題が報告された「持続可能な財政運営検討会」の議事要旨である。

すでにある会議は、委員名を伏せている

7月13日の検討会には、飯塚委員、石川委員、上村委員(会長)、木村委員、下山委員の5人が出席した。名簿は公表されている。

ところが、県が公表した議事要旨には、こう注記されている。

「当検討会の自由闊達な意見交換等の観点から、議事要旨の委員名については記載を控えております」

──第2回持続可能な財政運営検討会 議事要旨(兵庫県)

発言は「委員A」「委員B」と記されている。誰が何を言ったかは、分からない。

これは違法でも異例でもない。多くの自治体がやっていることだ。だが、検証部会が同じ方式を採れば、11月に出てくるのは「委員Aはこう述べた」という文書になる。

当サイトはこれまで、発言には必ず名前を付けるべきだと書いてきた。匿名の発言は、責任の所在が消えるからだ。検証部会がどちらを選ぶかは、要綱が出た時点で分かる。最初に確認すべきは、そこだと考えている。

調査権限はあるのか

もうひとつ。部会には、資料の提出や出頭を強制する権限はない。

知事が設置する附属機関や検討会は、あくまで県の内部に置かれる会議体である。県の職員に対しては、知事の指揮命令として資料提出や聞き取りに応じさせることができる。だが、県の外にいる人に対しては、任意の協力を求めることしかできない。

ここが、次の論点につながる。

前知事は、呼べるのか

「あり得る」と「呼んで答えさせられる」は別

斎藤知事は、井戸前知事へのヒアリングについて「あり得る」と述べ、「OBや前知事も何らかの形でヒアリングする予定」とも語っている。

だが、井戸敏三氏は2021年に退任した、いまは県の外にいる人である。県が設置した部会に出席する法的な義務はない。応じるかどうかは本人の判断になる。

もし応じなかった場合、部会にできることはない。強制する仕組みがないからだ。

百条委員会との違い

強制力を持つ仕組みは、日本の自治体制度にちゃんとある。地方自治法100条にもとづく調査特別委員会、いわゆる百条委員会だ。

項目 検証部会(知事が設置) 百条委員会(議会が設置)
設置する主体 知事(=執行機関の長) 県議会の議決
委員を選ぶ人 県(現時点で選任方法は未公表) 議会(会派配分)
出頭・証言 任意。断られたら終わり 強制できる。正当な理由なく拒めば罰則
記録提出 県の内部資料は出せる。外部には求めるだけ 提出を請求できる
公開性 県の運用しだい 原則公開。中継されることも多い

兵庫県には、この百条委員会を全国に見せた実績がある。2024年、斎藤知事本人が百条委員会に呼ばれ、あの光景が全国に中継された。

だから、こう問うことはできる。なぜ今回は百条委員会ではなく、知事が作る部会なのか。

公平を期して言えば、答えは単純かもしれない。部会を作るかどうかは知事が決められるが、百条委員会を作るかどうかは議会が決めることで、知事が「やってくれ」と言う筋のものではない。今回、議会にその動きがあるとは、現時点で確認できていない。

それでも、「呼べる」と「呼んで答えさせられる」の差は残る。11月の報告書に前知事の話が載っていなかったとき、それが「呼んだが断られた」なのか「呼ばなかった」なのかは、はっきり書かれるべきだと思う。

法的な責任は、まだ問えるのか

住民監査請求には1年の壁がある

ここは、あまり論じられていない論点である。

問題の借り換えが行われたのは2020年度(令和2年度)。公表されたのは2026年7月13日。6年が経っている。

自治体の違法な財務会計行為を住民が正す仕組みが、住民監査請求(地方自治法242条)だ。ただし、同条2項に期間制限がある。当該行為のあった日、または終わった日から1年を経過したときは、原則としてできない。

2020年度の行為について、2026年に請求することは、原則としてできない計算になる。

ただし、例外が2つある

条文には「正当な理由があるときは、この限りでない」という但し書きがある。判例上、住民が相当の注意力をもって調査しても知り得なかった場合には、知ることができた時から相当な期間内であれば認められると扱われてきた。

今回、この処理が公になったのは2026年7月13日である。それ以前に県民が知る手段はなかった。「正当な理由」を主張する余地は、ある。

もうひとつが、いわゆる「怠る事実」の構成だ。判例は、財産の管理を怠る事実については1年の期間制限が適用されないとしている。338億円を償還に充てず放置していることを「怠る事実」として構成できるかどうかは、法律家の判断になる。

ここは一般的な制度の説明であり、この事案について具体的に請求が可能だという意味ではありません。8月11日時点で、この件について住民監査請求が出されたという報道は確認できていません。

そもそも「損害」を確定できるのか

仮に手続きの壁を越えたとしても、次の壁がある。誰にいくらの損害が生じたのか。

338億円は、どこかに消えたわけではない。基金に積まれ、いまも県の中にある。県から金が流出したのではなく、返すべきものを返さずに置いていた——という性質の話だ。

その場合の損害は、余計に払った利息だと考えるのが自然だろう。490億円で借り換えたのと、152億円で借り換えたのとの、利払いの差である。ただし2020年当時は超低金利であり、その差は338億円という数字の大きさに比べれば、はるかに小さい。

金額の大きさと、法的に問える損害の大きさは、一致しない。ここを混同すると、話が空回りする。

もうひとつの「見た目」の話

基金を積み替えると、比率だけが下がる

7月13日の議事要旨には、338億円とは別に、見過ごせないやりとりが記録されている。

県が示した公債費負担適正化計画の素案には、3つの施策が並んでいる。投資規模の10%抑制、県債管理基金の運用益確保、そして特定目的基金から県債管理基金への「積み替え」である。

なぜ積み替えると数値が良くなるのか。県の財務部長は、こう説明している。実質公債費比率は、県債管理基金の積立が不足していると算定上のペナルティが加算される仕組みで、兵庫県はいま積立不足率が約50%ある。だから他の基金から県債管理基金へ移せば、不足率が縮まり、ペナルティが減り、比率が改善する、と。

これに対して、委員のひとりがこう指摘した。

「特定目的基金から県債管理基金へ資金を積み替えても、バランスシート全体で見ると資産の移し替えに過ぎず、純債務は改善しない。そのため、実質公債費比率は改善しても、財政の実態が大きく改善したことにはならない」

──第2回持続可能な財政運営検討会 議事要旨(委員名は県が非公表)

さらに、この委員は県に確認している。積み替え元の基金には積立不足が生じるはずだが、それは実質公債費比率には反映されないから、こういうテクニカルなことができるという理解で合っているか、と。

県の答えは、「その通り」だった。

構造が、似ている

ここで、338億円の話に戻ってほしい。

井戸県政がやったのは、売却収入を返済に充てず基金に留保し、実質公債費比率の見た目を保つことだった。

斎藤県政が計画しているのは、別の目的の基金を県債管理基金に移し、実質公債費比率の見た目を改善することである。

純債務は、どちらの場合も変わらない。動くのは指標だけだ。

違いはある。338億円は地方財政法に抵触するおそれがあると総務省に指摘されたもので、積み替えは合法な手法だ。前者は隠されていたが、後者は公開の会議で説明され、議事要旨にも残っている。この差は小さくない。

それでも、指摘した委員の言葉はそのまま残る。比率は改善しても、財政の実態が大きく改善したことにはならない。

11月に出てくる報告書が、井戸県政の判断だけを対象にして、いま進行中の同種の手法に触れないのだとしたら——それは検証と呼べるだろうか。ここは、答えを出さずに置いておきたい。

「そもそも検証にコストをかけるな」という声

専門家からの苦言

この記事はここまで、検証の設計が甘いのではないかという方向で書いてきた。だが、まったく逆の批判が、しかも県が呼んだ専門家から出ている。

7月13日の検討会で、委員のひとりはこう述べた。

「用先債の件については、過去の財政運営の検証は一定程度必要である。しかし、限られた行政資源を過去の検証に大量投入するよりも、今後の行財政改革に重点的に振り向けるべきである。現在は公債費負担適正化計画の策定が最優先課題であり、その後も改革を継続する必要がある。常に優先順位を意識しながら人的資源を配分すべきである」

──第2回持続可能な財政運営検討会 議事要旨(委員名は県が非公表)

もっともな指摘だと思う。県庁の人手は限られている。2030年前後に25%のラインが迫っているときに、2020年度の判断の経緯を掘る作業へ人を割くことが、県民にとって最善かどうかは、たしかに議論の余地がある。

知事はどう答えたか

斎藤知事は、同じ会議の閉会あいさつでこう述べている。

「地方財政法に抵触するおそれが指摘されている中で、場合によっては法に基づく再発防止を求められる可能性もある。また、それが求められなかったとしても、やはり県民の皆さんにプロセスをお示ししていくという意味で、一定の検証は必要であると考えている」

──第2回持続可能な財政運営検討会 議事要旨(兵庫県)

そのうえで、行財政改革を主軸に進めつつ、必要な検証も着実に実施する、両方のバランスを取る、と続けている。

この答え方は、筋が通っている。「検証をやめろ」と「検証だけやれ」の間に立とうとしている。

「前知事の問題と、いまの県政の問題は別だ」という声

Xでは、こういう指摘も出ている。井戸前知事の時代の処理と、斎藤県政のいまの財政運営は、切り離して論じるべきではないか、と。

この指摘には、正しい部分がある。

県の資料が示したとおり、338億円の影響は最大0.8ポイントで、令和13年度には消える。兵庫県の財政を25%のラインに押し上げているのは、338億円ではない。長年の県債残高と、金利の上昇である。

そして、その県債残高を作った期間は井戸県政26年に大きく重なるが、2021年以降の5年間の投資判断は斎藤県政のものだ。どちらか一方に全部を負わせる整理は、どちらの側から見ても正確ではない。この点は7月の記事で数字を使って切り分けた。

だから、こう整理したい。338億円は「財政危機の主因」ではなく、「県の意思決定がどう行われてきたかを示す一件」として検証する価値がある。金額の大きさではなく、なぜ誰も止めなかったのかという点に価値がある。

11月に何が出れば、「検証した」と言えるのか

結論を急がずに、確認すべき点を並べておきたい。

これからの日程(点線は未確定)7月13日県が公表検討会に報告8月適正化計画を提出起債許可団体へ8月中〜9月上旬検証部会の初会合※報道で時期が相違11月ごろ検証結果を取りまとめ2030年度〜3か年平均24.8%へ

次に見るべき5つ

いつ 何を見るか
8月中 検証部会の設置要綱。委員の氏名、選任の方法、会議の公開・非公開、議事録の扱いが書かれる
8月 総務省に提出される公債費負担適正化計画。投資10%抑制がどの分野に落ちるか
初会合 部会が何を調べると宣言するか。2020年度の判断だけか、いまの手法も含むか
随時 井戸前知事本人の反論があるかどうか。現時点で本人のコメントは確認できていない
11月 報告書に誰の名前が書かれているか。判断した人か、機関か、それとも誰も書かれないか

この記事の見方

斎藤知事が公表し、部会を作り、期限を切ったことは評価していい。表に出さない選択肢は普通にあった。

そのうえで、気になっているのは3つだ。

ひとつ。県が選んだ委員が、県の過去を調べる形になっている。それが悪いとは言わない。ただ、要綱が出るまで、誰がどう選ばれたのかは分からない。

ふたつ。前知事を呼ぶ強制力がない。「あり得る」は、応じてもらえた場合の話である。

みっつ。338億円を「主な要因」と説明したことと、県自身の資料が示す0.8ポイントの間に、距離がある。知事はこの指摘を否定せず「真摯に受け止める」と答えている。

検証の値打ちは、金額の大きさでは決まらない。なぜ、県庁の誰も止めなかったのか。指示があったとされる場面で、担当者はどう判断したのか。文書は残っていたのか。残っていなかったなら、なぜ残っていないのか。

そこが11月に書かれていれば、この部会には意味がある。書かれずに「当時の判断は不適切だった」で終わるなら、6年前に誰も止めなかったのと同じことが、また起きる。

次に確認できるのは、検証部会の設置要綱が出る日である。

主要ソース

一次資料(兵庫県が公表した現物)

報道

制度

関連(当サイト既報)

この記事に登場する人物斎藤元彦

編集者K

速報より本質。話題のニュースの裏側を裏取りして届ける、一日の最後に読むニュースサイトです。