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食料品の消費税1%は財源5兆円が要るという──租税特別措置の減収額は、9兆5,000億円ある


2026年8月5日、政府が閣議決定した。

2027年4月1日から2年間、食料品の消費税を8%から1%に下げる。

1989年の消費税導入以来、初めての減税である。

報道はそろって同じ点を指摘した。財源が見えない。必要額は年5兆円、2年で10兆円規模——時事通信は「財源5兆円見通し立たず」、日本経済新聞は「財源は曖昧なまま」と書いた。

その5兆円が、どこから出た数字なのかを確かめた。

閣議決定の本文には、書かれていない。

国会会議録にはあった。財務大臣が金額を答弁している。

片山さつき 財務大臣(2026年6月22日・衆院予算委員会)

「飲食料品の消費税率を一%にした場合(中略)減収額が約四・三兆円になりますから、それを総人口約一・二億人で割りますと、一人、一年当たりの減税額は(中略)約三万六千円

減税だけなら4.3兆円である。5兆円との差の7,000億円は、給付の費用だ。

そして、閣議決定が財源の候補に挙げた「租税特別措置の見直し」の規模を調べると、こうなっている。

租税特別措置による減収額(令和5年度)

9兆5,000億円

ナフサ免税を除いても 6兆3,000億円

年5兆円の1.9倍である。

財源がないのではない。切ると誰かが怒る場所にある、というだけである。

以下、閣議決定の原文と国会答弁で確認していく。

まず、何が決まったのか

閣議決定の正式な名称は「『給付付き税額控除』の制度導入の基本方針」で、食料品の減税はその中の「経過措置(つなぎ)」として位置づけられている。

項目 内容
対象 軽減税率の対象となっている飲食料品(酒類・外食を除く)
税率 8% → 1%
期間 令和9年(2027年)4月1日から2年間
残り1% 1%相当分の範囲内で、中低所得の現役勤労者に所得連動の給付。合わせて実質ゼロ化
その先 令和11年度(2029年度)に「所得に連動したきめ細かな給付」を本格導入

この2年間はつなぎであり、恒久的な減税ではない。高市首相は「私が2年で確実に戻す」と述べている。

「実質ゼロ」の意味

閣議決定にはこう書かれている。

「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針(令和8年8月5日 閣議決定)4.(3)

「① 足下の物価高に鑑み、できる限り早期に対応を講ずる観点から、令和9年4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品に係る消費税率を1%とする。

「② あわせて(中略)飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲内で、現時点で公的機関が保有する所得情報を活用した『所得に連動したきめ細かな給付』を令和9年度に導入する。」

「これらの取組により、全体として飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化を実現する。

1%を残したまま、その1%分を給付で返す。だから実質ゼロ、という組み立てである。

0%にしない理由は技術と時間だ。0%だとレジのシステム上、税率区分そのものを消す作業になる。1%なら既存の8%の枠を書き換えるだけで済む。この点は当サイトで別に検証した。

閣議決定に「5兆円」は書かれていない

閣議決定の「5.財源」は3項からなる。3つとも引く。

同 5.財源(1)——本命の給付制度について

「『所得に連動したきめ細かな給付』は恒久施策であり、その本格導入に当たっては、一時財源ではなく恒久財源を確保する必要がある。財源確保の具体策については、市場の信認を損なうことのないよう、特例公債に頼らず、例えば、補助金・租税特別措置の見直しなど、歳出・歳入のあらゆる見直しを通じて確保することとし(中略)早期に結論を得る。」

同 5.財源(2)——2年間の減税について

「制度の経過措置(つなぎ)の財源については、市場の信認を損なうことのないよう、特例公債に頼らず、例えば、補助金・租税特別措置の見直しや追加的な税外収入の確保など、歳出・歳入全般のあらゆる見直しを通じて確保することとし、令和9年度予算編成プロセスにおいて予算編成改革を具体化する中で結論を得る。

同 5.財源(3)

「上記の検討を行い、結論を得るに当たっては、国と地方の役割分担を踏まえつつ、地方の財政運営に支障が生じないよう、適切に対応する。」

これで財源の章は全文である。

ここで注意したい。閣議決定は、恒久施策(給付)と2年間の減税を書き分けている。(1)は「恒久財源を確保する必要がある」と書き、(2)にはその文言がない。2年間のつなぎには、一時的な財源でもよいという整理である。

書かれているのは3つである。

項目 閣議決定の記載
やらないこと 特例公債(赤字国債)には頼らない
候補 補助金の見直し/租税特別措置の見直し/追加的な税外収入
いつ決めるか 令和9年度の予算編成プロセスの中で

金額は、一円も書かれていない。

「5兆円」も「10兆円」も、閣議決定の文書には出てこない。

では、5兆円はどこから来たのか

閣議決定に書いていない数字を、政府はどこかで示しているはずである。

国会会議録を検索した。あった。

片山さつき 財務大臣(2026年6月22日・衆議院予算委員会)

「軽減税率の対象、飲食料品の消費税率を一%にした場合の一人当たりの減税額については、もちろん個々の消費の状況によって大きく異なるので、一概に正確な答えが出せるわけではないんですが、その上で、減収額が約四・三兆円になりますから、それを総人口約一・二億人で割りますと、一人、一年当たりの減税額は、赤ちゃんからお年寄りまでですね、約三万六千円なので、お二人なら七万二千円、四人なら十四万四千円というのが一年間の減税額でございます。」

減税だけなら、4.3兆円である。

5兆円ではない。

4.3兆円の内訳

同じ日、総務大臣も答弁している。地方への影響についてである。

林芳正 総務大臣(2026年6月22日・衆議院予算委員会)

「仮に軽減税率八%を一%とした場合の地方の減収見込額を機械的に計算いたしますと、地方消費税分が一・〇兆円、地方交付税分が〇・七兆円、四捨五入もございまして、合計で一・六兆円程度となります。」

「地方消費税を含む消費税につきましては、税収の約四割、これが自治体の貴重な税財源となっております」

2つの答弁を合わせると、こうなる。

区分 金額 出典
減税による減収(国・地方合計) 約4.3兆円 片山財務大臣の答弁
 うち地方消費税分 1.0兆円 林総務大臣の答弁
 うち地方交付税分 0.7兆円 同上
 国に残る分(差引) 約2.7兆円 4.3−1.6
1%分の給付(実質ゼロ化のため) 約6,000億円 報道
合計 約4.9兆円 これが「年5兆円」の中身

整理する。

「減税に5兆円かかる」は正確ではない。

減税は4.3兆円。残りの7,000億円は、1%を残したぶんを給付で返すための費用である。

そして、その4.3兆円のうち1.6兆円は地方の減収である。国の一般会計から出ていくのは約2.7兆円になる。

この点は、財源論を読むときに効いてくる。国の財源だけを見ても、話は完結しない。

実際の税収を見る

財源の話をするなら、いま国にいくら入っているかも見ておく。財務省が公表している一般会計税収の決算額である。

一般会計税収の決算額(財務省)6年連続で過去最高を更新。令和7年度は前年度より8兆9,905億円増えた60兆円70兆円80兆円60.8兆R2202067.0兆R3202171.1兆R4202272.1兆R5202375.2兆R6202484.2兆R72025令和6年度→令和7年度で +8兆9,905億円。「2年で10兆円」に、1年で近づく規模

年度 決算額 前年度からの増
令和5年度(2023) 72兆0,761億円
令和6年度(2024) 75兆2,321億円 +3兆1,559億円
令和7年度(2025) 84兆2,226億円 +8兆9,905億円

6年連続で過去最高を更新している。令和5年度から令和7年度までの2年間で、税収は12兆1,465億円増えた。

見積もりより、毎年多く入っている

もう一つ、決算の数字で確認できることがある。

予算で見積もった額と、実際に入った額の差である。

財務省は毎年、この差を公表している。補正予算を組んだ後の見積もり(補正後予算額)と、決算額の比較だ。

年度 補正後予算額 決算額 差(上振れ)
令和6年度 73兆4,350億円 75兆2,321億円 +1兆7,971億円
令和7年度 80兆6,980億円 84兆2,226億円 +3兆5,246億円
2年の合計 +5兆3,217億円

この2年間、見積もりより5兆3,217億円多く入った。

「2年で10兆円」の、半分を超える。

内訳を見ると、どこで外しているか

令和7年度の上振れ3兆5,246億円を、税目別に分解する。

税目 決算額 見積もりとの差
法人税 21兆7,450億円 +2兆1,490億円
所得税(源泉+申告) 25兆2,565億円 +5,975億円
消費税 26兆0,278億円 +4,848億円
相続税 3兆8,593億円 +1,663億円

法人税が2兆円以上、見積もりを上回っている。

ここで公平に書いておく。これは意図的に低く見積もっているという意味ではない。企業業績も物価も為替も、年度が始まる前には確定しない。外れて当然である。

問題はそこではない。

外れる方向が、何年も同じだということである。

財源の候補を、規模で並べる

閣議決定が挙げた候補は「補助金・租税特別措置の見直し」と「追加的な税外収入の確保」である。

報道では、外国為替資金特別会計(外為特会)の剰余金、日銀納付金、国有財産の売却が挙がっている。

それぞれ、いくらの規模なのか。

候補 規模 注意点
租税特別措置の見直し 減収額 9.5兆円 令和5年度。ナフサ免税を除くと6.3兆円。規模では最大
外為特会の剰余金 令和7年度 5兆565億円 うち3兆1,300億円はすでに一般会計へ繰り入れ済み
税収の上振れ この2年で5兆3,217億円 そのまま使えるわけではない(後述)
補助金の見直し 未確定 1件ずつ削るので時間がかかる
国有財産の売却 小規模 一度売れば終わり

いちばん大きいのは、租税特別措置である

租税特別措置とは、特定の業界や行為を優遇するために、本則の税率から差し引かれている仕組みの総称である。研究開発税制、中小企業向けの軽減、住宅ローン控除、ナフサ免税などが含まれる。

参議院の調査室がまとめた資料によれば、令和5年度の減収額は9兆5,000億円規模。ナフサの免税分を除いても6兆3,000億円ある。内訳は法人税関係2兆9,000億円、所得税関係2兆2,000億円。

「年5兆円の財源がない」という説明は、この数字と並べると成り立ちにくい。

では、なぜ「ない」ことになるのか

租特の一つひとつに、受益者がいるからである。

研究開発税制を削れば製造業が反対する。中小企業向けを削れば中小企業団体が、住宅ローン控除を削れば住宅業界が反対する。

つまり、財源がないのではない。切ると誰かが怒る場所にある、ということである。

税収の上振れは、そのままでは使えない

ここは、この記事でいちばん誤解されやすいところなので、丁寧に書く。

「税収が上振れしたのだから、それを回せばいい」——そう言いたくなる。だが、そのままでは使えない。

理由 中身
財政法6条 決算剰余金の2分の1以上は、公債の償還に充てなければならない
地方交付税 所得税・法人税・消費税等の増収分の一定割合は、自動的に地方へ回る
分母が違う 「5兆円」は国・地方の合計。上振れは国の一般会計だけの数字
タイミング 上振れが判明するのは決算後。減税は年度の初めから歳入が減る

とくに1つ目が重い。財政法6条は、決算で余った金の半分以上を借金の返済に回すことを義務づけている。「余ったから減税に使う」は、法律が想定していない。

それでも、上振れが意味すること

ただし、この数字が無意味になるわけでもない。示しているのは、税収の見積もりが実態より低く出続けているという事実である。

年度 補正後予算との差
令和5年度 +2兆4,651億円
令和6年度 +1兆7,971億円
令和7年度 +3兆5,246億円

3年続けて、同じ方向に外れている。

企業業績も物価も為替も、年度が始まる前には確定しない。外れて当然である。ただ、外れる方向が毎年同じなら、見積もりの前提を点検する理由にはなる。

反対意見も、閣議決定に書いてある

この決定は全会一致ではない。閣議決定の別紙「中間とりまとめ」には、反対意見がそのまま載っている。

まず、指摘された課題の一覧である。

課題 中身
農業従事者 仕入税額控除の還付が受けられない層への影響
外食産業 外食は対象外。持ち帰り(1%)との差が9ポイントに開く
公平性 高所得者ほど恩恵が大きい
価格転嫁 減税分ほど税込価格が下がらない可能性
2年後 戻すときに負担増になる人が多い
事務負担 事業者のシステム改修
地方財源 地方を含めた財源の確保(消費税には地方消費税が含まれる)

7つとも、実在する課題である。

とくに価格転嫁は重い。下げても店頭価格が下がらなければ、家計には届かない。差額は流通のどこかに残る。

反対論の主軸は「減税ではなく給付で」だった

中間とりまとめを読むと、実務者会議で出た立場は大きく3つに分かれている。

立場 主張
①減税ではなく給付 時限的な減税ではなく、速やかに定額給付や所得連動型給付を行うべき。減税は高所得者ほど恩恵が大きく、終了時の反動も大きい
②恒久的に減税 恒久財源を確保した上で、飲食料品の消費税を恒久的に減税すべき。つなぎとして扱うべきではない
③つなぎとして減税 本格導入までのつなぎとして、できるだけ早期に1%へ下げるべき

採用されたのは③である。つまり減税そのものに反対する立場(①)と、2年で終わらせることに反対する立場(②)の両方があった。

①の側からは、こういう意見が出ている。

中間とりまとめ(令和8年7月29日 社会保障国民会議)より

「給付との組み合わせで飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化が果たされるというのであれば、飲食料品に係る消費税率1%にこだわる必要はない

「飲食料品に係る消費税率の時限的な引下げについては、減税を終了した際に負担増となる者が多く、1%への引下げは反動が大きい。財源も不明確であり、仮に実施するとしても、2年間の引下げのためにシステム改修等を行う負担や、第一次産業・外食産業における課題への具体的な対応が明確でない」

②の側からは、こうである。

「生活必需品である飲食料品に係る消費税率引下げは福祉・社会保障政策として位置付けるべきであり、本制度の本格導入までのつなぎとしてではなく、恒久財源を確保した上で恒久的な減税として実施すべきである」

③の側は、こう述べている。

消費税の減税は、消費すればするほど恩恵が受けられ、消費促進効果も見込まれるので、給付よりも優れている。減税終了時に負担増になるといっても、時限的にでも減税する方が良い」

「基本的に2年間の飲食料品に係る消費税率0%を目指すべきだが、技術的な制約から1%への引下げとすることは否定しない

そして、とりまとめはこう締めている。

「制度の経過措置(つなぎ)については、実務者会議において(中略)議論が積み重ねられたが、具体案について意見の一致には至らなかった。

意見はまとまらなかった。それでも決めた。日本経済新聞はこれを「自民党『首相判断』で押し切る」と書いている。

家計には、いくら戻るのか

4.3兆円を総人口で割った額が、1人年3万6,000円である。大臣は「お二人なら七万二千円、四人なら十四万四千円」と述べた。赤ちゃんから高齢者まで、頭数で割った単純平均だ。

税込価格は、6.5%下がる計算になる

税抜価格 現在(8%) 2027年4月(1%)
100円 108円 101円 ▲7円
1,000円 1,080円 1,010円 ▲70円
5,000円 5,400円 5,050円 ▲350円

税込価格の下落率は6.48%である。

これが、そのまま店頭に反映されるかどうか。中間とりまとめが挙げた課題のひとつが、まさにこれだった。「減税分ほど税込価格が下がらない可能性」である。

「消費税は社会保障の財源だ」という反論

財源論には、もう一つの層がある。

消費税は、法律で使い道が決められている税である。

消費税法 第1条第2項

消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする

年金、医療、介護、少子化対策。この4つに充てると法律に書いてある。

だから「食料品の消費税を下げる」は、単なる減税ではない。社会保障の財源を2年間削るという意味になる。日本経済新聞が「社保財源の『聖域』崩す」と書いたのは、この構造を指している。

反対側の論はこうである。

消費税を下げれば、年金・医療・介護の財源が減る。高齢化で給付は増え続けている。2年でも穴を開ければ、その分は借金か、他の給付の削減で埋めるしかない。一度「社会保障の財源に手をつけてよい」という前例ができれば、次はもっと簡単になる。

賛成側の論はこうである。

社会保障の財源が消費税だけである必然性はない。所得税も法人税も社会保険料もある。そして税収全体は6年連続で過去最高を更新している。2年間の時限措置に、恒久財源を求めるのは筋が違う。

どちらの主張にも、数字の裏付けがある部分と、ない部分がある。

だから、言葉で争っても決まらない。

なぜ「つなぎ」なのか

この減税が2年で終わる理由は、閣議決定を読むとはっきりする。

本命は減税ではない。「所得に連動したきめ細かな給付」である。令和11年度(2029年度)に本格導入する。狙いは2つと書かれている。

「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針 1.(1)

「① その負担軽減を通じ、所得に応じて、これまでよりも一層手取りが増えるようにするとともに、

② いわゆる『年収の壁』などによる『働き控え』を緩和することを通じた就労促進を図る」

この制度を作るには時間がかかる。誰にいくら払うかを決めるには、所得の情報が要るからだ。閣議決定はこう書いている。

必要な準備 現状
高所得の配偶者を把握する仕組み 未整備
16〜18歳の被扶養者の情報 未整備
公金受取口座の登録 登録率は5割程度にとどまる

この3つが整うのが令和11年度、という見立てである。だから2年間、減税でつなぐ。減税は本命ではなく、間に合わせなのである。

危ういのは、終わる日が先に決まっていること

2029年3月末に8%へ戻す。そのとき税込価格は6.93%上がる。下げるときの6.48%より、戻すときのほうが率は大きい。

中間とりまとめが「減税を終了した際に負担増となる者が多く、1%への引下げは反動が大きい」と書いたのは、この点である。そして、その日に総理が誰かは分からない。

高市首相は「私が2年で確実に戻す」と述べた。戻す責任を自分で引き受ける、という言い方である。

期限と担当を明示した点を評価する見方がある一方で、時限措置そのものは復興特別税など前例があり、珍しくないという指摘もある。「確実に戻す」と言えるのは、そのとき自分が総理でいる前提の話でもある。

すでに、切り始めている

「租税特別措置を見直す」は、これまで何度も言われてきた。そのたびに、ほとんど動かなかった。

今回は違う。2025年11月25日、内閣官房に専門の部署が新設された。

内閣官房 行政改革・効率化推進事務局 租税特別措置・補助金見直し担当室

自由民主党と日本維新の会の連立政権合意書に基づき新設。「日本版DOGE」とも呼ばれる。担当大臣も置かれている。

そして、この部署はすでに実績を出している。

令和8年度改正で、何が切られたか

2025年12月26日に公表された資料に、結果が載っている。

区分 廃止 縮減を伴う見直し
国税の租税特別措置 3項目 18項目
地方税の負担軽減措置 4項目 19項目

なかでも大きいのが、賃上げ促進税制の大企業向け措置の廃止である。理由は資料にこう書かれている。

租税特別措置の主な見直し事項(令和7年12月26日)

「足元では賃金上昇率がバブル期以来の水準となる高い伸びを示しており、本税制の要件となる水準を大きく上回る状況にある

大企業向け措置:令和8年度に廃止。中堅企業向け措置:適用期限をもって令和9年度に廃止。

もう効いていないから、やめる。そういう整理である。

資料には増減収の見込みも書かれている。

項目 増減収見込額
賃上げ促進税制の見直し +0.7兆円
研究開発税制(控除率カーブの見直し等) +0.1兆円
研究開発税制(戦略技術領域型の創設等) ▲0.1兆円
差引 +0.7兆円

1年分の改正だけで、7,000億円。減税に必要な4.3兆円の6分の1にあたる。

補助金と基金も動いている

同じ資料に、補助金の見直し実績も載っている。

対象 結果
地域未来交付金(内閣府) 2,000億円 → 1,600億円(▲400億円
地域脱炭素推進交付金(環境省) 新規採択を全停止し▲115億円
基金の不要残高 3,631億円を国庫返納(ワクチン生産体制等緊急整備基金2,248億円ほか)

そして、対象の全体像はこうである。

令和7年度当初予算で1億円以上、裁量的経費に分類される補助金・交付金(一般会計)は

444件、総額8.0兆円

租特9.5兆円と、補助金8.0兆円。合わせて17.5兆円が、見直しの俎上にある。

令和9年度が、本番になる

片山財務大臣は、2025年12月2日の会議でこう述べている。

片山さつき大臣(租税特別措置・補助金見直しに関する関係閣僚等及び副大臣会議・2025年12月2日)

次の令和9年度予算編成・税制改正では、行政事業レビューなど既存の枠組みがいっぱいございますので、これを活用しつつ、要求段階から査定段階まで一貫した対応を行うことでしっかりと点検・見直しを進めてまいります」

令和8年度税制改正大綱(自民党・日本維新の会)にも、こう書かれている。

「現在ある租税特別措置等については、ゼロベースで見直すことを基本とし、毎年度、期限が到来する措置を中心に、実態を検証した上で、政策効果が低いものは廃止すべきである。

「一層の透明化を図る観点から、適用企業名の公表について、早期に具体化を図る必要がある(中略)令和9年度税制改正において結論を得る。」

注目すべきは後半である。

どの企業がどの租特で、いくら減税を受けているか。これを公表する方向で、令和9年度に結論を出すと書いてある。

いま公表されているのは、措置ごとの適用者数と適用総額、上位10位までの高額適用額だけで、企業名は出ていない。

名前が出れば、切りやすくなる。切られる側には、これがいちばん困る。

閣議決定が「令和9年度予算編成プロセスにおいて予算編成改革を具体化する中で結論を得る」と書いたのは、この流れを指している。

つまり、財源の答えは令和9年度予算で出る。

減税が始まるのも令和9年4月。同じタイミングである。

2年後に、何がわかるのか

この決定のいちばん重要な点は、2年間の期限が切ってあることである。恒久的な減税なら失敗しても戻せないが、2年なら実績を見てから次を決められる。

2年あれば、いま争われている論点のほとんどに答えが出る。

2027年4月から2年間で、何が確かめられるのか「財源がない」という説明が正しかったかどうかは、実績で判定できる確かめること正しかった場合そうでなかった場合財源は確保できたか令和9年度予算で結論を得ると明記赤字国債に頼った歳出・税外収入で賄えた店頭価格は下がったか7%分が家計に届いたか価格が下がらなかった7%近く下がったレジ改修は間に合ったか半年かかると説明されていた現場が混乱した問題なく移行した社会保障は削られたか消費税は社会保障の財源とされる給付の削減が起きた水準は維持された2029年3月末2年間の実績が出そろい、次にどうするかの判断材料になる高市首相は「私が2年で確実に戻す」と述べている

いちばん大きい検証は、財源である

閣議決定は「特例公債に頼らず」と明記している。だから判定は簡単だ。

令和9年度と令和10年度の予算で、赤字国債の発行額が増えたかどうかを見ればいい。

増えていなければ、歳出の見直しと税外収入で賄えたということ。増えていれば、約束が守られなかったということになる。予算書を見れば分かる。解釈の余地がない。

価格が下がるかどうかも、レシートでわかる

もう一つ、誰でも確認できることがある。2027年3月と4月のレシートを比べればいい。

税率が8%から1%になれば、税込価格は理論上6.5%下がる。そこまで下がらなければ、差額はどこかで止まっている。

これは2019年の軽減税率導入時にも起きた論点である。

この記事の見方

財源論には2つの立場がある。

立場 主張
出せない側 5兆円の恒久財源はない。社会保障が崩れる
出せる側 租税特別措置の減収額は9.5兆円ある。切る場所はある

この記事が確認したのは、後者の数字が事実として存在することである。

租税特別措置の減収額は令和5年度で9兆5,000億円。補助金・交付金は444件8.0兆円。閣議決定自身が、この2つを財源候補として挙げている。

そして令和8年度改正で、租特を3項目廃止・18項目縮減し、差引7,000億円の増収を出した。やれば出る、という実績がすでにある。

それでも慎重に見るべき点

一方で、前者の言い分にも根拠はある。

租特は、切れば影響が出る。研究開発税制を削れば企業の投資が減り、中小企業向けを削れば経営が苦しくなる。9.5兆円は「余っている金」ではない。

そして税収の上振れも、そのまま使えるわけではない。財政法6条があり、地方交付税に回る分がある。

また、2年で戻すという前提にも不確実性がある。2029年3月に本当に8%へ戻せるのか。戻すときには「増税」として反対が出る。

中間とりまとめが指摘した「減税を終了した際に負担増となる者が多く、1%への引下げは反動が大きい」というのは、この点である。

そして消費税は、法律で社会保障の財源に充てると定められている。ここを2年間だけ外すことの影響は、実際にやってみないと分からない。

まとめ

確認できたことを並べる。

論点 確認できたこと
「財源5兆円」 閣議決定に金額の記載はない。報道と民間試算の数字
5兆円の中身 減税は4.3兆円(財務大臣答弁)。残り約7,000億円は給付
租税特別措置 減収額9兆5,000億円(ナフサ除き6.3兆円)。閣議決定が挙げた候補で最大
実際の税収 令和7年度84兆2,226億円。6年連続で過去最高
見積もりとの差 3年連続で上振れ。ただし財政法6条で半分以上は借金返済へ
外為特会 剰余金5兆565億円だが、3兆1,300億円は繰り入れ済み
閣議決定の約束 特例公債に頼らないと明記

「財源がない」という言い方は、正確ではない。

租特9.5兆円と補助金8.0兆円。合わせて17.5兆円が俎上にある。問題は金額ではなく、どれを切るかを決められるかどうかである。

そして令和8年度改正では、すでに7,000億円ぶんを切っている。賃上げ促進税制の大企業向け廃止である。

本番は令和9年度だ。減税が始まるのと同じ年である。

赤字国債が増えたか。租特はいくつ削られたか。店頭価格は下がったか。すべて予算書とレシートで確認できる。

2年後、どの租税特別措置が削られていたら、この決定は本気だったと言えるでしょうか。

参考資料

一次資料(政府)

報道

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この記事に登場する人物片山さつき

編集者K

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