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斎藤元彦が海外事務所を全廃した──だが本丸は、4年間「方向性ゼロ」のまま残る32団体だ


兵庫県が、海外にある3つの事務所をすべて廃止する。

シアトル、パリ、香港。2028年度までに順次たたみ、県の海外拠点はゼロになる。

年間1億3000万円。1か所あたり4300万円で、常駐しているのは県職員1人だった。

この件は「無駄が削られた」という文脈で広がった。だが、これを単発の出来事として見ると、話の大きさを取り違える。

斎藤県政は、2021年の就任直後から見直しリストを作っている。43項目・59事業、2028年度までの累計削減効果574億3900万円。海外事務所は、そのリストの24番目に載っていた項目である。

つまり今回の全廃は、4年以上続いてきた作業の一部だ。

そして本題はここからになる。

県と密接に関係する外郭団体32団体について、知事は2022年度中に廃止や統合を含む方針を示すとしていた。

2024年9月の時点で、方向性が示された団体はゼロだった。

海外事務所は切れた。本丸は、まだ動いていない。

まず、何が決まったのか

事務所 所在地 役割
ワシントン州事務所 米・シアトル 姉妹州交流、県産品のPR、中小企業や大学の交流支援
パリ事務所 仏・パリ2区 欧州での経済・文化交流の窓口
香港経済交流事務所 香港・リッポーセンター アジアでの経済・観光の窓口

元は5か所あった。2022年にブラジル、2023年にオーストラリアをすでに閉鎖している。シアトルの事務所は1990年の設置で、36年続いた。

斎藤元彦知事のX投稿(2026年5月9日)

「兵庫県にとって国際交流は重要」であり、海外事務所は「姉妹都市交流やビジネス支援に一定の意義はあった」

「しかし企業のグローバル展開が民間主導で進む今、自治体が巨額のコストをかけて直営で事務所を構える意義は薄れています

会見では「県民の皆さんの理解は得られないのではないか」とも述べている。

年4300万円で、何をしていたのか

県は毎月「海外事務所 主な活動報告」を公表している。令和8年4月の分を、そのまま見る。

ワシントン州事務所/シアトル桜祭・日本文化祭(4月11〜12日)

・初開催から50周年。来場者約2万7000人、試飲コーナー来場者は約500名

・試飲コーナーで提供する6銘柄のうち、兵庫の酒から2銘柄が採用された

・事務所はスタッフを派遣し、主催者とともにコーナーを運営

パリ事務所/山田錦のプロモーション支援(4月27日)

・フランス最大の日本酒コンクールKura Masterで、講座登壇と試飲会のPRブース出展を支援

・参加者はソムリエやレストランオーナーら約150人

・県農産園芸課によるプロモーション事業の一環として、事務所が支援

香港経済交流事務所/ベトナムの工業団地を視察(4月9日)

・ニンビン省のキンバンⅠ工業団地(230ha、85%が販売済み)とチャウ・ザン工業団地(250ha、造成中)

・キンバンⅠは、兵庫県企業への優遇措置についてひょうご産業活性化センターと協定を締結済み

1か月分の「主な活動」が、3か所あわせてこの3件である。そして香港経済交流事務所の主な活動が、ベトナムの視察になっている。

書かれていないこと

読んで分かるのは、誰と会い、どのイベントに出たかだ。書かれていないのは、その結果どうなったかである。

桜祭で2銘柄が採用されて、県内の酒蔵にいくら注文が入ったのか。150人のうち何人が仕入れたのか。工業団地に兵庫の企業は何社出たのか。

当サイトが調べた範囲では、これらを年ごとに示した資料は見つからなかった。

「わからない」は、有益ではない

成果が測られていない。この一点をどう扱うかで、話が変わる。

「効果があったか判定できない」と書けば中立に見える。だが公金の場合、それは中立ではない。

使っているのは県民の税金で、返済に困っている借金の上に乗っている。「必要だ」と言う側が、数字で示す義務がある。

示せないものを「判定できない」として据え置けば、どうなるか。測らないほうが得になる。

成果を出せば比べられ、切られるかもしれない。測らなければ「効果は不明」として生き延びる。この構造を残したまま個別の事業を議論しても、終わらない。

36年間、成果を数字で出さなかった。出せなかったのか、出す気がなかったのかは分からない。どちらでも結論は同じで、続ける理由にならない。

市場データも、事務所の側に立たない

日本酒は兵庫県の基幹産品である。清酒の生産量は全国1位で全国のおよそ3割、酒米・山田錦も全国1位。灘五郷を抱える県にとって、日本酒の輸出は産業政策そのものだ。

その2025年の輸出実績を並べる。

市場 県の事務所 2025年
米国 あり 110億円で前年比3.5%減。中国に首位を明け渡す
香港 あり 48.2億円で前年比5.7%減
中国 なし 133億円で13.9%増。輸出額1位
韓国・カナダ・仏 なし/パリのみ いずれも過去最高を更新

日本酒の輸出は全体で459億円、前年比6%増。輸出先も過去最多の81か国・地域に広がった。市場そのものが世界中で伸びている。

そのなかで、事務所を置いていた2つの市場だけが減っている。

これは「事務所に効果がなかった」ことの証明ではない。統計として弱い。だが、「効果があった」と主張する側の材料にもならない。

これは1件目ではない。5年目の作業である

ここからが本題だ。

海外事務所の全廃を「斎藤知事が急に決めた改革」と受け取ると、話を見誤る。この項目は、2021年12月の時点でリストに載っていた。

就任からわずか半年後、県は「県政改革方針」の一次案を発表している。そこには見直す事務事業が43項目・59事業、具体名で並んでいた。

2021年12月・県政改革方針案(一次案)

・見直す事務事業:43項目・59事業

・2028年度までの累計削減効果:574億3900万円(うち一般財源166億7100万円)

そのリストの24番目が「海外事務所運営費」だった。この時点で挙がっていたのはブラジルと西豪州の2か所。今回の3か所全廃は、その続きである。

何を切ってきたか

リストの主なものを挙げる。金額は2028年度までの累計効果額である。

事業 累計効果額 扱い
兵庫県産木材利用木造住宅特別融資 約262億円 新規貸付を終了
ひょうご地域創生交付金 約87億円 廃止
中小企業設備貸与事業 約53億円 廃止
県営住宅事業特別会計への繰出 約43億円 剰余金を一般会計へ
地域再生大作戦 約23億円 県のモデル事業として廃止
新事業創出支援事業貸付 約15億円 廃止
チャレンジ起業支援貸付 約15億円 廃止
県民交流バスの実施 約9.6億円 廃止
出会いサポートセンター事業 約7.7億円 地域センターを廃止
海外事務所運営費 約3.2億円 ブラジル・西豪州を廃止
ふれあいの祭典 約1.4億円 廃止
私費外国人留学生奨学金支給事業 約1.3億円 廃止
予算決算の乖離により廃止するもの 約23億円 17事業を廃止

ほかに、神戸マラソン開催費を主催者から協賛者へ移行、市街地再開発事業のうち神戸市内の新規着手分は県補助を廃止、音楽療法定着促進事業の県補助を廃止、といった項目が並ぶ。

本庁舎の建て替えも、この時にいったん凍結された。のちに「建設費の高騰で1000億円以上かかり、県民の理解は得られない」として白紙撤回している。

つまり、廃止は積み上がってきた

知事公用車のセンチュリーを解約してワンボックス車に変えた件も、この流れにある。7年間で約830万円の削減。金額としては小さいが、姿勢としては分かりやすい。

海外事務所の全廃は、こうした5年分の作業の延長線上にある。思いつきではないし、単発でもない。

そして、この延長線の先に何があるかが問題になる。

本丸は、4年間動いていない

兵庫県には、県と密接に関係する外郭団体が32ある。

県の事業を受託し、県立施設の指定管理を担い、県職員OBが再就職する先でもある。いわゆる「県の周辺」である。

斎藤知事は、この32団体について2022年度中に廃止や統合を含めた方針を示すとしていた。

結果はどうだったか。

切れたものと、切れていないもの切れたもの・59事業の見直し(574億円)・海外事務所5か所すべて・本庁舎建て替え(1000億円超)・知事公用車センチュリー・65歳以上の天下りOB約60人切れていないもの外郭団体 32団体2022年度中に方針を示すとしたが方向性が示された団体はゼロ※2024年9月時点・神戸新聞の検証による

2024年9月、神戸新聞が知事就任3年の実績を検証した記事で、こう報じている。

神戸新聞(2024年9月26日)

「県と密接に関係する32団体について、斎藤知事は22年度中に廃止や統合を含め方針を示すとしたが、まだ方向性が示された団体はゼロだ

期限から2年近く過ぎて、ゼロである。

止まっている理由

同じ記事は、議論が停滞している状況も伝えている。

外郭団体が指定管理を担っていた県立施設への民間参入は一部始まった。だが存廃の議論は、県議会の特別委員会で「単に団体数を減らすことを目的とすべきではない」と注文が付き、進んでいない。

この注文自体は、言葉としては正しい。数を減らすことが目的ではない。

だが、これは反対の常套句でもある。「目的化するな」と言えば、いつまでも先延ばしできる。

海外事務所には、この論法が効かなかった。県外にあり、県民が日常で接する場面がなく、擁護する声も小さかったからだ。

32団体は違う。県内にあり、雇用があり、議員とのつながりがあり、OBがいる。

天下り60人削減の実像

外郭団体をめぐって、斎藤知事が実績として挙げているものがある。

県の内規では65歳での退職を定めているが、就任前は慣例的に延長されていた。2022年度に運用を厳格化し、在籍するOBを約60人削減した。

これは動いた例である。

ただし、同じ記事にはこういう証言も載っている。ある外郭団体の職員は「前知事派の排除が狙いだった」と語り、県庁内の亀裂に拍車がかかったと明かしている。

この証言をどう読むかは、立場で割れるだろう。

ひとつ言えるのは、人を減らすことと、団体そのものを見直すことは別だということである。60人が減っても、32団体は32団体のまま残っている。

なぜ、いま先に進むしかないのか

5年で574億円分のリストを処理してきた。それでも、財政は追いついていない。

自治体の借金の重さは「実質公債費比率」で測る。総務省はこの数字に3つの線を引いている。

実質公債費比率──兵庫県はいまどこにいるのか〜18% 通常18%〜 起債許可団体25%〜 早期健全化35%〜 再生19%(2025年度決算・見込み)25%(2030年度・長期金利3%が続いた場合)都道府県で前例なし※18%以上で地方債の発行に総務大臣の許可が必要。25%以上で財政健全化計画の策定義務。基準は総務省

水準 呼び名 何が起きるか
18%以上 起債許可団体 地方債の発行に総務大臣の許可が要る
25%以上 早期健全化団体 財政健全化計画の策定が義務。都道府県では前例がない
35%以上 財政再生団体 国の管理下に入る。夕張市がこれにあたる

兵庫県の2025年度決算は19%になる見込みで、今年8月に起債許可団体になる。

借金の出自は、震災である

阪神・淡路大震災の復旧と復興のために、県は約1兆3000億円の県債を発行した。これは無駄遣いではない。当時、他にやりようがなかった。

問題は、返し終わる前に金利が上がったことだ。元金は減っていても、借り換えのたびに利払いが増える。

そして7月、計算が間違っていた

2026年7月13日、兵庫県は実質公債費比率の算定に誤りが見つかったことを公表した。訂正の結果、指標はさらに悪化した。

7月13日に公表された見通し

・長期金利3%の水準が続いた場合、2030年度に実質公債費比率が25%に達する

・その場合、都道府県で前例のない「早期健全化団体」に転落する

県は自分の借金の重さを、実際より軽く見積もっていた。

そして県が国に出す公債費負担適正化計画の素案では、2027年度から公共投資を10%削減する方針が示されている。当面の目標は「早期健全化団体を回避すること」である。

有識者の検討会には、こういう試算もある。2027年度から公共投資を毎年2割減らし続けても、比率が17.6%まで下がるのは2053年。

道路も橋も学校も更新のペースを落とし、それを27年続けて、ようやく普通の県に戻る。

つまり、順番の問題になる

公共投資の削減は、県民の生活に直接ぶつかる。耐震化や治水の更新を削れば、影響が出るのは10年後、20年後だ。

震災の借金を返すために、次の災害への備えを薄くする。兵庫県はいま、その位置にいる。

だとすれば、有益だと示せないものを先に切るのは当然である。

備えを削る前に、32団体を見る。それが順番だ。

次に、何が対象になるのか

県が公表している方針から、これから議論の的になるものを整理する。

対象 論点
外郭団体32団体 最大の的。廃止・統合の方針が4年間示されていない
県立施設の指定管理 外郭団体が担ってきた枠。民間参入は一部で始まったばかり
公共投資 2027年度から10%削減。県民の生活に直接ぶつかる
県立大の授業料無償化 知事の看板政策。最終的に年23億円まで膨らむ試算
補助金・交付金 2021年のリストで多くが廃止済み。残りをどう扱うか

知事の看板政策も、例外にはならない

4行目に注目してほしい。県立大の授業料無償化は、斎藤知事自身の看板政策である。

2024年度の事業費は5億2000万円。県は最終的に年間23億円まで膨らむと試算している。

一方で、2023年春に県内の高校を卒業した人のうち県立大に進学したのは757人、県内高卒者の1.8%にとどまる。県議会からは「受益者が限定的で公平ではない」という指摘が出ている。

これを残したまま32団体に切り込めば、「自分の政策だけ守った」と言われる。

有益でないものを全部切るという基準は、知事の看板にも同じように当たる。そこを避ければ、基準そのものが信用を失う。

なぜ利権のほうが、切りにくいのか

海外事務所と32団体の違いを、はっきりさせておきたい。

項目 海外事務所 外郭団体
場所 県外・海外 県内
雇用 職員1人+現地スタッフ 県内の雇用が多数
県職員OB 派遣職員 再就職先
議会との距離 遠い 近い
切ったときの声 姉妹州への説明 雇用・地域・議会

並べると分かる。海外事務所は、抵抗する人が県内にいなかった。

だから切れた。だから「改革の実績」として数えられた。

32団体は逆である。切ろうとした瞬間に、県内から声が上がる。雇用がある。地域とのつながりがある。議員に相談が行く。

そして「単に団体数を減らすことを目的とすべきではない」という、反論しにくい正論が出てくる。

だから、基準を先に決めるしかない

1件ずつ議論すれば、1件ずつ止まる。4年間ゼロだったのが、その証拠である。

必要なのは、切る対象を決めることではなく、切る基準を決めることだ。

ルール 中身
立証責任を逆に 続けたい側が成果を数字で示す。示せなければ終了
全事業に期限 3年で自動終了。延長には数字が要る
指標を先に決める 測る項目を決められない事業は、始めない
順番を公開する 個別に発表すれば個別に揉める。基準を先に出す
例外を作らない 知事の看板政策も同じ基準に置く

海外事務所は「成果が示せない」という理由で切られた。同じ理由を32団体に当てれば、何が起きるか。

それを見るのが、これからの兵庫県である。

36年、誰も閉められなかった

シアトルの事務所ができたのは1990年である。閉じるまでに36年かかった。

この間、兵庫県には貝原俊民知事、井戸敏三知事がいた。井戸知事は2001年から2021年まで5期20年。そして海外事務所は5か所まで増えた。

増やすのは成果になり、減らすのは成果にならない

海外に事務所を置くのは、決めた人の実績になる。テープカットの写真が残る。

閉じるのは、誰の実績にもならない。関係者が減り、姉妹州に説明が必要になり、「国際交流を軽視するのか」と言われる。

だから、いったんできたものは残る。費用は毎年出ていくが、誰も止めない。

外郭団体も同じ構造である。ただし規模と抵抗が桁違いに大きい。

測っていれば、話は違った

ここで一つ、皮肉なことがある。

もし県が36年間きちんと成果を測っていたら、3か所の扱いは分けられたかもしれない。

数字があれば、残すものと切るものを選別できた。数字がないから、まとめて切るしかなかった。

測らないことのツケは、有益なものまで一緒に失う形で返ってくる。

32団体についても、同じことが起きる可能性がある。いま方向性を示さずに引き延ばせば、財政がもっと詰まった日に、中身を見ないまま処理される。

先延ばしは、団体を守る行為に見えて、実は守っていない。

結局、これは何の始まりなのか

整理する。

海外事務所の全廃は、正しい。36年間、有益であることを示せなかった事業に、県民の税金を出し続ける理由はない。「効果は不明」は継続の根拠にならない。

そしてこれは単発ではない。2021年の59事業・574億円のリストから続く、5年目の作業である。本庁舎の建て替えも、知事公用車も、天下りOB60人も、同じ線の上にある。

だが、本丸はまだ動いていない。県と密接に関係する32団体。2022年度中に方針を示すとして、2024年9月時点で方向性はゼロ。県内に雇用があり、議会に近く、OBがいる。

海外事務所が切れたのは、抵抗する人が県内にいなかったからだ。次はそうはいかない。

これから起きること

兵庫県は今年8月に起債許可団体になり、2027年度から公共投資を10%削る。県民の生活に直接ぶつかる削減が始まる。

そのとき、32団体が手つかずのまま残っていたらどうなるか。

「道路は削るのに、県の周辺は守るのか」という話になる。改革そのものが信用を失う。

逆に言えば、いまが分岐点である。海外事務所で止まれば、ただの見せ場だった。そこから32団体に進めば、財政再生の始まりになる。

問いたいこと

あなたの地元の自治体にも、成果を数字で説明できない事業や団体があるはずです。

おそらく、探せば出てきます。そして誰も測っていないから、あることにすら気づかれていない。

兵庫県は、海外にある3つの事務所を切りました。次に県内の32団体を切れるかどうかで、この5年間が改革だったのか、それとも切りやすいものだけを選んでいたのかが決まりますね。

主要ソース

一次情報

県政改革方針と外郭団体

財政

海外事務所の廃止

市場データ

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この記事に登場する人物斎藤元彦

編集者K

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