NHKの2025年度決算が、318億円の赤字だった。赤字は3年連続になる。
同じ時期、NHKと最も長く戦ってきた男は、拘置所にいる。立花孝志氏の勾留は8か月を超えた。
そこで一つ、素朴な疑問が出てくる。NHKの赤字に、立花氏の不払い運動はどれくらい効いたのか。
先に結論を書く。赤字の主因は立花氏ではない。値下げである。しかもその値下げの原資は、NHKが貯めすぎた2000億円の剰余金だった。いまの赤字は、貯めた金を視聴者に返している最中の姿でもある。
ただし「関係ない」でもない。この2年でNHKが何を始めたか、そして誰が請求書を受け取ったのかを見ると、話は少し苦い。
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まず、決算の数字を置く
2026年6月に公表されたNHKの2025年度決算は、次のとおりである。
| 項目 | 2025年度 | 前年度からの変化 |
|---|---|---|
| 事業収支差金 | 318億円の赤字 | 赤字は3年連続。ただし前年度より130億円縮小 |
| 受信料収入 | 5851億円 | 50億円減。7年連続の減少 |
| 事業収入 | 6130億円 | 0.1%増。6年ぶりの増収 |
| 事業支出 | 6449億円 | 1.9%減 |
| 受信契約総数 | 4033万件 | 34万件の減少 |
| 推計世帯支払率 | 76.9% | 0.4ポイント低下 |
読み方を一つ。赤字なのに、赤字は縮んでいる。事業収入は6年ぶりに増え、支出は減った。
共同通信は、赤字縮小の理由をこう書いている。1年以上受信料を払っていない世帯への督促を強化したことが奏功した、と。
この一行が、今回の記事の入り口になる。
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赤字の主因は、値下げと契約減である
まず、立花氏の話をする前に、赤字がどこから来たのかを確認する。
2023年10月の値下げ
NHKは2023年10月、受信料を約1割値下げした。地上契約は月1225円から1100円へ、衛星契約は2170円から1950円へ(口座振替・クレジット継続払いの場合)。
この影響は、そのまま収入に出た。
| 年度 | 受信料収入の動き |
|---|---|
| 2023年度 | 前年度比396億円の減(5.9%減)。34年ぶりの赤字決算 |
| 2024年度 | 前年度比約406億円の減(7%減)。過去最大の減額 |
| 2025年度 | 前年度比50億円の減。減り幅は大きく縮んだ |
並べれば分かる。収入が急に落ちたのは、値下げをした年とその翌年である。金額の桁が違う。
3年分を、同じ表に並べる
収入・支出・契約件数を年度で並べる。これが値下げ後の3年間である。
| 項目 | 2023年度 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|---|
| 事業収支差金 | 136億円の赤字 | 449億円の赤字 | 318億円の赤字 |
| 受信料収入 | (前年度比−396億円) | 5910億円 | 5851億円 |
| 事業収入 | — | 6125億円(6%減) | 6130億円(0.1%増) |
| 事業支出 | — | 6574億円(1%減) | 6449億円(1.9%減) |
| 契約総数 | — | 40万件減 | 4033万件(34万件減) |
| 支払率 | 78.3% | 77.3%(1.0pt低下) | 76.9%(0.4pt低下) |
読み取れることが三つある。
一つめ。支出は3年とも減っている。NHKは削り続けているが、収入の落ち方に追いつかなかった。
二つめ。2025年度は収入が0.1%増に転じた。受信料は減ったのに事業収入が増えたのは、副次収入や資産運用など受信料以外の部分が効いている。
三つめ。契約件数は毎年30万〜40万件のペースで減っている。支払率も2年で1.4ポイント下がった。これは督促では止まらない、母数そのものの縮小である。
なぜ値下げしたのか──2000億円の剰余金
ここが赤字の正体である。NHKは、金が余っていたから値下げした。
NHKの繰越金は2022年度末の見込みで約2000億円。事業収入の3割近くまで積み上がっていた。受信料で集めた金が、使われずに残っていたということだ。
これを受けて、2022年6月に改正放送法が成立する。剰余金を受信料の値下げ原資として積み立てる「還元目的積立金」の制度が作られた。余ったら返せ、という仕組みである。
そして2023年10月の値下げでは、この剰余金から1500億円程度が充てられた。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2021年 | 値下げ策を盛り込んだ放送法改正案を提出。総務省幹部の接待問題などで廃案 |
| 2022年6月 | 改正放送法が成立。還元目的積立金の制度ができる |
| 2022年10月 | NHKが約1割値下げを決定。原資は剰余金から1500億円程度 |
| 2023年10月 | 値下げを実施。同年12月にはBSを2K・4K各1波に削減 |
| 2023年度 | 34年ぶりの赤字。以後3年連続 |
つまり、いまの赤字は事故ではない。貯めた金を取り崩して値下げに回している、その設計どおりの姿である。
ただし、原資は有限である
問題はここから先だ。1500億円は、使えば減る。
赤字を3年続ければ、積立金は目に見えて痩せる。2023年度から2025年度までの赤字を単純に足すだけでも、相当な額が消えている計算になる。
収入が戻らないまま原資が尽きれば、選択肢は二つしかない。支出をもっと削るか、受信料を上げ直すか。
だからNHKは、いま両方をやっている。チャンネルと設備を削り、同時に未収の回収を強めている。督促を11倍にした背景には、この時間切れがある。
値下げの幅は、政治が広げた
もう一点、経緯として記録しておく。
プレジデントの報道によれば、NHKは当初、衛星契約だけの値下げを検討していた。それが直前になって、政府や自民党の意向で地上契約まで対象が広がったとされる。
当時の寺田稔総務相は、値下げについて「これで打ち止めだと考えていない」と、さらなる引き下げに意欲を示していた。
受信料を下げろと言ったのは政治で、下げた結果の赤字を埋めるために督促を増やしているのはNHKである。この順番は、押さえておいていい。
テレビを持たない世帯が増えている
もう一つが契約数だ。受信契約総数は4033万件で、1年に34万件減っている。支払率も76.9%まで下がった。
この動きは、不払い運動というよりテレビそのものを置かない生活が広がったことの反映と見るのが自然だ。スマホとネット配信で足りる世帯が、契約の対象から静かに抜けていく。
ちなみに、2025年10月に始まったネット配信「NHK ONE」の、ネットだけの契約は7000件である。4033万件に対して7000件。ネット必須業務化が収入を埋める規模には、まだまったく届いていない。
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では、立花孝志の影響はどこにあるのか
ここから本題に入る。
立花孝志氏は2013年、「NHK受信料不払い党」を旗揚げした。のちの「NHKから国民を守る党」である。受信料を払わなくてよい、裁判になる確率は極めて低い、裁判費用は党が持つ──そう訴えて票を集めてきた。
NHKは2019年、立花氏本人を受信料の未払いで提訴している。党首個人が被告になるという、異例の対立だった。
未収は、たしかに積み上がっていた
数字で見る。NHKの未収数は2025年度で約174万2000件ある。これは受信契約をしているのに払っていない世帯の数だ。
4033万件の契約のうち、174万件が滞っている計算になる。約23件に1件である。
この未収は6年間、増え続けていた。2025年度に初めて減少に転じたが、それまでは増加が止まらなかった。
不払い運動だけが原因とは言えない。だが、「払わなくていい」という主張が全国に流通した時期と、未収が積み上がった時期は重なっている。
「払うな」より「捨てろ」のほうが、NHKには痛い
ここで、影響の種類を分けて考える必要がある。不払いと解約は、NHKにとって重さがまったく違う。
| 行動 | NHK側から見た意味 |
|---|---|
| 払わない(未収) | 契約は残る。督促や法的手続きで、あとから回収できる。実際に2025年度はそれで未収が減った |
| テレビを捨てる(解約) | 受信設備がなくなれば契約は解除される。回収する債権そのものが消える |
督促を11倍にしても、解約された契約は戻ってこない。契約総数が毎年30万〜40万件のペースで減っているというのは、そういう意味である。
テレビを持たない理由の1位は「受信料」だった
ここで、無視できない調査がある。
民放連研究所が2021年と2022年に実施した調査では、テレビを持たない理由として「NHKの受信料を払わなくてはいけなくなるから」が最も多い回答だったと報じられている。
動画配信で足りるから、部屋が狭いから、といった理由より上に来たということだ。受信料を避けるためにテレビを買わない、という選択が現に存在している。
この動機は、立花氏が長年言ってきた「テレビを捨てろ」と完全に一致する。因果を証明する資料はない。だが、主張と実際の行動が同じ方向を向いていることは確かだ。
ただし、土台にあるのは生活の変化である
公平のために、規模の話もする。
| 指標 | 2019年 | 2025年 |
|---|---|---|
| テレビの世帯保有率 | 95.8% | 90.1% |
| スマートフォンの保有率 | 83.4% | 91.8% |
6年でテレビは5.7ポイント下がり、スマホがテレビを追い抜いた。29歳以下の単身男性は、4割がテレビを持っていない。
NHKの調査でも、テレビをほぼ見ない人は16〜19歳と20代で7割、30代で6割近くに達している。
つまり構図はこうだ。テレビを置かない生活が広がるという大きな流れがあり、その流れの中で「受信料が嫌だから買わない」という動機が最多を占めている。
立花氏がその流れを作ったわけではない。ただ、その動機に名前を与え、堂々と言ってよいものにした人ではある。
ただし、赤字の説明にはならない
ここは正確に書く。未収174万件は、赤字318億円の主因ではない。
受信料収入は5851億円ある。減った分は年50億円で、そのうち不払い運動に帰せる部分がいくらかは、NHKも公表していない。一方、値下げによる減収は初年度だけで396億円だった。桁が一つ違う。
つまりこうなる。NHKの赤字は、自分たちで決めた値下げと、テレビ離れという構造変化で説明がつく。立花氏の運動は、その上に乗った小さな波である。
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そもそも、払わないとどうなるのか
ここで制度の話を挟む。「払わなくていい」が法的にどう扱われているかを確認しないと、この件は読めない。
放送法64条と、2017年の最高裁判決
放送法64条1項は、テレビなど受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければならない、と定めている。
この規定について、最高裁大法廷は2017年12月、合憲だと判断した。受信料制度は放送の全国普及のための仕組みであり、契約の義務づけは憲法に違反しない、という結論である。
同時に、実務上の重要な線も引かれた。契約を拒んでいる人との受信契約は、NHKが裁判を起こし、承諾を命じる判決が確定した時点で成立する。そして受信料は、契約が成立すれば設置の時点まで遡って請求できる。
つまり「契約していないから払わない」は、時間を稼いでいるだけになりうる。裁判で負ければ、設置時からの分がまとめて来る。
支払督促とは何か
NHKがいま増やしているのは、この「支払督促」である。裁判の前段にある簡易な手続きだ。
| 段階 | 起きること |
|---|---|
| ①申立て | NHKが簡易裁判所に支払督促を申し立てる。書類審査で、法廷は開かれない |
| ②送達 | 裁判所から本人に督促が届く。ここで2週間以内に異議を出さないと確定に向かう |
| ③異議あり | 通常の訴訟に移る。争う機会はここで生まれる |
| ④異議なし | 仮執行宣言が付き、給与や預金の差押えが可能になる |
いちばん危ないのは、届いた書類を放置することである。「無視すればいい」という助言に従った人が、いちばん重い結果を受け取る形になっている。
裁判所からの通知が届いたら、内容を読んで期限内に対応する。払う・争う・分割を相談する、どれを選ぶにしても、放置だけは選択肢にならない。
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NHKは、この2年で取り立てを変えた
ところが話はここで終わらない。NHKの側が、明確に手を打った。
2025年10月、受信料特別対策センター
NHKは2025年10月、「受信料特別対策センター」という組織を新設した。社内弁護士と営業スタッフが、全国の放送局と連動して動く体制である。
目的ははっきりしている。長期未払いへの民事手続き、つまり支払督促の拡大だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 2025年度の支払督促 | 約1368件。前年度の約11倍 |
| うちセンター設置後 | 1219件(2025年10月以降) |
| 未収数 | 約174万2000件。6年ぶりに減少 |
| 2026年の方針 | 全国すべての都道府県で2000件以上の民事手続きを実施予定 |
11倍である。そして、この督促強化が赤字を130億円縮めた要因だと報じられている。
請求書を受け取ったのは、誰か
ここで、東京新聞とFRIDAYが伝えている話が重なってくる。
「NHK受信料は払わなくていい」という言葉を信じて支払いをやめた人たちのところに、督促状が届き始めている。延滞利息や裁判費用が上乗せされた形で、である。
そして「裁判費用は党が持つ」という約束は、守られていないと報じられている。
運動を呼びかけた人は拘置所にいて、呼びかけに応じた人が請求書を受け取っている。
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立花孝志という人が、何をやってきたのか
ここで、立花氏の来歴を短く押さえておく。元NHK職員である。
NHKの経理畑にいた人物が、内部の不正経理を告発して退職し、その後「NHK受信料不払い党」を立ち上げた。相手の内側を知っている人間が、外から制度を攻めたという構図である。
掲げた主張は一貫していた。受信料は不公平だ、払わない自由があるべきだ、最終的にはスクランブル化しろ。この単一の争点で議席を取り、国政政党の要件を満たすところまで行った。
ただし、方法は年々変わっていった
初期の主張は「制度を変える」だった。それが次第に「いまから払うのをやめてよい」という個人向けの助言に寄っていく。
その助言には、二つの条件が付いていた。裁判になる確率は極めて低い。そして、裁判になったら費用は党が持つ。
前者は、当時としては当たっていた。実際、NHKの民事手続きは年100件台の規模だった。4000万件の契約に対して100件なら、確率はたしかに低い。
その前提が、2025年に崩れた。1368件。11倍である。そして後者の約束が守られていないと報じられている。
ここが、この記事でいちばん書いておきたい部分だ。「確率が低いから大丈夫」という助言は、相手が本気を出した瞬間に無効になる。助言した側は、その責任を取る立場にない。
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時系列で並べると、順番が見えてくる
この2年の動きを、日付で並べる。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2023年10月 | 受信料を約1割値下げ。この年度の決算は34年ぶりの赤字 |
| 2024年度 | 受信料収入が過去最大の426億円減。赤字は2年連続 |
| 2025年10月 | ネット必須業務「NHK ONE」開始。同じ月に受信料特別対策センターを新設 |
| 2025年11月 | 立花孝志氏が逮捕され、その後起訴される |
| 2025年度 | 支払督促が前年度の約11倍に。未収は6年ぶりに減少 |
| 2026年6月 | 2025年度決算を公表。赤字318億円、前年度より130億円縮小 |
| 2026年7月 | 立花氏の勾留は8か月を超え、初公判はまだ開かれていない |
センターができた翌月に、党首が逮捕されている。因果関係を示す材料はない。時期が重なっているだけである。
ただ、結果として何が起きたかは書ける。NHKが取り立てを11倍に増やした時期に、不払い運動の司令塔は拘置所にいて、外に出られない状態が続いている。
立花氏の勾留については、別稿で詳しく追っている(立花孝志の勾留は8か月を超えた──「判決前の拘束が、刑より長くなる」逆転と、前例なき「死者への名誉毀損」)。本件と今回の受信料の話は、法的にはまったく別の事件である。
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受信料は、何に使われているのか
払う側から見れば、いちばん知りたいのはここだろう。5851億円は、どこへ行くのか。
2025年度の事業支出は6449億円。国内放送費、国際放送費、契約や集金にかかる営業費、給与、設備費などに分かれる。
このうち、批判が集まりやすいのが営業費である。受信料を集めるための費用、つまり訪問員の人件費や委託費、そして今回のような法的手続きの費用がここに入る。
受信料を集めるために受信料を使う。この構造がある限り、支払率が下がるほど、集めるコストの比率は上がっていく。
だから督促の強化は、経営判断として筋が通る
訪問による集金は、この10年で大きく縮小した。人を回して説得するより、長期未払いに絞って法的手続きを取るほうが、1件あたりのコストは低い。
2025年10月に作られた特別対策センターに社内弁護士が入っているのも、そういう設計だと読める。営業から法務へ、取り立ての主戦場が移った。
払っている人の側から見れば、これは公平化でもある。同じ制度の下で、払う人と払わない人が並んでいる状態のほうが不公平だ、という言い分は成り立つ。
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「テレビを捨てろ」は、NHKに効いたのか
立花氏の主張には、時期によって二つの型があった。一つは「払わなくていい」、もう一つは「テレビを捨てろ」である。
後者について、皮肉な指摘が出ている。FRIDAYは、立花氏の「テレビを捨てろ」という呼びかけが、かえって受信契約者の増加に一役買っていたという見方を伝えている。
理屈としてはこうなる。テレビを捨てるという話題が広がるほど、NHKの受信契約という制度そのものが注目される。制度を知った人のうち、律儀な層は契約する。
もっとも、これは検証された数字ではない。当サイトも、契約増との因果を確認したわけではない。そういう見方が報じられている、という段階の話として置いておく。
受信料の議論は、立花氏だけのものではない
付け加えておくと、受信料への異議は立花氏が始めたものではない。
訪問集金への苦情、契約を迫られたという相談、テレビを持たない世帯の扱い。こうした声は、党ができる前から積み上がっていた。
立花氏がやったのは、その不満に旗を立てて票に変えたことである。不満を作ったのはNHKの側で、それを集めたのが立花氏だった、という順序は押さえておきたい。
だからこの人がいなくなっても、受信料への異議は消えない。実際、支払率は76.9%まで下がり続けている。旗を振る人が拘置所にいる状態でも、である。
それでも、運動が残したものはある
公平に書く。立花氏の運動が社会に残したものは、少なくとも二つある。
一つは、受信料制度が議論の対象になったこと。テレビを持っているだけで契約義務が生じるという仕組みに、多くの人が初めて目を向けた。
もう一つは、NHKの営業のやり方が問われたこと。訪問集金や督促の手法は、この10年で確実に変わった。
ただし、そのどちらも「受信料を払わなくてよい」という結論にはつながらなかった。法的には、契約と支払いの義務は残ったままである。
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テレビがなくても、契約の話になる時代に入った
もう一つ、押さえておくべき変化がある。2025年10月、NHKのインターネット配信が「必須業務」になった。
従来、ネット配信は「任意業務」で、テレビ受信料の付帯サービスという位置づけだった。それが法改正で本来業務に格上げされ、「NHK ONE」という形で提供が始まっている。
テレビを持たない人に、何が起きるか
制度としては、テレビを持たない人でもNHKのネット配信を利用する場合には契約が必要になる。「テレビを捨てれば終わり」という説明は、この時点で古くなった。
ただし現実の数字は小さい。ネットだけの契約は7000件である。受信契約総数4033万件に対して、まだ誤差の範囲でしかない。
この数字の意味は二通りに読める。ネット課金は始まったばかりで、これから伸びるという読み方。そして、テレビを持たない層はそもそもNHKを見ておらず、伸びしろは薄いという読み方である。
どちらが正しいかは、来年度以降の数字を見るしかない。ただ、7000件で5851億円の受信料収入を支える構造にはならない、という点だけははっきりしている。
値下げと同時に、NHKは規模も削っている
収入が減るなかで、NHKは事業支出も減らしている。2025年度は1.9%減の6449億円だった。
この数年でNHKは、衛星波の削減や設備の整理を進めてきた。2025年度決算で支出が減った理由の一つも、前年度にラジオ設備の撤去費用を計上した反動だと報じられている。
つまり、規模の縮小は始まっている。問題は、それが受信料の減り方に追いついていないことだ。
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結局、赤字に立花孝志は関係あるのか
整理する。
関係はある。だが、赤字を作った主犯ではない。
| 赤字の要因 | 規模 | 誰の判断か |
|---|---|---|
| 2023年10月の受信料値下げ | 初年度で396億円減 | NHKと政治の判断 |
| テレビ離れによる契約減 | 年34万件減 | 社会の変化 |
| 支払率の低下 | 76.9%(0.4pt低下) | 複合要因 |
| 不払い運動による未収 | 未収は約174万件 | 立花氏の運動を含む |
| 「テレビを持たない」選択 | 保有率が6年で5.7pt低下 | 生活の変化+受信料回避 |
数字の桁を見れば分かる。値下げの396億円と、未収の一部。比べる対象ではない。
ただし、契約減については話が別だ。テレビを持たない理由の最多が「受信料を払わなくてはいけなくなるから」である以上、契約が毎年30万〜40万件減っている流れに、受信料への忌避感は確実に混ざっている。
そこに立花氏の運動が何割寄与したかは、誰にも測れない。だが「テレビを捨てろ」という主張と、実際に起きている解約の動機は、同じ方向を向いている。
むしろ効いたのは、逆方向だった
そのうえで、この2年に起きたことを言い直す。
不払いが積み上がったことで、NHKは専門の組織を作り、支払督促を11倍に増やす理由を得た。結果として未収は6年ぶりに減り、赤字は130億円縮んだ。
不払い運動は、NHKの収入を削るより先に、NHKの取り立てを強くした。
そして請求書を受け取っているのは、運動を呼びかけた人ではない。それを信じて、テレビを持ったまま支払いを止めた個人である。
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払っている人から見ると、どう映るか
視点を変える。受信料を払い続けている人にとって、この2年はどう見えたか。
まず、値下げがあった。地上契約で月125円、年1500円ほど軽くなった。これは払っている人にとっての実利である。
一方で、その値下げが赤字の直接の原因になり、いま督促の強化という形で「払っていない人」に向かっている。
払っている側から見れば、これは筋が通る。同じ制度で暮らしていて、払う人と払わない人が並んでいるほうが不公平だからだ。
ただ、納得のいく順番であってほしい
それでも一つ注文を付けるなら、順番である。
取り立てを11倍にする前に、制度の説明を11倍にしたほうがよかったのではないか。なぜテレビを持つと契約義務が生じるのか、ネット時代にその線引きをどう引き直すのか。
その説明が薄いまま督促だけが増えれば、「NHKは怖い」という印象だけが残る。それは長い目で見て、支払率をさらに下げる方向に効く。
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それで、受信料はどうなるのか
最後に、これから起きることを書いておく。
NHKは2026年、全国すべての都道府県で2000件以上の民事手続きを実施する方針を示している。1300件規模だった2025年度からさらに広がることになる。
つまり、督促は今年もっと増える。「そのうち来るかもしれない」ではなく、「順番に来る」段階に入っている。
一方で、受信料収入の減少は止まっていない。7年連続である。ネットだけの契約は7000件しかない。取り立てを強めても、母数が減っていく構造は変わらない。
制度の選択肢は、3つしかない
議論の形はもう出そろっている。整理すると3つだ。
| 案 | 中身と論点 |
|---|---|
| ①スクランブル化 | 払った人だけ見られるようにする。立花氏らが主張してきた案。技術的には可能だが、災害報道や全国普及という公共放送の役割と正面から衝突する |
| ②税・公費方式 | 受信料をやめて税で賄う。取りはぐれはなくなるが、政府が財布を握るため、政治からの独立が弱くなる |
| ③現行制度+規模縮小 | いまの受信料を維持したまま、チャンネルと支出を削る。いちばん地味で、いま実際に進んでいる道 |
NHKが選んでいるのは③である。そして③のまま督促だけを強めると、①や②を求める声が増える。今回の11倍という数字は、その燃料になりうる。
この先に来るのは、たぶん次の制度論だ。契約の対象をどう定義するのか、スマホしか持たない世帯をどう扱うのか、公共放送の規模はいくらが適正なのか。そこを決めないまま督促だけを増やせば、反発は積み上がる。
もう一つ、覚えておきたいことがある。この話でいちばん損をしたのは、NHKでも立花氏でもない。
「払わなくていい」を信じて支払いを止め、いま延滞利息と手続き費用を上乗せされた請求を受け取っている人たちである。その人たちは、政治にも制度にも関われないまま、個人として支払いに向き合っている。
払っていない人への督促は、正しいことだと思いますか。それとも、制度の側を先に直すべきだと思いますか。
私は、払っている人がいる以上、督促そのものは筋だと思っています。ただ、「払わなくていい」と言った人が今どこにいるのかは、信じた人に伝わっているのだろうかと気になります。
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この記事の確度
関心度★★★★☆/受信料は全世帯に関わる。ただし決算発表そのものは6月で、鮮度は中程度。
信頼度★★★★☆/決算数値・契約件数・支払率・督促件数はいずれも複数社の報道で確認した。ただし「不払い運動が受信料収入をいくら減らしたか」はNHKが公表しておらず、本稿でも算定していない。
賛否度★★★★☆/受信料制度そのものへの評価が真っ二つに割れる題材である。
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主要ソース
NHKの決算と受信料
- NHK、25年度の赤字318億円に縮小 受信料収入は7年連続減少(日本経済新聞)
- NHK、3年連続赤字決算 受信料収入は7年連続で減少(共同通信)
- NHK決算、3年連続赤字 受信料収入は0.9%減―25年度(時事通信)
- NHK受信料収入、7年連続減少 下げ止まり見えず 事業収入は6年ぶり増加(ITmedia/契約総数4033万件・支払率76.9%・NHK ONE 7000件)
- NHK 2023年度決算を公表 34年ぶりに赤字(民放online)
- 受信料を値下げしました(NHK受信料の窓口/2023年10月の改定内容)
各年度の決算
値下げの経緯と剰余金
- NHK受信料値下げ原資に剰余金積立制度、改正放送法成立(日本経済新聞・2022年6月)
- 自民党の一声で「受信料の1割値下げ」をあっさり決めたNHK その元手は視聴者が納めた2000億円の剰余金(プレジデント)
- NHK受信料が来年10月に約1割値下げ、12月にはBS2K/4Kを各1波体制に(日経クロステック)
- 【総務省】NHK受信料1割値下げへ 大臣は更なる引き下げに意欲(財界オンライン)
督促の強化
- NHK、2025年度の受信料未払い督促件数を10倍に 25年秋に対策強化(日本経済新聞)
- NHK、受信料の未収数が6年ぶり減少。督促の民事手続きを過去最多規模に拡大へ(AV Watch)
- NHK、支払督促の経過を報告。2026年は全国すべての都道府県で2000件以上実施予定(PHILE WEB)
- NHKが受信料未収対策を強化 未収数が6年ぶり減少、全国で民事手続きを拡大へ(ENCOUNT)
テレビ保有率とテレビ離れ
- なぜテレビを持たないのか?part2(民放online/民放連研究所調査・非保有理由の1位は受信料)
- 「テレビは見ない」10代後半〜20代が7割(週刊女性PRIME/テレビ保有率90.1%・スマホ91.8%)
- テレビ離れ加速、20代は7割・30代は6割がほぼ見ず NHK調査(朝日新聞)
立花孝志氏と不払い運動
- NHKが立花孝志氏を提訴 N国党首、受信料不払いで(日本経済新聞・2019年)
- 「NHK受信料は払わなくていい」立花孝志氏を信じた人に督促状が…(東京新聞)
- 「督促状が集中…」立花孝志氏逮捕のウラでNHKが10倍“狙い撃ち”するN国党を信じた人たちの悲劇(FRIDAY)
- 「テレビを捨てろ」NHK党・立花孝志氏に支持者も呆れ顔 受信契約者増加に一役買っていたという皮肉(FRIDAY)
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