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6〜9兆円の円買い介入は、アメリカの管理下で行われたのか──米財務省が銀行に予告し、財務官は「米から支援」と言い、財務相は連携の有無に答えなかった

関心度 ★★★★★ 信頼度 ★★★★☆ 賛否度 ★★★★☆


7月31日、米財務省がニューヨーク連銀を通じて、複数の銀行に「本日、円買い介入がある可能性」を伝えたとロイターが報じた。日経はこれを「異例の予告」と書いている。

同じ日、日本の三村淳・財務官が述べた。「米当局から、単なる精神的支援を超える支援を受けている」

そして片山さつき財務相は、記者から「アメリカ当局との連携があったのか」と直接聞かれ、連携の有無に一言も答えていない。会見録は財務省のサイトに全文が公開されている。

使われたのは推定6兆円から9兆円。国民の外貨準備である。

今年4月から5月には、すでに過去最大の11.7兆円を投じていた。それでも7月26日、円は1ドル164円をつけている。効果は続かず、金額だけが膨らんでいる。

その原資1兆2870億ドルの大半は、米国債である。日本が稼いだドルは、アメリカに置いたままになっている。

日本の通貨を守るこの行為は、誰の判断で行われているのか。この記事はそれを問う。断定はしない。事実を順番に並べる。

11.7兆円を使って、164円になった

まず効果の話から入る。ここを押さえないと、金額の意味が分からない。

財務省が5月に公表した実績によれば、4月から5月の円買い介入は11兆7000億円規模。過去最大である。

2022年10月の約6.3兆円、2024年4〜5月の9兆7885億円を上回る。日本が円を買い支えるために一度に投じた金額として、これまでで最も大きい。

結果はどうだったか。7月26日、円は1ドル164円をつけた。当サイトはこの日、39年8か月ぶりの円安として記事にしている。

効果がないわけではない。続かないだけである

公平に書いておく。介入に効果がないという話ではない。

国際通貨研究所の分析によれば、2022年以降の円買い介入は、規模100億ドルあたり米ドル円相場を平均1.8%押し下げる効果があったとされる。適切なタイミングで行われれば、一定の持続性も持ちうるとしている。

実際、今回も円は一時1ドル157円台半ばまで戻した。数日で7円近い動きである。効いてはいる。

問題は、その後である。

2022年9月に2.8兆円、10月に6.3兆円。2024年に9.8兆円と5.5兆円。2026年4〜5月に11.7兆円。それでも円安の流れは変わらず、金額だけが回を追うごとに大きくなっている。

介入は流れを止める行為ではなく、速度を落とす行為である。止まらないから、また出す。出す額は前回を超える。この4年間、その繰り返しになっている。

7月30日から31日に、何が起きたのか

まず順番に並べる。ここが記事の土台になる。

7月30日、米国のベッセント財務長官が米メディアのインタビューで「円は著しく過小評価されている」と述べた。

30日のニューヨーク外国為替市場で、円が短時間に約5円急騰した。市場では政府・日銀による円買い・ドル売り介入との観測が広がった。同じ日、ニューヨーク連銀が「レートチェック」を実施したと日経・時事が報じている。レートチェックは、通貨当局が金融機関に相場水準を照会する行為で、介入の前段階とされる。

31日、円は一時1ドル157円台半ばまで上昇した。当サイトが7月26日に報じた1ドル164円から、わずか4日での動きである。

そして31日、米財務省がニューヨーク連銀を通じ、複数の銀行に「本日、円買い介入がある可能性」と、それに備えるよう伝達したとロイターが報じた。日経はこれを「異例の予告」と表現している。

同じ31日、三村財務官が「米当局から支援を受けている」と発言。片山財務相は閣議後会見で、介入の有無にも米当局との連携の有無にも答えなかった。

時期 出来事 確度
7月30日 ベッセント米財務長官が米メディアで「円は著しく過小評価されている」 本人発言
7月30日 NY市場で円が短時間に約5円急騰。政府・日銀の介入との観測 観測(未確認)
7月30日 ニューヨーク連銀がレートチェックを実施(介入の前段階) 報道
7月31日 円が一時1ドル157円台半ばまで上昇 市場実績
7月31日 米財務省がNY連銀を通じ、複数の銀行に介入の可能性を通知(日経「異例の予告」) ロイター報道
7月31日 三村財務官「米当局から、単なる精神的支援を超える支援」 本人発言
7月31日 片山財務相、介入の有無・連携の有無ともに答えず 会見録
規模 6〜9兆円との観測 推計
※赤字は未確定情報。日本政府は介入の有無を公式に認めていない。確定値は財務省が8月末に公表する「外国為替平衡操作の実施状況」で明らかになる。

なぜ「予告」が異例なのか

この話を理解するには、為替介入の仕組みを一つだけ押さえる必要がある。

介入は本来、抜き打ちでやるものである。

理由は単純だ。政府が「今日ドルを売って円を買う」と事前に知らせれば、投機筋はその前にポジションを整理する。買い向かう相手が減れば、同じ額を使っても相場は動かない。予告は、自分の効果を自分で削る行為である。

だから通貨当局は、規模も時刻も直前まで伏せる。日本の財務相が「介入の有無についてはお答えを差し控える」と言い続けるのも、この論理から来ている。手の内を見せないためだ。

今回は、その原則が逆になっている

ところが今回、米財務省はニューヨーク連銀を通じて複数の銀行に「本日、円買い介入の可能性がある」と伝えたと報じられた。効果を落とす方向の行動である。

考えられる読み方は、大きく二つある。

一つは、効果よりメッセージを優先したという読み方。「日米が本気で連携している」と市場に示すこと自体が目的で、実弾の効率は二の次だった、という見方である。市場を委縮させるだけで円安が止まるなら、そのほうが安上がりではある。

もう一つは、米側の意思表示だったという読み方。ベッセント長官の「円は著しく過小評価されている」という発言と合わせれば、米国が円安の是正を望んでいることは明白だ。予告は、その意思を市場に伝える手段だった、という見方になる。

どちらが正しいかは、現時点では分からない。ただし共通しているのは、どちらの読み方でも「米側が動いた」という順番になることである。

政府内で、説明が食い違っている

ここがこの記事の中心である。

同じ7月31日、日本政府の中で二人が別のことを言っている。

三村淳・財務官の発言

米当局から、単なる精神的支援を超える支援を受けている

── 三村淳・財務官(2026年7月31日/朝日新聞・中日新聞の報道による)

財務官は、財務省で国際金融・為替を統括する事務方のトップである。為替介入の実務を仕切る立場にある。

正確を期すために書いておくと、三村財務官も「介入を実施したかどうか」には答えていない。中日新聞の見出しは「為替政策『米当局から支援』 財務官、介入実施の有無答えず」である。

つまり三村氏が語ったのは、介入の事実ではなく、米当局との関係だった。

片山さつき財務相の会見

一方、政治責任者である財務相はどうだったか。財務省が公開している会見録から、そのまま引く。

問)朝の囲みでもお伺いしたんですけれども、外国為替市場で急激に円高が進む動きがありました。介入があったのかどうか改めてお聞かせください。

答)お尋ねの点につきましてはお答えは差し控えさせていただきます。

── 財務省「片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要」(令和8年7月31日)

介入の有無を答えないのは、従来からの慣行である。ここまでは想定内だ。

問題は次の質問である。

問)アメリカのベッセント長官が昨日アメリカのメディアのインタビューに対して円は著しく過小評価されているなどと述べています。今回為替が大きく動いていますが、アメリカ当局との連携があったのかもお聞かせください。

答)(前略)その中で米国の財務長官であり、かつ市場においては最も精通した経済人の1人でもあるベッセント氏が一連のことを踏まえて我々高市政権の財政経済政策について非常にファンダメンタルズとして表れたときに強い日本経済になるということをおっしゃっていただいております。非常に強力な政策を実施しているという評価をいただいております。(後略)

── 同会見録

読んでいただければ分かる。「連携があったのか」という問いに、連携の話は一度も出てこない。

答えの中身は、ベッセント長官が高市政権の経済政策を高く評価している、という話である。質問とは別の話題になっている。

財務官が言えて、財務相が言えない

整理すると、こうなる。

論点 三村淳・財務官
(事務方トップ)
片山さつき・財務相
(政治責任者)
介入を実施したか 答えていない 答えていない
米当局との連携はあったか 「精神的支援を超える支援」
「継続的に連携」
答えていない
(別の話に移った)

介入の有無を答えないのは、二人とも同じである。市場に手の内を見せないという理屈が立つ。

だが「米当局と連携したか」は、市場の手の内ではない。国の意思決定の話である。

それを事務方トップが語り、政治責任者が語らない。この非対称が、この一件でいちばん引っかかるところだ。

どちらが正しいのかを、この記事は断定しない。この食い違いが存在するという事実を示すことが、記事の仕事である。

2026年7月30日から31日の円買い介入をめぐる日米の動き米国側ではベッセント財務長官の発言、NY連銀のレートチェック、米財務省の銀行への通知が先行し、日本側では介入観測、財務官の発言、財務相の沈黙が続いた流れを時系列で示した図7月30日〜31日 誰が先に動いたかアメリカ側日本側7月30日7月31日ベッセント財務長官「円は著しく過小評価」本人発言NY連銀レートチェック実施報道米財務省複数の銀行に介入の可能性を通知ロイター報道(未確認)政府・日銀円買い介入か(推定6〜9兆円)観測・政府は未確認三村淳・財務官「米から精神的支援を超える支援」本人発言片山さつき・財務相連携の有無に答えず会見録(一次資料)米側が先に動き、日本の事務方が「支援」と言い、政治責任者は答えなかった※実線の枠=本人発言・会見録で確認できるもの / 破線の枠=報道・観測にとどまるもの※日本政府は介入の有無を公式に認めていない。確定値は財務省が8月末に公表する実績で判明する。※この図は時間の前後関係を示すものであり、因果関係や指示関係を示すものではない。

6〜9兆円は、誰の金なのか

ここで、使われた金の出所を確認しておきたい。

円買い介入の原資は、外国為替資金特別会計(外為特会)の外貨準備である。国が保有するドル資産だ。国民の資産と言っていい。

円を買うということは、その裏でドルを売るということである。そしてドル資産の大半は、現金ではない。

外貨準備の中身

財務省の統計によると、日本の外貨準備高は2026年6月末時点で1兆2870億ドル。うち証券が9285億ドル、預金が1619億ドルである。

この「証券」の大半は米国債とされる。つまり大規模な円買い介入は、実務上、米国債を取り崩すか、それを担保に資金を作ることを意味する。

ちなみに1か月前の5月末時点の外貨準備高は1兆3100億ドルだった。6月末までの1か月で約230億ドル減っている。

売ろうとすると、売れない構造になっている

ここに、あまり語られない仕組みがある。

日本が円買い介入のために米国債を売れば、米国債の需給は緩む。売り手が増えれば価格は下がり、金利は上がる。米国にとっては、自国の長期金利に上昇圧力がかかることを意味する。

日本は米国債の最大級の保有国である。その日本が数兆円、数十兆円という規模で売れば、市場に与える影響は小さくない。

つまりこういうことになる。

日本の外貨準備は、大きく取り崩そうとした瞬間に、取り崩すこと自体が問題になる規模なのである。

少しずつなら売れる。だが円安を本気で止めるだけの額を一気に売れば、米国の金利が動き、金融市場全体が揺れる。だから大きくは動かせない。

円安で50兆円の含み益。だが実現していない

もう一つ、当サイトが7月26日の記事で扱った数字を持ってくる。

円安が進むほど、ドル資産の円建て評価額は膨らむ。国の外貨準備には約50兆円規模の含み益があるとされてきた。円安で家計が苦しむ一方、国の帳簿上の資産は増えていた。

だが含み益は、売らなければ実現しない。そして前述のとおり、大きくは売れない。

増えているのに使えない。これが日本の外貨準備の現在地である。

そして今回、その資産を取り崩す方向の行為をするにあたって、米財務省が銀行に段取りを通知したと報じられた。

ただし今回、日本が実際に米国債を取り崩したのかは分かっていない。外貨準備には預金も1619億ドルあり、まずそこから充てた可能性もある。これも8月末以降の統計を見るまで確定しない。

今年すでに、過去最大の介入をやっている

そして忘れてはならないのが、これが今年初めてではないということだ。

時期 円買い介入の規模 備考
2022年9月 約2.8兆円 24年ぶりの円買い介入
2022年10月 約6.3兆円 1ドル150円台に到達
2024年4〜5月 9兆7885億円 4月29日と5月1日の2日間
2024年7月 5兆5348億円 7月11日と12日の2日間
2026年4〜5月 11.7兆円 過去最大(財務省公表)
2026年7月30〜31日 6〜9兆円(推計) 確定値は8月末公表

今年4〜5月に、過去最大の11.7兆円を投じている。それでも円安は止まらず、7月26日には1ドル164円をつけた。39年8か月ぶりの水準である。

そして今回、また6〜9兆円。合わせれば、今年だけで18兆円前後になる可能性がある。

国際通貨研究所の分析によれば、2022年以降の円買い介入は、規模100億ドルあたり米ドル円相場を平均1.8%押し下げる効果があったとされる。効果がないわけではない。だが持続するかどうかは別の問題である。

実際、今年4〜5月の11.7兆円は、7月の164円を防げなかった。

「精神的支援を超える支援」とは、何を指すのか

三村財務官の言葉に戻る。「単なる精神的支援を超える支援」とは、具体的に何なのか。

この一言を聞いて「アメリカも金を出したのか」と受け取った人は多いと思う。だが為替介入における「協力」には段階があり、どの段階かで意味がまったく変わる。

協力には5つの段階がある

段階 中身 誰の金が出るか 今回
①口先介入 「円安は望ましくない」と発言する。いわゆる精神的支援 誰も出さない
②レートチェック 当局が銀行に相場水準を照会する。介入の前段階 誰も出さない
③市場への予告 銀行に「本日、介入の可能性」と伝える 誰も出さない 〇(報道)
④委託介入 日本が海外市場で介入する際、NY連銀などに執行を委託する 日本の金 不明
⑤協調介入 米国が自国の資金でドルを売って円を買う 米国も出す 確認なし
※日本銀行の説明による。委託介入と協調介入の違いは、資金を出すのが誰かにある。

①から④までは、全部「日本の金」である

ここが肝心なところである。日本銀行の説明を引く。

「委託介入」とは、財務大臣の代理人としての日本銀行が、海外の通貨当局に為替介入を委託して行う介入である。ニューヨーク連銀やECBに委託し、海外市場で執行してもらう。

そして日銀は、こう明記している。委託介入はあくまで日本の資金が用いられているという意味で、海外の通貨当局が自己の資金を用いて行う介入とは異なる。

つまり①から④までは、いずれも財源は日本の外為特会である。米国が出すのは、言葉と、手間と、段取りだけになる。

米国の金が出るのは⑤の協調介入だけだ。そして今回、協調介入だったという確認はどこにもない。

円買いの協調介入は、1998年が最後とされる

日米が協調して円を買った例は、そう多くない。

1995年、日本は1月から8月にかけて23回、総額7170億円のドル売り・円買い介入を実施したが、そのうち協調介入は最初の3回だけだった。その後、1998年6月にも日米協調介入が行われている。

それ以降、円買いで日米が協調した例は確認されていない。2022年も2024年も、日本の単独介入である。

もし今回が協調介入なら、28年ぶりの出来事になる。それだけの大事なら、日米どちらかが公表していておかしくない。だが、そうした発表はない。

だから、この一言は宙に浮いている

整理するとこうなる。

三村財務官が言った「単なる精神的支援を超える支援」は、①の上、というだけしか意味していない。②のレートチェックでも③の予告でも、①より上ではある。

だが②も③も、米国の金は1円も出ていない。市場への合図であって、実弾ではない。

「支援」という言葉から国民が想像するものと、実際に行われたこととの間には、この5段階分の幅がある。そして三村財務官は、そのどこなのかを言っていない。

片山財務相も、聞かれて答えなかった。

強い言葉を使いながら、中身を特定しない。これが「説明した」ことになるのかどうかは、読む人の判断だと思う。

同じ会見で、為替に割かれたのは2問だけだった

会見録を通して読むと、もう一つ気づくことがある。

この日の会見の主題は、為替ではなかった。質疑は6問。うち為替に関するものは、先ほど引いた2問だけである。

残りは何だったか。食料品の消費税を1%に下げる案、森友文書をめぐる訴訟、そして財務省・金融庁の幹部人事だった。

6〜9兆円という規模の話が、その扱いである。しかも1問目は「お答えを差し控えます」の一行で終わっている。

記者は、減税と円安を同じ問題として聞いていた

興味深いのは、この日の最初の質問である。会見録から引く。

昨今のインフレですとか今日ちょっと上がっていますが円安構造に対して市場が日本の財政や金融政策の健全性を注視しております。財源に確実な裏付けがないまま減税に踏み切ることは財政規律の放棄と受け止められ、国債の暴落ですとか悪い円安を誘発する懸念もあるかと思います。物価高対策として行う減税がかえって円安、輸入インフレ等を悪化させかねないリスクをどのように防いでいかれるでしょうか。

── 記者の質問(同会見録・冒頭の1問目)

つまり記者は、こう聞いている。物価高を抑えるための減税が、円安を通じて物価高を悪化させるのではないか。

これは筋の通った問いである。財源の裏付けが弱いと市場が判断すれば、円は売られる。円が売られれば輸入物価が上がる。減税で下がった分を、円安が食い返す構図になりうる。

片山財務相の答え

これに対する答えの骨子は、次のとおりだった。

高市総理が消費税率1%の実現に向けた意見集約を支持し、来年4月からの引き下げに間に合わせるため、8月上旬までに政府・与党の方針として決定を目指す。財源は「特例公債に頼らず確保する」と総理が言明している。

そして財政運営の目標は「国・地方の債務残高の対GDP比の安定的低下」であり、成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑える。だから財政規律はむしろ厳しくなっている、という説明である。

この説明の当否をここで判定するつもりはない。ただ、並べておく価値のある事実がある。

同じ日、同じ会見で、政府は片方で減税を進め、片方で6〜9兆円を使って円を買い支えていたとみられる。

減税は国民の手元に金を戻す政策である。介入は円の価値を守る行為である。どちらも物価高対策として説明できる。

だが原資は、どちらも国の資産だ。減税は税収を減らし、介入は外貨準備を取り崩す。その二つを同時に走らせる全体像を、誰が国民に説明するのかは、まだ見えていない。

「日米同じ」とは、何を指すのか

もう一点、確認しておきたいことがある。

片山財務相は7月28日、「必要に応じて措置を取るということは日米同じ」と述べていた(ブルームバーグ)。介入の3日前である。

この「日米同じ」が、具体的にどの合意を指すのかは、公表資料からは特定できなかった。

為替をめぐる日米の共通認識としては、G7・G20の場で繰り返し確認されてきた「為替相場の過度な変動や無秩序な動きは、経済および金融の安定に悪影響を与えうる」という文言がある。米財務省の為替報告書も「円相場の過度な変動は望ましくない」と指摘している。

おそらくこの系統の認識を指しているとみられるが、当サイトはそれを確認できていない。特定の二国間合意を指すのか、一般的な共通認識を指すのかは、財務相自身の説明を待つしかない。

ここも、答えが公開されていない部分である。

もう一つの見方も置いておく

ここまで書いたことは、批判のための材料ではない。公平を期すために、米側との連携が日本にとってプラスに働く面も書いておきたい。

円高方向への修正は、いま国民の利益に沿う

円安は輸入物価を押し上げる。食料品とエネルギーは、そのまま家計を直撃する。円安の是正は、物価高対策そのものである。

米財務省が円安を望ましくないと考え、日本の介入に協力的であるなら、その方向自体は日本の家計にとって望ましい。米国が円安の継続を望んでいて日本が単独で戦う状況と比べれば、はるかに良い条件である。

ベッセント長官は高市政権を評価している

片山財務相が会見で語ったのも、この点だった。会見録から引く。

「米国の財務長官であり、かつ市場においては最も精通した経済人の1人でもあるベッセント氏が(中略)我々高市政権の財政経済政策について(中略)非常に強力な政策を実施しているという評価をいただいております」

米財務省の為替報告書も「円相場の過度な変動は望ましくない」と指摘している。片山財務相は7月28日にも「必要に応じて措置を取るということは日米同じ」と述べていた。

つまり日米の方向は一致している。ここに争いはない。

だからこの記事は、連携そのものを問題にしない。問題にするのは、その連携について国民が何も聞かされていないという点だけである。

これは、アメリカに預けた貯金なのか

ここからは、この記事の意見になる。

ここまでの事実を、三つに束ねてみる。

一つ。介入の効果は続かない。4〜5月に過去最大の11.7兆円を投じて、2か月後に164円になった。額は回を追うごとに大きくなり、流れは変わらない。

二つ。その原資は1兆2870億ドルで、大半が米国債である。そして本気で売れば米国の金利が動くため、大きくは動かせない。含み益が50兆円あっても、実現できない。

三つ。その資産を取り崩す局面で、米側が先に動いた。米財務長官が「円は過小評価」と言い、ニューヨーク連銀がレートチェックをし、米財務省が銀行に段取りを通知したと報じられた。

日本が稼いだドルは、どこにあるのか

日本は貿易と投資で長年ドルを稼いできた。そのドルは円に換えず、米国債にして持っている。それが1兆2870億ドルである。

これは日本の資産だ。誰も否定しない。

だが実務上、どうなっているか。置き場所はアメリカで、大きく引き出そうとするとアメリカの市場が揺れるので、大きくは引き出せない。そして引き出す日には、置き先の国が銀行に段取りを伝えていた。

自分の金なのに、自分の都合だけでは動かせない。

これを貯金と呼ぶかどうかは、読む人の判断だと思う。ただ、預けた側と預かった側のどちらが強いかは、金額が大きくなるほど逆転していく。銀行に多額を預けている人ほど、その銀行が潰れると困るのと同じ構造である。

断定はしない。だが順番は動かない

これをもって「アメリカに指示された」と書くつもりはない。断定できる材料がないからだ。米財務省の通知はロイターの報道であって公式発表ではなく、日本の介入も政府が認めていない。

米国が円安是正を望むのは、米国自身の理由がある。日本が米国債を売り続ける状況は、米国にとっても望ましくない。利害が一致しているだけ、という説明も十分に成り立つ。

だが、こうは言える。この順番を見て「どちらが主導したのだろう」と思うのは、自然な反応である。そして、その自然な疑問に答える材料を、国民は与えられていない。

手の内と、国の意思決定は違う

介入の有無を答えない慣行には、理屈がある。市場に手の内を見せれば効果が落ちる。これは分かる。

だが「米当局と連携したか」は、手の内ではない。日本という国が、自国通貨をめぐる判断を、どこと相談して決めたのかという話である。

しかもその答えを、財務官はすでに公の場で語っている。「単なる精神的支援を超える支援を受けた」と。

事務方が語れる話を、政治責任者が語らない。これは市場対策では説明がつかない。

三村財務官は留任した

最後に、会見の冒頭発言に触れておく。

7月31日、財務省は幹部人事を発表した。新川事務次官、江島国税庁長官、井口理財局長、木村財務総合政策研究所長が、いずれも勇退している。

そのうえで片山財務相はこう述べた。「なお、三村財務官、寺岡関税局長、緖方国際局長は留任させます」。

次官も国税庁長官も理財局長も交代する人事のなかで、為替を仕切る財務官は残った。

人事の理由について片山財務相は「全て適材適所でございます」と述べており、それ以上の説明はしていない。だから、この留任と為替対応を結びつけて解釈することはできない。

ただ、事実として並べておく。介入の局面で、実務の責任者は変わらなかった。

8月末に、確定値が出る

この件は、まだ終わっていない。

財務省は毎月末に「外国為替平衡操作の実施状況」を公表している。今回の介入額の確定値は、8月末に明らかになる。現時点の6〜9兆円は、あくまで市場の推計である。

そのとき、確認すべきことが三つある。

一つ目。実際にいくら使ったのか。推計と大きく違えば、市場の見立てが外れていたことになる。今年4〜5月の11.7兆円と合算した年間の総額も、そこで分かる。

二つ目。外貨準備がどれだけ減ったのか。6月末の1兆2870億ドルが、7月末・8月末にどう動くか。米国債を実際に取り崩したのかどうかは、ここに表れる。

三つ目。効果は続いたのか。157円台まで戻した円が、その後どこにいるか。今年4〜5月に過去最大を投じて7月に164円をつけた前例があるだけに、ここは冷静に見る必要がある。

そして、答えられていない問いが残る

介入の有無を答えない慣行は、今後も続くのだろうか。手の内を伏せる理屈は分かる。だが6〜9兆円という規模になっても、国会にも国民にも事後に何も説明しないままでいいのかは、別の問題である。

財務官が言えて、財務相が言えないのは、なぜなのか。

本当に問うべきなのは、出口の設計だと思う

最後に一つだけ書いておきたい。

この4年間、日本は介入のたびに額を増やしてきた。2.8兆円、6.3兆円、9.8兆円、5.5兆円、11.7兆円、そして今回の6〜9兆円。

止まらないから額が増える。額が増えるほど、次はもっと必要になる。この構造に出口があるのかどうかは、まだ誰も説明していない。

円安の原因は日米の金利差であり、介入では金利差は動かない。だから効果が続かないのは、ある意味で当然である。

本来の議論は、金利差をどうするか、稼いだドルをどこに置くか、そして日本の産業がドルを稼ぎ続けられるか、という話のはずだ。介入はその時間稼ぎであって、答えではない。

あなたは、この18兆円前後の使われ方を、どう見ますか。

私は、1兆2870億ドルを持っている国が、円を守るために毎回アメリカと段取りを合わせているのを見ると、持っているのと使えるのは別なんだなと思いますね。

主要ソース

一次資料

介入と米側の動き

三村財務官の発言

委託介入・協調介入の仕組み

外貨準備と過去の介入

関連(当サイト既報)

編集者K

速報より本質。話題のニュースの裏側を裏取りして届ける、一日の最後に読むニュースサイトです。