ホーム ニュース 斎藤知事は兵庫の財政を壊…
ニュース人物政治経済

斎藤知事は兵庫の財政を壊したのか──就任時15.5%が2030年には25%へ。井戸県政20年と斎藤県政5年、悪化の責任を数字で切り分ける

関心度 ★★★★★ 信頼度 ★★★★☆ 賛否度 ★★★★★

一つの数字がある。15.5%。斎藤知事が就任した2021年度の、兵庫県の実質公債費比率——県の収入に占める借金返済負担の割合だ。

この数字は今年、19%を超える。県の見通しでは2030年前後に24.8%まで上がり、都道府県で前例のない「早期健全化団体」ライン、25%の目前に達する。就任時からの5年で危険水域に入ったのだから、数字だけを並べれば「斎藤県政で財政が悪化した」ように見える。実際、そう読む声は広がっている。

だが、この数字はそう単純に読める代物ではない。上昇の中身を分解すると、責任は三つの層に分かれていく。作った者、見抜けなかった者、検証しない者——。

本稿は、井戸県政20年と斎藤県政5年の責任を数字で切り分ける。どちらかを断罪するためではない。公表資料と報道から、責任の層がどう分かれているかを整理する。例によって断定はしない。判断は読者に委ねる。


実質公債費比率は、どう推移してきたのか

15.5%から25%目前へ──数字の中身

まず、指標の意味から。実質公債費比率は、県の収入(標準財政規模)に占める借金返済負担の割合で、3か年平均で算定される財政の健康診断値だ。

県の公表資料に基づく推移はこうだ。斎藤知事が就任した2021年度(令和3年度)は15.5%。以降、15.7%、16.5%、17.3%と毎年上がり続け、2025年度(令和7年度)に19%台へ乗って18%の線を突破する。県の見通しでは、その後も22%台、24%台と上昇を続け、2030年度前後に24.8%でピークを打つ。25%まで、あと0.2ポイントである。

この数字には、法律で決まった「信号」がある。

ライン 何が起きるか
18% 起債許可団体。借金に国の許可が必要になり、適正化計画の策定と原則7年以内の脱却が義務になる
25% 早期健全化団体。財政健全化計画の議決・国への報告義務。都道府県では前例がない
35% 財政再生団体。国の監督下に入る。前例は夕張市のみ

ちなみに18%という線には根拠がある。地方債の発行は2006年度から原則「協議制」になり、さらに実質公債費比率18%未満・実質赤字ゼロなどの要件を満たす自治体は、届出だけで借金ができる。18%を超えた瞬間、この「大人扱い」が外れ、一件ずつ国の許可が要る子ども扱いに戻る。それが起債許可団体だ。

実測と見通しを重ねるとこうなる。2024年度決算は17.1%。2025年度は19%前後となり、今年8月に14年ぶりの起債許可団体入りがほぼ確定している。そして現在の投資規模を続ければ、2030年前後に25%へ到達し得る——ここまでが県の検討会資料と報道で確認できる事実だ。

全国で見ると、この水準がどれほど突出しているかがわかる。18%を超えている都道府県は現在、北海道と新潟県だけ。多くの県は一桁から10%台前半に収まっている。兵庫はそこに3県目として加わり、しかも見通しの傾きは2道県より急だ。

338億円の発覚で悪化が前倒しになった

7月13日の県の検討会では、もう一つの事実が示された。2020年度に行われた338億円の違法起債——土地売却収入を返済に充てず全額借り換えた処理——の是正で実質公債費比率を算定し直した結果、悪化の時期が前倒しになったのだ。

ただし、この是正による上乗せは各年度0.数ポイントにとどまる。25%に迫る上昇の主因は、338億円ではない。この点は後で重要になるので、覚えておいてほしい。


この数字を読むときの、3つの注意点

①「借金が増えている」ではない

まず言葉の問題から。実質公債費比率は借金の残高ではない。収入に占める「返済負担」の割合だ。この数字の上昇が意味するのは「新しく借金を重ねている」ことではなく、「過去に借りた分の返済と利払いが、収入に対して重くなっている」ことである。

「斎藤県政で借金が増えている」という要約は、指標の意味を取り違えている。

②これは、遅れて届く請求書である

より本質的な注意点はこちらだ。公債費は、借金をした瞬間ではなく、返済が始まってから数年〜数十年かけて計上される。つまり実質公債費比率は、典型的な「遅行指標」だ。

いま比率を押し上げている中身は、井戸県政期の高投資で発行された県債と、震災復興債の借り換えが、金利上昇で膨らんだものである。知事の就任月に線を引いて以降の上昇をすべて現職に帰属させると、前任者の借金の請求書が届いた時期を、あたかも借りた時期であるかのように読み違えることになる。

③数字の半分は、まだ起きていない未来

もう一つ。2025年度より先の数字は、実績ではなく「今後の見通し」だ。投資の継続と金利上昇という前提を置いた試算であり、前提が変われば数字も変わる。実績と予測を区別せずに「悪化した」と現在形で語るのは、正確ではない。

そして先に触れた通り、338億円是正の上乗せは各年0.数ポイントにすぎない。つまり悪化の主因は、違法処理そのものではなく、もっと古く深い構造にある。では、その構造を作ったのは誰か。ここから、二つの県政を順に見ていく。


井戸県政20年が作ったもの

震災は「しょうがない」と言える。ただし借入までは

まず、公平のために言っておくべきことがある。兵庫の借金の出発点は、1995年の阪神・淡路大震災だ。復旧・復興の総事業費は約16.3兆円。うち県の負担は2.3兆円にのぼり、その半分以上の1.3兆円を県債——つまり借金で賄った。この借入自体は、責めようがない。どの知事でも同じ規模の借金をしたはずだ。

この震災債務は30年経った今も消えていない。2024年度末時点でも震災関連の県債残高は約1,478億円残り、返し終わるまでさらに10年以上かかる見込みだ。復興事業そのものは昨年ようやく完了したが、支払いだけが続いている。兵庫が他の都道府県と同じ土俵で語れない事情は、確かにある。

だが「震災だからしょうがない」と言えるのは、ここまでである。

言い訳が通用しない4つの選択

第一に、338億円の違法処理は震災の25年後、2020年度の出来事だ。仕組みを家計に置き換えると、こうなる。住宅ローンを抱えた家が、土地を売って338万円の臨時収入を得た。ルールでは、この金はローンの繰り上げ返済に充てることになっている。ところがこの家は、返済せずにローンを全額組み直し、浮いた338万円を定期預金に入れて、家計簿の「貯蓄」欄を立派に見せた——県がやったのは、この県庁版である。

地方財政法は、こうした処理を認めていない。そして報道によれば、この処理は井戸前知事の指示だったとされる。震災は借金を作った理由にはなっても、返済を隠す理由にはならない。

第二に、338億円はむしろ「返すチャンス」だった。震災債務が重いからこそ、臨時収入は返済に回すのが筋だ。それを見せかけに使ったのは、震災を言い訳にできる立場を自ら捨てる行為である。

第三に、高投資路線は政策の選択だ。県の検討会が悪化の主因に挙げるのは、震災ではなく「高い投資水準を低金利の借り換えで回してきた構造」である。復興事業が完了した後も、この体質は約20年間続いた。

第四に、警告は一度受けていた。兵庫県は過去にも起債許可団体だった。今回が「14年ぶり」ということは、前回の転落と脱却も井戸県政期の出来事だ。一度落ちて、学んだはずで、体質は変わらなかった。

加えて、誰が・なぜ違法処理を決めたのか、意思決定の経緯は検証可能な形で残っていないとみられる。責任の所在をたどる糸が、そもそも切れているのだ。


斎藤県政5年は、では無傷なのか

「財政のプロ」が5年間見抜けなかった

数字の読み方に注意が要るからといって、現県政に問題がないことにはならない。並べておく。

斎藤知事は東大から総務省に進み、2018年からは大阪府の財政課長を務めた、自他ともに認める財政の実務家だ。その知事が2021年8月の就任から5年間、5回の予算編成と決算を経ながら、338億円の処理と算定誤りを見抜けなかった。あるいは、見抜いていて公表が遅れたのか。どちらであっても、問責の余地は残る。

誤った実質公債費比率が毎年度公表され続けたのも、この5年間を含む。実行の責任と、点検の責任は別物だ。

投資は続き、説明は変わり、検証は止まっている

高投資水準は現県政でも維持された。2022年以降、金利上昇は誰の目にも明らかだったが、投資規模の本格的な見直しは2027年度からとされる。対応が早かったとは言いにくい。

説明も変遷している。今年2月の起債許可団体入り公表時、知事は「県民生活に影響が出ないようにする」と述べた。だが7月の検討会では、2027年度から投資規模を10%以上抑制する素案が示され、試算では公共投資2割減のシナリオまで出ている。影響の説明が、後から重くなっている。

そして検証の問題がある。5月の検討会で、過去の意思決定者への聴取について、知事は「あまり考えられない」と述べた。「前県政のツケ」と明示しながら、誰が・なぜを調べることには消極的——公表による自浄を評価するほど、この整合性の弱さは目立つ。

2024年から続いた文書問題と知事選の騒動で、県政の議論が財政危機から逸れていたことも、帰責は複雑だが、この期間の事実として残る。パワハラの真偽をめぐって全国が沸いていた2年間、560万県民の財布の話は、ほとんど議題に上らなかった。


責任の切り分け──ひと目でわかる対照表

ここまでの整理を、一枚の表にする。

論点 井戸県政(〜2021) 斎藤県政(2021〜)
338億円の違法処理 実行(2020年度・指示は前知事とされる) 5年間発見できず/2026年に公表
高投資×低金利の構造 約20年かけて構築 継続。見直しは2027年度から
起債許可団体 前回の転落・脱却を経験 在任中に18%を突破(今年8月移行へ)
誤った指標の公表 見せかけ処理で比率を良く見せた 誤算定の公表が5年間継続
検証・記録 意思決定の経緯が不透明 過去の意思決定者聴取に「あまり考えられない」
評価できる点 震災復興の借入判断そのものは不可抗力 危機の公表・検討会設置・2段階の適正化計画

こうして並べると、二つの県政の失態は種類が違うことがわかる。片方は「作って、隠した」。もう片方は「見抜けず、検証しない」。「斎藤が悪化させた」と読むのも、「すべて井戸のせい」と読むのも、この表の半分しか見ていない。


県民の生活はどうなるのか──先例が教える現実

「起債許可団体=即増税」ではない

ここで、560万県民にとって一番切実な問いに答えておく。起債許可団体になると、生活はどうなるのか。

先例を見る限り、「即増税」とはならない。神奈川県三浦市は2013年度から2016年度まで起債許可団体だったが、適正化計画に増税は明記されなかった。代わりに行われたのは、税金の取りこぼしを減らす徴収強化——新規滞納者への集中的な電話催告や、悪質な滞納者への差し押さえだ。歳出側では人件費の削減が並んだ。

現に、起債許可団体は兵庫だけの特殊な状態ではない。2026年3月時点で北海道と新潟県が該当しており、過去には大阪府も経験している。「国の許可が要る」という管理下に置かれつつ、数年で脱却するのが通例だ。

怖いのは次の段階──25%の向こう側

生活に直接響き始めるのは、その先の「早期健全化団体」からだ。2008年度から2013年度までこの状態だった大阪府泉佐野市では、税の徴収強化に加えて、各種使用料・手数料の引き上げ、家庭ごみの有料化まで踏み込んだ。さらに関西空港の連絡橋に「空港連絡橋利用税」という新税を設け、1往復100円の徴収は今も続いている。

都道府県で早期健全化団体になった例はまだない。兵庫が2030年前後に25%へ到達すれば、その第1号になる。手数料、施設使用料、ごみ、そして県独自の新税——泉佐野で起きたことの県版が、選択肢の卓上に載る世界だ。

段階ごとに住民への影響を整理すると、こうなる。

段階 実例 住民に起きたこと
起債許可団体(18%〜) 三浦市、北海道、新潟県 増税はなし。徴収強化(催告・差し押さえ)、人件費削減、投資の抑制
早期健全化団体(25%〜) 泉佐野市 使用料・手数料の値上げ、家庭ごみ有料化、新税の創設(空港連絡橋利用税・現在も継続)
財政再生団体(35%〜) 夕張市 国の監督下で施設閉鎖・サービス縮小。脱却後もインフラ老朽化が続く

知事は2月の会見で「県民生活に影響が出ないようにする」と述べた。だがその後の検討会で示されたのは、2027年度からの投資1割抑制であり、試算上は公共投資2割減だ。道路の補修、学校の改修、病院の設備——「投資」という言葉の中身は、結局のところ県民の生活インフラである。影響が出ないという説明と、これらの数字の間には、まだ埋まっていない距離がある。


これからが本番──大阪の前例と25%へのカウントダウン

大阪府も起債許可団体だった

ここで、あまり知られていない事実を一つ。大阪府も2011年度から2016年度にかけて、起債許可団体だった。維新府政の初期は、まさに国の許可なしに借金できない状態から始まり、投資の絞り込みと改革で脱却している。

当時の大阪が何をしたかを思い出しておく価値はある。財政非常事態を宣言し、人件費のカット、事業の総点検、出資法人や公共施設の統廃合まで踏み込んだ。「収入の範囲で予算を組む」という原則を掲げ、痛みを伴う削減を数年続けて、許可団体から抜け出している。派手な改革の看板の裏で実際に効いたのは、地味で執拗な歳出の絞り込みだったとされる。

斎藤知事が大阪府の財政課長を務めたのは2018年から2020年。脱却直後の大阪で、再建後の財政運営を数字の現場で回していた人物である。「危機を公表し、前政権のツケと明示し、身を切る改革で立て直す」という大阪の型を、兵庫で再現できる経歴を持っていることは事実だ。

ただし、大阪と兵庫では条件が一つ決定的に違う。大阪の再建は低金利の追い風の中で行われた。兵庫の再建は、金利上昇の向かい風の中で行うことになる。同じ型が同じ結果を生む保証は、どこにもない。

敵は過去だけではない──金利という時限装置

再建を難しくしているのは、過去の借金だけではない。金利だ。兵庫は約20年間、低金利での借り換えを前提に収支を組んできた。その前提が崩れ、県の試算では長期金利が3%で推移した場合、実質公債費比率は2030年に25%へ達する。収支不足も2028年度には220億円規模へ膨らむ見通しだ。

借金の元本が同じでも、借り換えのたびに利払いが増える。過去の高投資のツケと、現在進行形の金利上昇——二つの力が同じ方向に働いているからこそ、見通しの数字はあれほど急な坂になっている。

ただし道のりは四半世紀

県の素案は2段階だ。第1段階では2027年度から投資規模を10%以上抑制し、25%への到達——早期健全化団体入り——をまず回避する。第2段階で投資の本格削減と県債管理基金の積み増しを行い、18%未満へ戻して起債許可団体から脱却する。計画は今夏、総務省に提出される。

ただし検討会の試算では、投資を2割減らしても脱却は2050年代。四半世紀がかりの再建である。いま中学生の兵庫県民が、自分の子どもを育てる頃にようやく「普通の県」に戻る——それくらいの時間軸の話だ。

つまり、勝負はこれからだ。見通しの数字——まだ起きていない未来——を、試算通りの24.8%で止められるのか、それとも計画で押し下げられるのか。「財政のプロ」の看板が本物かどうかは、過去の数字ではなく、この先の数字が証明することになる。


結局、誰の失態なのか

整理しよう。責任は三つの層に分かれている。作った者——20年の高投資体質と338億円の見せかけを実行した前県政。見抜けなかった者——財政のプロを掲げながら5年間気づかず、投資を続けた現県政。そして検証しない者——「誰が、なぜ」の解明に消極的な、いまの県庁である。

最後に、数字の読み方の話をしたい。「就任の月に線を引き、その後の変化をすべて現職に帰属させる」読み方は、兵庫に限った話ではない。国の債務残高と政権、年金の積立金と政権、電気料金と政権——同じ構図の議論は、日々流れてくる。

だが財政の数字は、ほとんどが遅行指標だ。今日の数字は10年前の決定の結果であり、今日の決定の結果は10年後の数字に出る。この時差を無視して読むと、犯人を10年単位で取り違える。兵庫の実質公債費比率は、その格好の教材になっている。

「斎藤の失態」も「井戸のツケ」も、三つの層の一つだけを切り取った物語だ。560万県民にとって大事なのは犯人探しの勝敗ではなく、投資1割減・公共事業2割減の時代を、誰がどう説明し、どう運営するかである。

あなたはこの数字を、どう読むだろうか。


主要ソース

県の公表・検討会

報道・解説

関連(当サイト既報)

🌿 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

編集者K

速報より本質。話題のニュースの裏側を裏取りして届ける、一日の最後に読むニュースサイトです。