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自民党の「裏金」は地方にもあった──福岡県議会、議長の椅子は2750万円、隠語は「汗をかく」

関心度 ★★★★☆ 信頼度 ★★★★☆ 賛否度 ★★★★☆

「汗をかく気はあるか」──。

福岡県議会の自民党会派で、この言葉は「カネを出す覚悟はあるか」という意味の隠語だったという。いま福岡で、地方政治の底が抜けるようなスキャンダルが進行している。議長・副議長という公職のポストをめぐり、計2750万円の現金が紙袋で動いたという現職県議の証言。しかも、やり取りの録音まで存在する。

国政の裏金問題を「自民党の体質」と報じてきたメディアは多い。だがこの事件が示すのは、その体質の「地方版」が、より生々しい形で続いてきた可能性である。事実を整理する。

何が証言されたのか──「カツアゲされたようなもの」

2750万円の内訳と「汗をかく」

発端は7月5日の西日本新聞の報道だ。2020年6月から議長を務めた吉松源昭県議(当時自民、現在は無所属)と、副議長を務めた江藤秀之県議(自民)が、就任に先立ち自民党県議団幹部から「他会派への根回し」などの名目で計約2750万円の支払いを求められ、現金で渡したと証言した。

吉松氏によれば、最初の要求は2018年12月。当時の県議団会長・原口剣生氏に議会棟の個室へ呼ばれ、「汗をかく気はあるか」と問われた。県議団内で「汗をかく」は金銭負担を意味する隠語だったといい、自民幹部と他会派議員による宿泊ゴルフ代として550万円の負担を求められ、数日後、議会棟内で紙袋に入れた現金を手渡したという。

7月7日に会見した吉松氏は、自身が渡した総額を「1800万円以上」とし、参加もしない懇親ゴルフの費用などを次々に求められた経緯を「カツアゲされたようなものだ」と表現した。

録音データという物証

この証言が過去の政治スキャンダルと決定的に違うのは、物証の存在だ。吉松氏は幹部とのやり取りを録音して保存している。報道によれば、その中には”県議会のドン”と呼ばれる蔵内勇夫現議長の名前や、蔵内氏を囲む「蔵内会」の名のもとに現金を要求されたケースも含まれるという。

証言だけなら水掛け論で終わる。録音があるなら、話は変わる。

幹部は全員否定──「記憶にない」「男気」

一方、名前の挙がった幹部側は全面的に否定している。原口氏は「記憶にない。お金はもらってない」。蔵内議長は「心外であります」と述べ、「蔵内会」やゴルフ会はカネと無関係の私的な集まりで、費用は割り勘だったと説明した。中尾正幸副議長は会見で「知らない」としつつ、「男気出してお金出したり、ごちそうしたりということはあった」「記憶が曖昧」と述べ、かえって波紋を広げた。

証言者には録音があり、否定する側は「記憶にない」。この非対称は、国政の裏金問題で見た光景とよく似ている。服部誠太郎知事は「わが耳と目を疑った。事実を知りたい」とコメントした。

見逃せない三つの構造

「隠語」の存在は、常態化の証拠である

仮に証言が事実なら、最も深刻なのは金額ではない。「汗をかく」という隠語が会派内で通じていたこと自体だ。隠語は一回きりの取引では生まれない。カネの要求が繰り返され、共有され、言い換えが必要になるほど日常化していたことを示唆する。吉松・江藤両氏の前後の正副議長は「汗」をかいたのか、かかなかったのか──疑問は当然、歴代ポストの全てに及ぶ。

疑惑の当事者が、調査の設計者になっている

県議会は外部の弁護士らによる調査を実施する方針だが、その調査を提案したのは録音に名前が登場するとされる蔵内議長本人である。しかも蔵内氏は調査について「(自身の)アメリカから帰ってくるまでに終わってほしい」と注文をつけた。疑惑の渦中にある人物が調査の枠組みと期限を設定する──これで「外部調査」の独立性を信じろという方が難しい。調査委員の人選と権限、録音データの検証プロセスは、県民が最初に監視すべきポイントだ。

これは「地方版裏金」である

紙袋の現金、収支報告書に載らないカネ、隠語、そして全員の「記憶にない」。国政の派閥裏金問題と、構図は相似形だ。違いは、国政では「政治資金」の形式を経由していたのに対し、福岡の証言が事実なら公職ポストと現金がほぼ直結していた点で、むしろ露骨である。西日本新聞は専門家による法的分析も報じており、政治資金規正法や税務上の問題を含め、単なる「政治とカネの話」では済まない可能性がある。

なお付言すれば、福岡県では県職員が自民県議に過剰に忖度する実態(「まともな課なのか」との詰問、知事決裁の保留乱発など)も地元紙に報じられてきた。一つの会派が長期に議会を支配する構造の中で、カネとポストと行政への圧力がどう絡み合っていたのか──今回の疑惑は、その氷山の一角かもしれない。

これを暴いたのはテレビではなく、地方紙だった

もう一つ記録しておきたい。このスクープは週刊誌でも在京テレビでもなく、西日本新聞という地方紙の調査報道から始まった。証言者を口説き、録音の存在を確認し、幹部全員に当てる──手間のかかる正攻法の報道である。

当サイトは先日、「テレビはもはや報道ではなく動画素材だ」と書いた。その論はいまも変わらないが、公平のために言えば、権力監視の報道は死んでいない。死につつあるのは電波の側であって、足で稼ぐ調査報道は地方紙にこそ残っている。この事件の続報を追うなら、見るべきは東京のワイドショーではなく西日本新聞だ。

まとめ──「議長の椅子」の値段を決めたのは誰か

現時点で確定していることを整理する。現職県議2人が計2750万円の支払いを証言し、録音データが存在するとされ、名指しされた幹部は全員否定し、外部調査が始まろうとしている。カネの流れが事実か否かの断定は、調査と続報を待つ必要がある。

ただ、これだけは言える。「汗をかく」という言葉が金銭要求の隠語として機能する議会は、健全ではない。そして疑惑の当事者が調査の期限を切る組織に、自浄能力を期待するのも難しい。福岡県議会が信頼を取り戻す道は一つ──録音データを含む全ての事実を、当事者の帰国日程ではなく真相解明を基準に、洗いざらい公開することである。

議長の椅子に2750万円の値札がついていたのか。それを確かめる作業から、地方議会の再生は始まる。

※本稿は報道された証言・会見に基づく論評です。金銭授受の事実は現時点で確定しておらず、名指しされた幹部らは否定しています。推移は外部調査と続報をご確認ください。情報の真偽は読者各自でご判断ください。

主要ソース

証言と会見

幹部側の反応と調査

構造・分析

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