相続税の話が出るたびに「金持ちが困る話でしょ」と思ってスルーしてきた。
でもある日、ソニーの盛田昭夫さんの家族の話を偶然見かけて、ちょっと調べ始めたら止まらなくなってしまった。「お金持ちが税金払えなくなる」じゃなくて、「制度の設計が歪すぎる」という話だったので。
3つのエピソードをまとめておきます。
まず最初に引っかかったのがこのポスト。
遺産20億円の中山美穂さん。しかし日本は「世界NO.1」の相続税。しかも10か月以内の金銭での納付が原則。海外在住のご子息が11億円もの納付額に結局、相続放棄を選択。終戦直後のGHQ時代に決められた苛烈な相続制度を今も変えない日本。第168回門田隆将チャンネルで怒りの解説 https://t.co/dlEOTTAUMW
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) May 2026
中山美穂さんが亡くなって、20億円の遺産を残した。でも相続税が11億円にのぼり、長男は相続放棄を選んだという。生前に所得税を払った財産に、死後さらに55%の税をかける——これを「二重課税じゃないか」という声が出るのはわかる気がした。
で、「そもそも相続税ってどういう制度なんだ」と掘り下げていったら、もっと複雑な話が出てきた。
エピソード①:ソニー創業者・盛田昭夫の家族に何が起きたか
盛田昭夫さんといえばソニーの共同創業者。「ウォークマン」を世に出した人で、1993年まで会長を務めた。世界的な経営者だ。
その後、長男・英夫さんが家業を引き継いだが、事業がうまくいかず、税務当局から65億円の贈与税を追徴課税された。保有していた資産管理会社「レイケイ」は2005年に解散している。
妻の良子さんは2009年、ピカソやシャガールなどの絵画7点を競売にかけて計7億9000万円で売却。生活を維持するための売却だったとされる。
盛田家はかつてソニー株を大量に保有していたが、今ではほぼ手放している。創業者一族が持っていた株式の含み益は、一時2000億円規模に達していたと言われる。
なぜこうなったか。株式の含み益は「売らない限り税金がかからない」けれど、相続が発生すると時価で評価されて相続税がかかる。何十年も持ち続けた株に、いきなり巨額の課税が発生する仕組みだ。
「会社を守るために株を手放せなかったのに、相続税で全部失った」——日本の創業者一族に繰り返し起きている話だ。
エピソード②:政治団体に「相続」すると税金がかからない
これが一番「えっ」ってなった話。
個人が財産を子どもに渡すと、相続税がかかる。でも「政治団体」に財産を移せば、相続税も贈与税もかからない。
「政治家は相続税がない」は間違いで、相続税がかからない方法があるということみたいですね。
政治家が亡くなる前に資産を寄付
その資金で「政治団体設立」
政治家が死亡
子、親族が政治団体継承
そして政治団体を解散
団体解散後に残った資金が非課税で政治家の家族に
実によくできてる。— ASKA (@ASKA_Pop_ASKA) May 2025
ASKAさんがまとめてくれているこの流れ、法律的には「違法」ではない。政治資金規正法のもとで、政治団体の資産は「人格なき社団の財産」として扱われるので、個人の相続財産にならない。
日本の国会議員に占める「世襲議員」の割合は約23%。ドイツは1%以下、イギリスも5%以下と言われる。
安倍晋三元首相が亡くなった後も、政治団体「晋和会」の資金継承をめぐって様々な議論が起きた。一般市民なら課税される額が、政治団体を通すと別の扱いになりうる——という構造的な問題は、今も変わっていない。
中山美穂の遺産20億円を長男が相続放棄が話題。これまで相続税ゼロを目指す議連に呼ばれて経緯、海外例(海外ではゼロの国が多い)、相続税理論を説明してきたが、なぜか政治家は最後に及び腰。理由は二つ。Zの締め付けと政治家には政治資金の抜け穴
— 高橋洋一(嘉悦大) (@YoichiTakahashi) May 2026
「政治家には政治資金の抜け穴があるから、相続税を廃止しようという話に及び腰になる」——なるほど、と思った。
エピソード③:ジャニーズ(SMILE-UP.)の860億円が「猶予」された話
2023年、ジャニー喜多川氏の性加害問題が国際的に広がり、「ジャニーズ事務所」が「SMILE-UP.」に社名変更した。
ここで浮上したのが、相続税の問題だ。
ジャニー喜多川氏が2019年に亡くなった後、姉のメアリー喜多川氏が事務所を引き継ぎ、その後メアリー氏の娘・藤島ジュリー景子氏が社長に就任した。
ジャニーズ事務所の総資産は一時1000〜3000億円規模とも推計されていた。これだけの資産に相続税がかかれば、860億円前後の納税が必要になるとされていた(事務所はこの金額を否定しているが、数百億円規模であることは否定していない)。
しかし実際には「事業承継税制の特例」が使われたとみられる。
この制度、簡単に言うと——「会社の株式を相続した場合、一定条件を満たせば相続税の支払いを猶予(棚上げ)できる」というもの。
条件のひとつが「5年間、代表者であり続けること」。
ジュリー氏は2023年の記者会見で代表権を返上し、「猶予した相続税を速やかに納める」と表明した。つまり数年間、数百億円の支払いを先送りにしていたことになる。
「同じ金額を一般市民が相続したら、こんな猶予は使えない」という声が出るのは、わかる気がする。
3つのエピソードで見えてくること
3つはバラバラな話のようで、実は同じ構造の話だと思う。
誰がどういう形で資産を持つかによって、適用される税のルールがまったく違う。
株式を持ち続けた創業者一族は、相続のタイミングで想定外の巨額課税に直面する。政治家は政治資金という「抜け穴」を合法的に使える。大企業のオーナーは「事業承継税制」で支払いを先送りできる。
普通のサラリーマン家庭が親の家を相続したら、評価額によってはかなりの相続税が発生することもある。でも「特例」や「制度」を使いこなせる立場の人は、まったく別の世界を生きている。
「相続税は金持ちが払う税」だと思っていたけど、ちゃんと調べると「使いこなせる人だけが得する制度」になってる部分が多い——そういう気持ちになった。
情報元:時事通信、毎日新聞、週刊文春、東洋経済オンライン、国税庁・事業承継税制特例資料、政治資金規正法関連報道、デイリー新潮(2005〜2026年)