日産は2期連続で6000億円超の赤字を計上し、本社ビルを売り、2万人を解雇しようとしている。ホンダは2.5兆円の損失を出してEV3車種の開発を中止し、上場来初の赤字に沈んだ。一方、中国のBYDはテスラを抜いてEV世界首位に立ち、ASEANでは日本車のシェアを着々と奪っている。「クルマで食べてきた国」の産業に何が起きているのか。4つの切り口から解剖する。
2026年4月12日 | ラストニュース編集部
目次
日産とホンダはなぜ失敗したのか──2社の「転落の構造」
日産自動車の凋落は、カルロス・ゴーン前会長逮捕(2018年)を起点に語られることが多い。しかし問題の根はもっと深い。ゴーンが残した「3つの負の遺産」──ルノーとの従属的な資本関係、販売台数偏重のビジネスモデル、インセンティブ(値引き)に頼る北米戦略──は、逮捕後も温存されたまま放置された。そのツケが一気に噴出したのが2024年度だ。日産は同年度に最終赤字6708億円を計上し、2025年度も6500億円規模の赤字が見込まれている。2期連続の巨額赤字という、会社の存続を問われかねない事態だ。
再建策として2025年5月に発表された「Re:Nissan」は、2万人の人員削減と世界17工場を10工場に集約するという大規模リストラだ。しかしアナリストの間では「20年前のゴーン流リバイバルプランの焼き直し」という冷ややかな見方が多い。問題はコスト削減で解決できる話ではなく、「何を売るか」という商品・技術戦略の再設計を伴わなければ、体力が尽きる前に市場から退出を迫られる可能性もある。
一方のホンダは、別の失敗を犯した。「2040年までに全車をEVと燃料電池車にする」という野心的な宣言をしたのが2021年。その後、米国の環境規制「ACCⅡ」を見越してEV投資を加速したが、2026年にトランプ政権がその規制を事実上撤廃したことで、前提が根底から崩れた。ホンダは2026年3月期に上場来初の赤字を計上し、開発中止で最大2.5兆円規模の損失処理を余儀なくされた。三部敏宏社長は「断腸の思い」と語ったが、政策リスクの読み違えとしては、規模が桁外れだ。
2社に共通するのは、「外部環境の変化に過度に依存した戦略」だったという点だ。日産は販売数量と北米偏重という前提が崩れたとき、ホンダは規制強化という前提が崩れたとき、ともに手詰まりになった。対照的にトヨタが「マルチパスウェイ(全方位)戦略」──EV・ハイブリッド・燃料電池・水素エンジンを同時に開発する方針──を採り続けてきたことは、後から見ると保守的ではなく、むしろ賢明だったと言える。
ハイブリッドは「時代遅れ」か──日本が生んだ技術の逆襲
EV一辺倒の時代が来るという予測は、少なくとも現時点では大きく修正を迫られている。2025年のEU乗用車市場では、初めてハイブリッド車がガソリン車を抜いて首位となった(登録台数約373万台、構成比34.5%)。米国でもEV普及ペースが鈍化する中、プラグインハイブリッドや従来型ハイブリッドの販売が伸びている。「EVかハイブリッドか」という二項対立は、もはや成立しない。
トヨタはハイブリッド技術のパイオニアとして世界シェアの約6割を握り、2025年のグループ世界販売台数が過去最高の1132万台(6年連続首位)に達した。ハイブリッドという「日本発の技術」が世界の電動化トレンドの中核に位置し続けている、というのは皮肉なことだ。「EVでビハインドを負った日本の自動車産業」というナラティブが流布する中で、実はトヨタのハイブリッドは世界のリアルな需要に正確に応えていた。
トヨタの販売台数を時系列で追うと、その強さがより鮮明になる。2022年度に960万台で当時の過去最高を記録し、2024年にグループ全体で1082万台、そして2025年には単体で1054万台・グループで1132万台と、2年連続で過去最高を更新した。EVシフトが叫ばれるさなか、むしろハイブリッドへの需要が追い風となって販売を押し上げるという、皮肉な構図だ。2028年にはハイブリッド生産を現在比3割増の670万台規模に引き上げる計画で、トヨタは「ハイブリッドで稼ぐ」戦略を当面の柱として据えることを明確にしている。
では、ハイブリッドはいつまで通用するのか。業界のコンセンサスは「少なくとも2030年代前半まで」だ。BEV(バッテリーEV)の充電インフラが整備されるまでの「橋渡し役」として、新興国市場や充電設備の少ない地域ではさらに長く需要が続くと見られている。ただし、中長期的な主流がBEVに移行することはほぼ確実であり、「ハイブリッドだけで生き残れる」という思い込みもまた危険だ。
その意味で注目されるのが、トヨタが国運をかけて進める全固体電池の開発だ。従来のリチウムイオン電池と比べて、エネルギー密度が高く、充電時間が短く、安全性も向上するとされる「夢の電池」だが、量産化は長年の課題だった。トヨタは出光興産と組み、硫化物系固体電解質の量産を2027年から段階的に開始する計画を進めている。出光が2026年1月に大型パイロット装置の建設を決定しており、2027年6月に完工を目指している。さらに住友金属鉱山とは全固体電池用の正極材の共同開発を進め、2027〜28年にEV年間5〜6万台分の規模での製造開始を目標としている。全固体電池が実用化されれば、トヨタはBEVの競争においても一気に逆転のカードを切れる可能性があるが、「開発中」と「量産で競争力を持つ」の間には、まだ大きな谷がある。
国際的な主流は中国製EVが作っている──「日系の牙城」が崩れていく
2025年のグローバルEV(BEV+PHEV)販売台数は約2200万台、前年比25%増だった。その3分の2を中国が占め、BYDがテスラを抜いてEV世界首位に立った(BYD226万台 vs テスラ164万台)。中国政府はEV産業を国家戦略として位置づけ、補助金・税制優遇・国産化支援を組み合わせてBYD、小米汽車(Xiaomi Auto)、零跑汽車(Leapmotor)などを世界市場に送り出している。
かつて日本車が圧倒的なシェアを持っていたASEAN(東南アジア)市場でも、状況は変わりつつある。タイでは中国EVブランドが急速に市場参入し、「日本車の牙城」が崩れている。インドネシア・マレーシアでも同様の動きが始まっており、かつて「日本車とは品質でも価格でも戦えない」と言われていた中国メーカーが、EVという新しい土俵では完全に互角以上の戦いをしている。
日本国内でも状況は変わりつつある。BYDはすでに日本市場に参入しており、2026年夏には軽自動車EV「RACCO」の発売を計画している。国有大手の広州汽車集団も2026年中の参入を表明した。日本市場は充電インフラの未整備やハイブリッドへの高い満足度から、EV普及率が世界的に見て最低水準(2025年で2.8%前後)にとどまっているが、それは逆に言えば「今後の成長余地が大きい市場」であり、中国勢にとって魅力的なフロンティアでもある。
日本の自動車産業が今後直面するのは、EVシフトという「技術の転換」だけではない。「ソフトウェアが競争力の中心になる」という構造変化が同時に起きている。中国のEVは、車内のUI・UX、無線ソフトウェアアップデート(OTA)、AIを活用した運転支援機能という面で、日本車を大きく引き離しつつある。「クルマは走れればよい」という発想と、「クルマはスマートフォンの延長だ」という発想の差が、競争力の差として表れている。
本当の戦場は「エネルギー」ではなく「自動運転」だ
EV論争の多くは「動力源」をめぐるものだ。ガソリンか電気か水素か。しかし自動車産業の次の10年を決める本当の戦場は、「何で動くか」ではなく「どれだけ賢く動けるか」、すなわち自動運転技術にある、という見方が産業の現場では強まっている。
テスラが生み出した最大の「破壊的イノベーション」は、EVという動力源よりも、車両を「走るコンピュータ」として設計し、ソフトウェアを継続的にアップデートすることで価値を高め続けるビジネスモデルだ。中国勢も自動運転で猛追しており、2026年は「自動運転の覇権争い」が本格化する年と位置づけられている。
日本市場におけるテスラの動向も見逃せない。2025年1〜3月期の国内販売は前年同期比56%増と急拡大し、過去最高を更新した。国内の累計販売台数は約4万台に達しており、EV普及率が全体として低い日本市場において、テスラだけが例外的な成長を続けている。その背景には「ソフトウェアで差別化する」というテスラの製品哲学が、テクノロジーに敏感な日本の消費者層に刺さっていることがある。自動運転機能「FSD(Full Self-Driving)」については、2025年8月から横浜市みなとみらい地区での公道テスト走行が本格化しており、2026年内の国内限定提供が業界内で有力視されている。すでに国内販売済みのテスラ車の多くにFSDを後付け適用できる見込みで、テスラ車を「自動運転対応の資産」として保有する価値が生まれつつある。
日本の自動車メーカーは自動運転でどこに立っているのか。結論から言えば、「遅れている」だ。トヨタはウーバーやグーグル(ウェイモ)への出資、「Woven City」(静岡県裾野市に建設中の実証都市)などへの投資を通じてデータと技術の蓄積を進めているが、実用的な自動運転サービスの展開ではテスラやウェイモに後れを取っている。日産・ホンダに至っては、経営危機の中で自動運転への長期投資を維持できるかどうかすら不透明だ。
自動運転が産業を再定義するとき、現在の自動車産業の優位性──精密な機械加工技術、高い品質管理、ディーラー網──はどれほど通用するのか。答えは「限定的」だ。ソフトウェアの開発力、大量のセンサーデータを収集・学習させる仕組み、AIエンジニアの採用力。これらの競争軸では、グーグルやアップル、あるいはBYDのようなテクノロジー企業との争いになる。日本の自動車産業が真に問われているのは、100年続いた「機械産業」としてのアイデンティティを、「ソフトウェア産業」へと変革できるかどうかという、自己変革の能力だ。
主要参考情報源:
日産自動車「2万人削減と7工場閉鎖」の大リストラ(東洋経済)
ホンダがEV3車種の開発中止、2.5兆円損失(日経クロステック)
四輪電動化戦略の見直しに伴う損失の発生(Honda公式)
2025年のEU乗用車市場、初めてハイブリッド車が最多に(ジェトロ)
トヨタ、2025年世界販売で過去最高1132万台 6年連続首位(SBクリエイティブ)
テスラがEV世界首位から陥落、BYDを下回る(Bloomberg)
世界のEV販売シェア30.4%へ、出遅れる日本車(ClimateTech Japan)
テスラの自動運転、日本でも「2026年内の実装」へ(WIRED.jp)
自動運転の覇権、テスラと中国3社が争う 2026年を読む(日経モビリティ)
日本の自動車産業が直面する深刻な閉塞感(MONOist)
トヨタ、2025年の世界販売1053万台で過去最高(Car Watch)
出光とトヨタ、全固体電池の量産実現に向けた協業を開始(トヨタ公式)
テスラ日本で不買知らず、1〜3月56%増(日本経済新聞)
テスラFSD日本上陸の実現時期と使い方(EVcar life)
