石川能登地震、火事場泥棒や悪質商法の実態と警察の対応。

導入 ― 災害後の混乱と犯罪の影

2024年1月、石川県能登半島を震源とする地震が発生し、多くの家屋が損壊、住民の日常は一変した。その混乱の只中で、被災者を狙った「火事場泥棒」や「悪質商法」が頻発したという報道が相次いでいる。被災地の脆弱な治安と緊迫した状況は、犯罪者にとって絶好の隙を生む温床になり得る。

だが、これらの事件は単なる「災害下の犯罪」ではない。警察・自治体の対応能力の限界、制度の脆弱性、そして闇勢力の暗躍可能性までを照らし出す問題を内包している。本稿では、被災地に潜む犯罪の構図を、報道資料・現場証言・噂・政策視点を交えつつ立体的に描く。

報道によれば、能登半島地震では「夜間に下見をし、昼間に活動する」「被災地に見慣れないハイエースが出没」「空き巣件数24件」「盗まれる物は現金・家電・食器類」といった被害が確認された。震災直後の混乱期は、地域住民が避難して家屋が無防備となる時間帯が増えるため、犯罪が急増する傾向がある。

過去の熊本地震や阪神淡路大震災でも同様に、発生から数週間以内に空き巣・盗難が倍増した統計が残っている。社会インフラが不全となり、警察の監視が行き届かないエリアでは、犯罪者にとって「狙いやすい市場」が形成されてしまうのだ。

出典：地元警察発表および報道を基に編集部作成

被災地ではリフォーム詐欺や義援金詐欺が頻発する。ブルーシート設置を無償と称して作業に入り、後日「撤去費用」「追加工事費」を高額請求するケースがある。公式機関を装った偽の「義援金振込先」への誘導も確認されている。

出典：消費者庁資料・報道を基に編集部作成

能登半島地震では、石川県警が被災地に防犯カメラを100台設置し、警戒を強化した。しかし逮捕件数はわずか2件にとどまるなど、限界が露呈している。人員不足や交通インフラの寸断、被災者が被害届をためらう心理的要因も重なり、犯罪抑止が困難な状況だ。

物理的被害に加え、盗難や詐欺に遭うことは被災者の心を二重に傷つける。避難所で「家を守れない罪悪感」を抱く人や、「隣人すら信用できない」と語る高齢者もいる。犯罪の影は地域共同体の信頼を揺るがし、復興過程の妨げになり得る。

一部週刊誌やネット上では「特定の暴力団が被災地で組織的に火事場泥棒を展開している」という噂が流れている。公式には否定されているが、過去の震災でも反社会勢力が復興利権に関与した事例は存在する。

災害時の治安維持を制度的にどう担保するかは大きな課題だ。現行法では一時的に警察官を増員する以外に有効な手段が乏しい。治安維持のための「緊急特別法」や、自衛隊と連携した防犯活動を制度化する必要性が議論されている。

編集部による被害報道の整理

能登地震で露呈したのは、災害そのものの脅威だけでなく、人災とも呼べる「犯罪の連鎖」だった。火事場泥棒、詐欺、噂、不信感――。これらは被災者の生活を二重三重に追い詰める。

今後必要なのは、警察や自治体の即応体制強化、情報リテラシーの向上、制度改正による抜本的な再発防止である。そして何より、被災者が「再び安心して眠れる夜」を取り戻すことこそが、復興の第一歩となる。